1 裁判所から選任される破産管財人の弁護士は、まず、内容証明による請求により、受益者とされる方に任意で支払いを求めることが通常です。電話で請求の内容の補足説明をすることも考えられます。さらに、裁判所の許可を得て、否認の請求、さらに、否認の訴えに進む可能性もあります。
2 否認の請求は、破産管財人の弁護士が裁判所に申立てることにより手続きが開始され、破産管財人は、否認の原因となる事実を、書証により疎明する必要があります。手続きの中で、受益者とされる方が、裁判所で事情を聴かれる可能性もあります。否認の請求では、上記のとおり、「疎明」、すなわち、一応確からしいという心証を形成することができれば足り、否認の訴えよりは、破産管財人弁護士による立証のハードルは低い手続きといえるでしょう。
3 否認の訴えがなされた場合には、通常の訴訟と同様に、否認の要件を立証するための証拠は書証に限られることはなく、破産者や受益者とされる方等の主観的な要件を中心に証人尋問が行われることが想定されます。したがって、他の手続きと比べて長期間を要することが想定されます。売買契約を念頭におくと、具体的な争点として、受益者とされる方が、①売主である破産者が実質的危機時期の状態にあることを知らなかったこと、または、②当該売却行為が責任財産を減少させる効果をもつものであることを知らなかったことのいずれかを立証する必要があることになります。知らなかったことの立証は、ないことの立証と同じく、一般的には簡単ではないとされていますが、具体的な事情を踏まえて、裁判所が判断することになります。
4 破産管財人は、裁判所と協議して、勝訴の見込みや回収可能性、想定される時間や費用を考慮して、どこまで行うか、和解的な処理するべきかを、随時、検討することになります。
1 カルテの開示については、診療情報の提供等に関する指針の7⑴に、「医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならない。」と規定されています。なお、7⑴には、「診療記録の開示の際、患者等が補足的な説明を求めたときは、医療従事者等は、できる限り速やかにこれに応じなければならない。この場合にあっては、担当の医師等が説明を行うことが望ましい。」と規定されています。
2 日本医師会が定める診療情報の提供に関する指針[第2版]3-3も同様に定めています。さらに、4ー1では、医師の求めによる診療情報の提供を定めています。
3 個人情報保護法33条は「本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの開示を請求することができる。」と定めており、保有個人データにカルテが該当すると考えられており、また、手術を録画した動画も保有個人データに該当すると考えられます。
4 弁護士としてカルテ開示を検討する場面も多いですが、比較的規模の大きい医療機関では、ウェブサイトに具体的な手続きや費用などが掲載されていることも多い印象です。
1 特商法は、弁護士が相談を受けることが比較的多い法律ですが、改正が多く、要件も複雑で、早急な対応を要することも多い印象があります。
2 連鎖販売取引に該当する要件である「特定利益」について、令和4年6月22日付特定商取引に関する法律等の施行についての第3章において、以下のとおり解説がなされています。
「法」とは、特商法を指しています。
「特定利益」とは、再販売等を行う者を勧誘する際の誘引となる利益であり、法第33条第1項は「その商品の再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする他の者又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあっせんをする他の者が提供する取引料その他の主務省令で定める要件に該当する利益の全部又は一部」と定義し、省令第24条において、特定利益の要件を規定している。
「その商品の再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする他の者又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあっせんをする他の者」とは、組織の他の加盟者のことであるが、現に加盟している者である必要はなく、加盟しようとする者を含むものである。
例えば「あなたが勧誘して組織に加入する人の提供する取引料の○○%があなたのものになる。」と勧誘する場合は省令第24条第1号に該当し、「あなたが勧誘して組織に加入する人が購入する商品の代金(提供を受ける役務の対価)の○○%があなたのものになる。」と勧誘する場合は同条第2号に該当し、「あなたが勧誘して組織に加入する人があれば統括者から一定の金銭がもらえる。」と勧誘する場合は同条第3号に該当する。これらの同条に規定する利益は、いずれも組織の外部の者ではなく、組織の内部の者(組織に加入することとなる者を含む。)の提供する金品を源泉とするものであり、組織の外部の者(一般消費者)への商品販売による利益(いわゆる小売差益)は含まれない。
3 以上の解説から、「特定利益」とは、組織の外部の者ではなく、組織の内部の者(又は組織に加わろうとする者)から提供される金品を源泉とするものを指していることは明らかであり、組織外の者、例えば最終消費者から支払われる役務提供の対価は、特定利益に該当しないことになります。
少年事件とは、一般に、20歳未満の男子あるいは女子が刑事事件などを犯した場合について定めた、少年法に基づいて行われる手続きをいいます。
少年事件あるいは少年法の理念として、少年の未成熟・可塑性が指摘されます。
少年の可塑性の高さから、犯罪を行った少年も適切な措置をすれば健全な社会人として育つ可能性が高いということを意味し、単に制裁として、成人と同様の刑罰(手続きを含む。)を科すよりも、少年本人にとっても、社会にとっても利益が大きいという価値判断がある。
重要な定義として、以下のものがあります。
⑴ 少年(少年法2条1項)
20歳未満の男女
⑵ 犯罪少年(少年法3条1項1号)
罪を犯した少年
⑶ 触法少年(少年法3条1項2号)
14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年
⑷ 虞犯(ぐはん)少年(少年法3条1項3号)
将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞(おそれ)のある少年
したがって、犯罪行為をしていない少年であっても家庭裁判所に送致される。
⑸ 18歳、19歳の少年を特定少年と定義すること
改正少年法(令和4年4月1日施行)は、「20歳に満たない者」という少年について実質的な定義(少年法2条1項)を変更せず、特定少年を「18歳以上の少年」と定義し(改正少年法62条1項)、以下のような特定少年の特別の扱いを定める。
ア 特定少年については、罰金以下の刑に当たる罪の事件も逆送が可能となり(少年法62条1項)、原則逆送事件として故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件で16歳以上の少年に係るもののほか、死刑または無期若しくは短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件で、犯行時特定少年だった場合が追加。強盗や建造物等以外放火などの犯情の幅の広い類型が対象となった。
イ 17歳以下の時期のぐ犯でも、特定少年に達すると手続をすすめることができなくなる。
ウ 特定少年のときに犯した事件について、公判請求された場合には、その時点から推知報道の禁止を解除すること(少年法68条)。マスコミ各社で異なる対応になることもある。
さらに重要な制度、手続きとして以下のものがあります。
⑴ 全件送致主義
検察官は、事案が軽微と判断しても、少年を家庭裁判所に送致しなければならない。基本的な流れとして、警察署・検察庁→鑑別所→家庭裁判所・審判
⑵ 家庭裁判所調査官による調査
弁護士は「付添人」という肩書で活動する。
捜査段階で弁護人選任届を提出していても、家庭裁判所に送致されてから改めて付添人選任届を提出する必要がある。
⑶ 審判の資料になる証拠が、法律記録(捜査記録)・社会記録という区分けがなされる。
社会記録は、付添人であっても、謄写はできない。
⑷ 審判は非公開で、検察官は原則出席しない
いわゆる運転免許取消処分は、免許自体の取消処分と、運転免許を受けることができない期間を指定する処分が含まれており、請求の趣旨として、例えば、「●県公安委員会が、日付けで原告に対してした運転免許取消処分及び同日から●年間を運転免許を受けることができない期間として指定する処分をいずれも取り消す」といった記載が考えられます。
なお、優良運転者である旨の記載のない運転免許証が交付されたことについて、当該更新処分の取消しと優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行う更新処分の義務付けを請求した事案として、最高裁平成21年2月27日判決があります。
同最高裁判例は、客観的に優良運転者の要件を満たす者であれば優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を有することが肯定されるとして、訴えの利益を肯定しています。
通読したもの、軽く目を通したものも含めて。
ぎょうせい「事例からわかる相談担当者のための障害者差別解消ガイドブック」
ボーンデジタル「クリエイターのための権利の本改訂版」
翔泳社「クリエイター六法受注から制作、納品までに潜むトラブル対策55」
日本加除出版「弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール第2版」
民事法研究会「事例に学ぶ著作権事件入門 事件対応の思考と実務」
技術評論社「良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方改定第3版」
商事法務「コーポレートガバナンス・コードの解説」
日経BP「コーポレートガバナンス・コードの実践第3版」
弘文堂「上場会社法」
日経BP「この保険、解約してもいいですか?」
改正前民法733条は、再婚禁止期間を定めていました。
最高裁平成27年12月16日判決が出される前は、6か月とされていましたが、同最高裁は、嫡出推定の重複を回避するために必要な期間の限度でしか正当性を有しないと判断されたことにより、平成28年6月に成立した改正法以降は、100日とされていました。
令和6年4月1日施行の改正民法では、嫡出推定の重複によって父が定まらない事態が生じることはなくなり、女性の再婚禁止期間を廃止することができることになったという流れです。
嫡出推定に関する主な変更点は以下のとおりです(嫡出推定に関する改正は、いわゆる無戸籍者問題への対応策として検討されたものです)。
婚姻成立から200日以内に生まれた子(妻が婚姻前に懐胎し婚姻成立後に出生した子)に嫡出推定がなされる。
※ 改正前の「推定されない嫡出子」について、嫡出推定がなされることになりました。
母が前夫以外の男性と再婚した後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定される。
※ 婚姻の解消・取消しから300日以内に出生した子に嫡出推定がなされる改正前の規律は維持しつつ、再婚した場合に例外の扱いとして、再婚後の夫の子と推定される規律が導入されたことになります。
上記とともに、嫡出否認に関する否認権者の拡大(子や母、再婚後の夫の子と推定される子について前夫)や出訴機関の延長が導入されたことも弁護士は確認しておく必要があります。
なお、子自身による否認権行使に関する改正民法778条の2第2項は、子が父と継続して同居した期間が3年を下回る場合に、子が21歳に達するまでの間に行使することができることが定められました(父による養育の状況に照らして父の利益を著しく害さない場合という要件が定められています。)。
1 仮執行宣言付の敗訴判決について上告提起・上告受理申立てをした場合にも、控訴提起を行った場合と同じく、強制執行の停止の申し立てをすることができる旨、民事訴訟法403条1項2号が定めています。
ただし、その要件は、①原判決の破棄の原因となるべき事情があること、及び、②判決により償うことができない損害を生ずるおそれがあることについての疎明が必要であり、控訴の場合の要件である、①原判決の取消し・変更の原因となるべき事情がないとはいえないこと、または、②執行により著しい損害を生ずるおそれがあること、と比べると、かなり厳しい要件であることが明らかです。
申立書には、上告理由・上告受理申立て理由に記載するべき内容(憲法の違反があること、絶対的上告理由があること、判決に影響を及ぼすことが法令の違反があること)を記載することが要求されます。
さらに、事後的に金銭賠償がされたとしても補償することができない損害であることの疎明も求められますし、提供が求めらる担保の額も多くなることが通常と考えられています。
2 強制執行停止の申立てを行い、裁判所が認容する場合には、担保提供命令を発し、法務局に供託したことを証する書面(供託書)を裁判所に提出することにより強制執行停止決定が出されます。
刻一刻を争う状況で、以上の書面のやりとりを裁判所と法務局で行う必要があり、また、供託する金額が大きい場合には、電子納付や振込等の選択なども非常に神経を使います。
また、担保提供命令の決定は、書面でなされることが通常と考えられますが(主文は、例えば、「申立人は、本決定の告知を受けた日から7日以内に、担保として金●万円を供託しなければならない。」というようなものです。)、口頭で告知することでも可能とされており(電話で告知されます。)、供託時に不安になる要素となります。
控訴提起時の場合の主文は、例えば、「前記仮執行宣言付判決に基づく強制執行は、本案控訴事件の判決があるまで、これを停止する。」というようなものです。
3 それでは、上告提起・上告受理申立て時に供託が必要となる金額は、控訴提起時に供託した金額の差額を供託すればよいのでしょうか?
この点については、差額を供託すればよいとは考えられておらず、上告・上告受理申立て時の担保提供命令の金額を供託しなければ、供託が受け付けられることはなく、強制執行停止命令も出されません。
さらに、上告・上告受理申立て時の担保提供命令の金額を供託した場合にも、控訴の際に供託した供託金を取り戻すことができないと判断した大阪地裁昭和36年2月20日決定があり、民事訴訟を取り扱う弁護士としては注意が必要です。
この点は、強制執行の停止によって相手方に生じる損害(執行が遅れたことによる原告の損害)を担保するという趣旨からは、大きな疑問があります。
実務上、判決により認容された金額よりも、求められる担保の合計額が優に超える決定が出されることさえあります。
4 上告・上告受理申立ての際に、上記の事情等により強制執行停止の申立てが得られない場合には、一旦は敗訴当事者が支払いを行うべき場合もありますが、最高裁で結論が覆った場合には、清算の手続き(回収の手間等)が必要となることも別途想定しておく必要があります。
勝訴当事者、敗訴当事者いずれの代理人弁護士であったとしても、対応に悩ましい問題があります。
会社法136条は、譲渡制限株式を第三者に譲渡しようとする場合、当該株主は、会社に対し、譲り受けようとする者の氏名等の事項を明らかにしたうえで、その譲渡を承認するかどうかの決定をするように請求することができることを定めています。
会社は承認するか否かを決定して通知する必要がありますが、株主の請求の日から2週間以内に通知をしないと、原則として承認する決定をしたものとみなされます(会社法145条1号)。
同時に、株主が、譲渡の承認をしないときに会社または会社が指定する者が買い取るよう請求することもでき、会社が承認しないときには、会社が買い取る決定若しくはか買い取る者を指定することが必要となります(会社法140条)。
さらに、会社または会社が指定した者が1株当たりの純資産額に対象となる株式数の数を乗じた額を本店所在地の供託所に供託して通知することが必要となり(会社法141条1項、会社法142条1項、会社規則25条)、通知をしない場合には第三者への譲渡が承認されたものとみなされてしまいます(会社法145条2号)。
特に交通事故の刑事責任が問題になる場合、同時並行的に、免許の取消処分の手続きが行われることが通常であり、弁護士の立場からアドバイスを行うべき場合も多くあります。
例えば、聴聞の手続きを経て免許取消処分が行われ、その後刑事手続きとしては不起訴処分となった場合にはどのように考えるべきでしょうか。
故意が問題となるような構成要件について、検察官は、取調べの結果やそれまでの捜査も踏まえて、不起訴処分にした場合、その構成要件該当性について嫌疑が十分ではないことを理由に不起訴にしたものと考える場合が多いと考えられます。
道路交通法上の行政処分と刑事処分は、目的や手続を異にするものであり、相互に独立した処分であることは当然のことではありますが、免許取消処分を行うに当たり検察庁とは異なる独自の資料が認定に用いられたとは考えられず、基本的には刑事記録のみにより処分をされていることや、不起訴処分と近接した日に行われていること等からは、行政処分と刑事処分とは全く同様の事情に基づき判断がされているといえる場合が多いでしょう。
それにもかかわらず、刑事処分において不起訴とされた事実を認定して、全く逆の事実認定に基づき免許取消処分という行政処分を行うことについて、行政処分と刑事処分の目的の違いという抽象的な理由だけでは、一般市民の強い違和感を払拭することはできないでしょう。
審査請求の審理は、愛知県では、愛知県警察本部交通部運転免許課が原処分の正当性を主張する書面を提出し、愛知県公安委員会(窓口は、愛知県警察本部警務部監察官室)が判断することになっています。
証拠として収集されているドラレコの映像を確認することができ、刑事事件捜査とは証拠のアクセスの観点から異なる規律が採用されています。