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違法な仮差押えによる逸失利益の損害を否定した最高裁平成31年3月7日判決

 原審は,以下のとおり判示して損害賠償請求を一部認めていました。

 「 (1) 本件仮差押申立ては,当初からその保全の必要性が存在しないため違法であり,被上告人に対する不法行為に当たる。(2) 本件仮差押命令の発令当時,被上告人と本件第三債務者との取引期間は1年4箇月であり,被上告人におけるその他の大手百貨店との取引状況等をも併せ考慮すると,被上告人は,本件仮差押申立てがされなければ,本件第三債務者との取引によって少なくとも3年分の利益を取得することができた。そして,本件仮差押命令の送達を受けた本件第三債務者が,被上告人の信用状況に疑問を抱くなどして被上告人との間で新たな取引を行わないとの判断をすることは,十分に考えられ,上告人はこのことについて予見可能であったから,本件仮差押申立てと本件逸失利益の損害との間には相当因果関係がある。」

 最高裁は以下のとおり判示して破棄差戻の判断をしました。

「被上告人は,平成27年1月から平成28年4月までの1年4箇月間に7回にわ たり本件第三債務者との間で商品の売買取引を行ったものの,被上告人と本件第三債務者との間で商品の売買取引を継続的に行う旨の合意があったとはうかがわれないし,被上告人の主張によれば,上記の期間,本件第三債務者の被上告人に対する取引の打診は頻繁にされてはいたが,これらの打診のうち実際の取引に至ったものは7件にとどまり,四,五箇月にわたり取引が行われなかったこともあったというのであって,被上告人において両者間の商品の売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できるだけの事情があったということはできない。

 これらのことからすると,本件第三債務者が被上告人との間で新たな取引を行うか否かは,本件第三債務者の自由な意思に委ねられていたというべきであり,被上告人と本件第三債務者との間の取引期間等の原審が指摘する事情のみから直ちに,本件仮差押申立ての当時,被上告人がその後も本件第三債務者との間で従前と同様の取引を行って利益を取得することを具体的に期待できたとはいえない。

 そして,金銭債権に対する仮差押命令及びその執行は,特段の事情がない限り,第三債務者が債務者との間で新たな取引を行うことを妨げるものではないし,本件仮差押命令の債務者である被上告人は,前記2(1)のとおりの売上高及び資産を有する会社であったところ,本件仮差押命令の執行は,本件仮差押命令が本件第三債務者に送達された日の5日後である平成28年4月28日には取り消され,その頃,本件第三債務者に対してその旨の通知がされており,本件第三債務者が被上告人に新たな商品の発注を行わない理由として本件仮差押命令の執行を特に挙げていたという事情もうかがわれない。

 これらのことに照らせば,本件第三債務者において本件仮差押申立てにより被上告人の信用がある程度毀損されたと考えたとしても,このことをもって本件仮差押申立てによって本件逸失利益の損害が生じたものと断ずることはできない。 以上を総合すると,本件仮差押申立てと本件逸失利益の損害との間に相当因果関係があるということはできない。 」 

 弁護士としては,継続的な取引が期待できる契約関係ではないという事例での判断だと思いますが,仮差押えが違法と判断された理由と違法行為と損害の因果関係の有無の判断方法が参考になります。




相続させる旨の遺言がなされた場合の対抗要件具備に関する遺言執行者の権限

 従来、相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)がなされた場合、権利を承継した相続人が単独で登記申請することができたことから、最高裁平成11年12月16日は、遺言執行者の職務は顕在化せず、登記手続きをするべき権利も義務も有しないと判示しました。

 しかし、改正民法899条の2第1項は、法定相続分を超える権利の承継については、対抗要件なく第三者に権利の取得を対抗することができないことを規定したことから、改正民法1014条2項は、遺言執行者が、特定財産承継遺言により財産を承継する受益相続人のために対抗要件を具備する権限を有することを明確化しました。

 なお、改正民法のもとでも、受益相続人が単独で登記を申請することはできると解されています。




配偶者居住権の成立要件

 配偶者居住権は、①配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に居住しており、かつ、②⑴当該建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割がされた場合、⑵遺贈がされた場合、⑶死因贈与がされた場合に成立します(改正民法1028条)。

 改正民法1029条は、家庭裁判所が、①共同相続人の間で配偶者に配偶者居住権を取得させることについて合意が成立している場合に加えて、②配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認める場合に限り、配偶者居住権を取得させる審判をすることができることを定めています。

 配偶者居住権により、家族信託の活用場面として期待されている機能が代替できるとの評価もされていますが、附則10条2項は、施行日前にされた遺贈についてついては適用しないこととしています。




商人間の留置権

 商法521条は、商人間における特別の留置権を規定しています。

 ①当事者双方が商人であること、②被担保債権が当事者双方のために商行為であること、③留置権の目的物が債務者の所有に属する物または有価証券であること、④債務者との間における商行為によって、債務者の占有に帰したものであること(被担保債権と個別的関連性があることは要求されない点で民事留置権と異なります。占有取得の原因が債務者との商行為、例えば、債権者・債務者間の寄託契約や賃貸借契約など)、⑤被担保債権の弁済期が到来していること、が要件として定められています(521条ただし書は、特約による留置権成立の排除を認めています)。

 ③との関連で、最高裁平成29年12月14日判決は、留置の目的物に不動産が含まれると判示しました(占有を要件とせず登記の前後により優先権が決定される抵当権との競合により不動産取引の安全を害するのではないかという観点から議論がありました。)。

 また,民事留置権は,目的物が債務者の所有である必要がない点は,それぞれの留置権の沿革が異なることによるものと考えられ,合理性について疑問も生じるところです。

 商事留置権の効力は商法に規定がないことから民法296条以下の規定によることとなり、留置権者は弁済を受けるまで留置目的物を留置し、これにより生ずる果実(民法88条)を取得することはできるが(民法297条)、留置目的物を売却してその代金を自己の債権に充当することはできず、また、競売にかけることはできるが(民事執行法195条)、換価代金について優先弁済を受けることはできないこととされています。

 なお商法は、代理商(31条)、問屋(557条)、運送取扱人(562条)、運送人(574条)の留置権も定めています。 




相続による不動産承継の対抗要件に関する改正

 最高裁は、いわゆる相続させる旨の遺言(改正民法では、特定財産承継遺言)や、相続分の指定が遺言でされた場合に、登記等の対抗要件を具備しなくても、権利の取得を第三者に対抗することができるとしていました。

 改正民法899条の2第1項は、「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分〔法定相続分〕を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」と定め、相続を原因とする権利変動(遺産分割、相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈)について利益を受ける相続人は、対抗要件を備えなければ法定相続分を超える権利の取得を第三者に主張することができないこととしました。

 対抗要件を要求する範囲を法定相続分を超える部分に限定したのは、特定財産承継遺言や相続分の指定がなくても法定相続分に相当する権利については取得することができることから、相続による権利の承継について権利の競合が生じるのは、法定相続分を超える部分に限られることを理由とするものです。

 なお、理論的な問題として、受益相続人以外の相続人は(第三者に遺産を処分した)無権利者であり、その無権利者からの譲受人も無権利者であることを前提としてきた判例理論あるいは従来の考え方の整合性なり位置づけは問題となり得ると考えられます。




新しい在留資格の創設

 出入国管理及び難民認定法の改正により,「真に受入れが必要と認められる分野」に限定して新たな在留資格が創設されました。

 一つ目が,不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に属する「相当程度の知識または経験を必要とする技能」を有する業務に従事する外国人が対象となる特定技能1号であり,二つ目が,不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に属する「熟練した技能」を有する業務に従事する外国人が対象となる特定技能2号であり,入管法別表第1の2に規定されました。

 特定技能1号の在留期限は1年,6か月,または,4か月で,更新による通算の上限が5年であり,家族の帯同は基本的に認められていません。

 一方,特定技能2号の在留期限は,3年,1年,または,6か月で,更新による上限の定めがなく,家族の帯同が認められています。

 上記産業上の分野は,介護,ビルクリーニング(以上について厚労省所管),素形材産業,産業機械製造業,電気・電子情報関連産業(経産省),建設,造船・舶用工業,自動車整備,航空,宿泊(国交省),農業,漁業,飲食料品製造業,外食(農水省)が定められています。

 弁護士としては,今回の法改正を受けて大幅に改正された「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」と,「技能実習の適切な実施・技能実習生の保護を図り,人材育成を通じた開発途上国への技能または知識の移転による国際協力を推進する」ことを目的とする技能実習法とともに,制度を理解しておく必要があります。




契約書の著作物性

 著作物というためには、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの(著作権法2条1項1号)と評価される必要があります。

 東京地裁昭和40年8月31日判決は、船荷証券の用紙について、「被告ないしその取引相手方の将来なすべき契約の意思表示にすぎないのであって、原告の意思はなんら表白されていないのである。従って、そこに原告の著作権の生ずる余地はないといわなければならない」と判示しており、東京地裁昭和62年5月14日判決は、土地売買契約書の案文について、「『思想又は感情を創作的に表現したもの』であるとはいえない」と判示しています。

 創作性の程度については、表現の選択の幅を基準にする見解が有力であり、たまたま最初に契約書を作成した者に長期間の独占を認めることの弊害の観点から、著作物性を一律に否定する見解や原則的に否定する見解があります。




取引先の選択と独占禁止法

 事業者が,取引先を自由に選択することは,独占禁止法の保護法益である自由競争経済秩序の基盤として保護されるべきことから,取引拒絶の内,単独の取引拒絶は,原則として,独占禁止法上の問題は生じないと整理されますが,取引拒絶が「不当に」行われると評価された場合には,不公正な取引方法として違法となります(独占禁止法2条9項6号イ,一般指定2項)。

 「不当に」とは,独占禁止法2条9項6号柱書の「公正な競争を阻害するおそれ」を指し,流通・取引慣行ガイドラインは,「独占禁止法法上違法な行為の実効を確保するための手段として取引を拒絶する場合には違法とな」ること,「競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として取引を拒絶する場合には独占禁止法上問題となる。」ことを定めています。




校則と就業規則の拘束力の法的根拠

 校則が学生を拘束する法的根拠は、就業規則が従業員を拘束する法的根拠についての議論が参考になるかもしれません。




副業先や前勤務先の労働時間との通算と実務上の対応

1 厚生労働省から,「改正労働基準法に関するQ&A」が公表され,転勤や転職をした労働者に対して,時間外労働の上限規制がどのように適用されるかが示されました。

 大企業に対して4月1日から適用されている(中小企業に対しては令和2年4月1日から適用)新しい時間外労働の上限規制は,以下の3つとなっています。

① 36協定により延長できる時間の限度時間(月45時間,年360時間)

② 36協定に特別条項を設ける場合の1年の延長時間の限度(年720時間)

③ 時間外労働と休日労働の合計で,単月100時間未満,2~6か月平均80時間以内(なお,2~6か月の期間には,新しい上限規制の適用開始前の期間は含まれません。)

「Q&A」では,同一企業内のA事業場からB事業場へ転勤した労働者について,①と②は,事業場における36協定の内容を規制するものであるから通算されず,③は労働者個人の実労働時間を規制するためのものであり,通算して適用されるとされています。

また,質問の文中ではありますが,「副業・兼業や転職の場合,休日労働を含んで,1か月100時間未満,複数月平均80時間以内の上限規制が通算して適用されることとなりますが,」と明記されており,③の上限規制が通算して適用されるのは,転勤に限らず副業・兼業や転職の場合にも及ぶことも明らかにされています。

2 使用者としては,同一企業内で管理可能な転勤はともかく,副業・兼業や転職の場合に副業先や前の勤務先での労働時間を把握する必要があることになりますが,どのように把握するかが大問題です。

 「Q&A」では,現実的に副業先や前の勤務先から労働時間についての回答を得ることは困難であるため,「労働者からの自己申告により把握することが考えられる」としています。

 例えば採用面接の際に応募者が,前の勤務先で月80時間を超える時間外労働,休日労働を行っていたと申告した場合,採用する会社側としては,時間外労働,休日労働を極力制限したとしても,前の勤務先の時間外労働,休日労働を通算すると「2~6か月平均80時間」を超過する可能性があり,前職を退職後からある程度の期間を空けて採用する,採用をあきらめる等を考えなければなりません。

 また,採用された労働者が,採用面接の際に前の勤務先での時間外労働,休日労働を過少に申告していた場合,前の勤務先と現在の勤務先を通算すると上限規制に違反している,という事態も想定されます。

 さらに,応募者が前の勤務先での時間外労働の時間が分からない,あるいは,あいまいな回答をするような場合には,どの程度まで調査をすればよいのかについても非常に悩ましい事態が考えられます。




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