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シンガー・ソーイング・メシーン・カムパニー事件の事実関係

 シンガー・ソーイング・メシーン・カムパニー事件最高裁判決(最判昭和48年1月19日民集27巻1号27頁)は、退職金債権の放棄の有効性が問題となった事案で、労働者の自由な意思に基づくと認め得る合理的な理由が客観的に存在するときは有効との判断基準を示し、結論として退職金債権の放棄を有効と判断したことで有名な最高裁判例です。

 実際の事実関係は、以下のとおりであり、労働事件を扱う弁護士としては、結論と合わせて理解しておくべきだと思います(最高裁判例を一部引用。上告人が労働者。①当該労働者がそれなりの地位にあったこと、②競争関係にある他の会社に就職することが判明していたこと、③旅費等の使用に疑惑が生じていた点に対する損害の填補を会社が求めた経緯で書面が作成されたことに要約できると思います)。

 「原審の確定するところによれば、上告人は、退職前被上告会社の西日本における総責任者の地位にあつたものであり、しかも、被上告会社には、上告人が退職後直ちに被上告会社の一部門と競争関係にある他の会社に就職することが判明しており、さらに、被上告会社は、上告人の在職中における上告人およびその部下の旅費等経費の使用につき書面上つじつまの合わない点から幾多の疑惑をいだいていたので、右疑惑にかかる損害の一部を填補する趣旨で、被上告会社が上告人に対し原判示の書面に署名を求めたところ、これに応じて、上告人が右書面に署名した」




要件事実マニュアル(第6版)

 名古屋地裁の期日に出頭する際には、愛知県弁護士会にある名法書店に寄るのがここ数年のルーティンになっています。

 本日は、10時からの期日と10時30分からの期日の間に、名法書店に寄ったところ、岡口基一裁判官の要件事実マニュアル全5巻が並んでいました。

 改訂されるたびに購入していますが(最近も、同書に掲載されていた裁判例を引用した準備書面を提出したところです。)、今回の改訂は、債権法の改正以外にも、第5版以降の多くの法改正を反映したものになっているようです。




刑の一部執行猶予

 刑の一部執行猶予制度は平成28年6月から施行されています。

 刑の一部執行猶予制度は、言い渡された実刑期間のうち、一定期間を執行して施設内処遇した上で、残りの期間の執行を猶予し、相応の期間執行猶予の取消しによる心理的強制の下で社会内処遇により更生をうながすことによりその者の再犯防止、改善更生を図る制度とされています。

 実刑と(全部)執行猶予の中間ではなく、実刑の一種という理解が正当ともされています。

 刑法27条の2第1項は、「再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」と定めていますが、①施設内処遇及び仮釈放のみでは再犯の抑止が困難な被告人について、②仮釈放の期間を超えて行う再犯抑止に有用な社会内処遇が具体的に想定でき、③その実効性期待できる場合に、必要性・相当性を肯定できるとされています。

 弁護士としては、依頼者である被告人の意向も踏まえつつ、法律上は全部執行猶予を付すことができる場合でも、一部執行猶予を意識した弁護活動が求められる場合があるといえるでしょう。

 

 

 

刑法
(刑の一部の執行猶予)
第二十七条の二 次に掲げる者が三年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
 前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。
 前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき懲役又は禁錮があるときは、第一項の規定による猶予の期間は、その執行すべき懲役若しくは禁錮の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。
(刑の一部の執行猶予中の保護観察)
第二十七条の三 前条第一項の場合においては、猶予の期間中保護観察に付することができる。
 前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
 前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、第二十七条の五第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。
(刑の一部の執行猶予の必要的取消し)
第二十七条の四 次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十七条の二第一項第三号に掲げる者であるときは、この限りでない。
 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられたとき。
 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとき。
 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき。
(刑の一部の執行猶予の裁量的取消し)
第二十七条の五 次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
 第二十七条の三第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき。
(刑の一部の執行猶予の取消しの場合における他の刑の執行猶予の取消し)
第二十七条の六 前二条の規定により刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の禁錮以上の刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならない。
(刑の一部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
第二十七条の七 刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その懲役又は禁錮を執行が猶予されなかった部分の期間を刑期とする懲役又は禁錮に減軽する。この場合においては、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行を受け終わったものとする。
薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律
(趣旨)
第一条 この法律は、薬物使用等の罪を犯した者が再び犯罪をすることを防ぐため、刑事施設における処遇に引き続き社会内においてその者の特性に応じた処遇を実施することにより規制薬物等に対する依存を改善することが有用であることに鑑み、薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関し、その言渡しをすることができる者の範囲及び猶予の期間中の保護観察その他の事項について、刑法(明治四十年法律第四十五号)の特則を定めるものとする。
(定義)
第二条 この法律において「規制薬物等」とは、大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)に規定する大麻、毒物及び劇物取締法(昭和二十五年法律第三百三号)第三条の三に規定する興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する毒物及び劇物(これらを含有する物を含む。)であって同条の政令で定めるもの、覚醒剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)に規定する覚醒剤、麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)に規定する麻薬並びにあへん法(昭和二十九年法律第七十一号)に規定するあへん及びけしがらをいう。
 この法律において「薬物使用等の罪」とは、次に掲げる罪をいう。
 刑法第百三十九条第一項若しくは第百四十条(あへん煙の所持に係る部分に限る。)の罪又はこれらの罪の未遂罪
 大麻取締法第二十四条の二第一項(所持に係る部分に限る。)の罪又はその未遂罪
 覚醒剤取締法第四十一条の二第一項(所持に係る部分に限る。)、第四十一条の三第一項第一号若しくは第二号(施用に係る部分に限る。)若しくは第四十一条の四第一項第三号若しくは第五号の罪又はこれらの罪の未遂罪
 麻薬及び向精神薬取締法第六十四条の二第一項(所持に係る部分に限る。)、第六十四条の三第一項(施用又は施用を受けたことに係る部分に限る。)、第六十六条第一項(所持に係る部分に限る。)若しくは第六十六条の二第一項(施用又は施用を受けたことに係る部分に限る。)の罪又はこれらの罪の未遂罪
 あへん法第五十二条第一項(所持に係る部分に限る。)若しくは第五十二条の二第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪
(刑の一部の執行猶予の特則)
第三条 薬物使用等の罪を犯した者であって、刑法第二十七条の二第一項各号に掲げる者以外のものに対する同項の規定の適用については、同項中「次に掲げる者が」とあるのは「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成二十五年法律第五十号)第二条第二項に規定する薬物使用等の罪を犯した者が、その罪又はその罪及び他の罪について」と、「考慮して」とあるのは「考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第一項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが」とする。
(刑の一部の執行猶予中の保護観察の特則)
第四条 前条に規定する者に刑の一部の執行猶予の言渡しをするときは、刑法第二十七条の三第一項の規定にかかわらず、猶予の期間中保護観察に付する。
 刑法第二十七条の三第二項及び第三項の規定は、前項の規定により付せられた保護観察の仮解除について準用する。
(刑の一部の執行猶予の必要的取消しの特則等)
第五条 第三条の規定により読み替えて適用される刑法第二十七条の二第一項の規定による刑の一部の執行猶予の言渡しの取消しについては、同法第二十七条の四第三号の規定は、適用しない。
 前項に規定する刑の一部の執行猶予の言渡しの取消しについての刑法第二十七条の五第二号の規定の適用については、同号中「第二十七条の三第一項」とあるのは、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第四条第一項」とする。




所得税法157条1項の同族会社の行為計算否認規定

 所得税法157条1項で規定されているいわゆる同族会社の行為計算否認規定の適用は、経済的、実質的見地において当該行為又は計算が合理的経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かが基準とされ、①異常もしくは変則的か、②租税回避以外に正当で合理的な理由もしくは事業目的がないかという観点から、所得税の負担が不当に減少されていないかが判断されることと一般に考えられています。

 同規定が適用された場合に,他の税目,例えば法人税法上の課税の調整がされるべき場合については,それを調整する規定として平成18年に所得税法157条3項が定められたと考えられているようです。

 なお,同規定の適用が問題と一応なった裁判例として,大阪高判平成30112TAINS Z8882207、大阪地判平成30419TAINS Z888‐2201があります。

 厳密には,訴訟段階では,必要経費該当性を否定し,同族会社の行為計算否認規定の適用の解釈論及び具体的なあてはめまでは検討されていません。

 ほかに,理由付記が不十分である旨の納税者側の主張もありましたが,認められていません。

 上記裁判の納税者側の代理人弁護士には,同志社大学の占部教授がついており,同教授の関連する最近の論考として,「所得税法における必要経費の概念と判断基準 : 直接関連性要件と必要性要件はどのように用いられているか 」があります。




公訴権の逸脱・濫用

 最高裁昭和55年12月17日決定は,検察官による公訴権の逸脱・濫用について,以下のとおり述べています。

 「検察官は,現行法制の下では,公訴の提起をするかしないかについて広範な裁量権を認められているのであって,公訴の提起が検察官の裁量権の逸脱によるものであるからといって直ちに無効となるものでないことは明らかである。たしかに,右裁量権の行使については種々の考慮事項が刑訴法に列挙されていること(刑訴法248条),検察官は公益の代表者として公訴権を行使すべきものとされていること(検察庁法4条),さらに,刑訴法上の権限は公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ誠実にこれを行使すべく濫用にわたってはならないものとされていること(刑訴法1条,刑訴規則1条2項)などを総合して考えると,検察官の裁量権の逸脱が公訴の提起を無効ならしめる場合のありうることを否定することはできないが,それはたとえば公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られるものというべきである。」

 公訴権濫用については,①嫌疑なき起訴,②訴追裁量権の逸脱,③違法捜査に基づく起訴の3類型に分けて議論されるのが一般的ですが,②の類型について,「差別的起訴」という言葉で表現して研究する論文として,黒川享子「差別的起訴について」があり,同論文では,近年の差別的不起訴の主張がほとんど退けられている一因として差別的起訴の立証方法が確立されていないという分析をしています。

 また同論文では,アメリカの議論を参考に,当該起訴が平等保護条項に違反していないか否かという訴訟条件の問題であることを明確にするべきこと等を主張されています。

 弁護士が刑事事件の弁護人として,公訴提起を無効と主張するべき場面は多くはありませんが,理論的な整理をしておく意義はあると考えられます。




内定者への就業規則の適用について

 内定の法的性質を始期付解約権留保付労働契約の成立と解釈することが実務上通説となっており,事案によって「就労始期付」と「効力発生始期付」に分けて考えるべき場合があると考えられていますが,両者を区別する基準が必ずしも判然としないこと等により,判断を二分化することについては疑問を呈する立場もあります。

 就労始期付と判断される場合には,労働契約上の拘束関係は内定時から生じるため,就労を前提としない範囲,例えば,企業の名誉・信用の保持,秘密保持等については,就業規則の適用や業務命令による義務付けが肯定されやすくなります。

 一方,効力発生始期付と判断される場合には,入社日までは労働契約の効力は発生していないので,就業規則の適用や業務命令による義務付けは否定的と解されます。




主債務者の保証人に対する情報提供義務(民法465条の10)

1 改正民法465条の10第1項は,主債務者の保証人に対する情報提供義務を課しています。提供すべき情報の具体的内容は,①財産及び収支の状況,②主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況,③主たる債務の担保として他に提供し,又は提供しようとするものがあるときは,その旨及びその内容が規定されています。

2 情報提供義務を負うのは,債権者ではなく主債務者ですが,民法465条の10第2項は,主債務者が情報を提供しない,あるいは,事実と異なる情報を提供した場合には,債権者がそのことを知り又は知ることができたときは,保証人が保証契約を取り消すことができると定めています。
 要するに,主債務者が情報提供をしなかったことを債権者が「知ることができたとき」にも保証契約の取消しが可能となることから,債権者としては,主債務者が民法465の10第1項に規定された情報提供を正しく行ったかどうかの調査を行うべきことになります。
3 どの程度の調査を行う必要があるかについては,債権者に厳格な調査義務を課すものではなく,こういう説明を受けたという書面を保証人から提出させれば,原則として十分であり,保証人から債務者の説明の内容を聞く必要はないと考えられているようです。
4 保証人が代表取締役の場合についても,保証人に対する情報提供義務について免除される規定はないため,当然適用されることになり,保証人である代表取締役が情報提供義務の対象となる事項について誤認し,それによって保証契約の締結をした場合に,債権者がそのことを知っていたか知ることができた時に保証契約が取り消されることになります。
 しかし,そのような事態はごくまれだとおもわれ,「代表者が資料を有していること等を確認するなどの簡易な方法をとれば足りると解される。」という見解も主張されています(立法を担当した裁判官や弁護士が執筆している筒井健夫ほか「Q&A改正債権法と保証実務」〔金融財政事情研究会〕)。
 
改正民法第四百六十五条の十 主たる債務者は,事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは,委託を受ける者に対し,次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
一 財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状
三 主たる債務の担保として他に提供し,又は提供しようとするものがあるときは,その旨及びその内容
2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず,又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし,それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において,主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは,保証人は,保証契約を取り消すことができる。
3 前二項の規定は,保証をする者が法人である場合には,適用しない。

 




千葉市に事務所を開設しました。

 千葉駅近くに,弁護士法人心千葉法律事務所を開設しました。

 千葉駅には1回くらいしか行ったことがありませんが,南船橋駅にはサークルの関係で10回ほど行ったことがあります。




国会召集要求があった場合に合理的期間内に国会を召集するのは憲法上の法的義務であると判断した那覇地裁令和2年6月10日判決

 国会議員である原告らが,その他の国会議員とともに,平成29年6月22日,内閣に対し,憲法53条後段に基づき,衆議院及び参議院の臨時会の召集を要求したところ,それから98日が経過した同年9月28日まで臨時会が召集されなかったことについて,内閣は合理的な期間内に臨時会を召集するべき義務があるのにこれを怠ったものであり,その結果,原告らは臨時会において国会議員としての権能を行使する機会を奪われたなどと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,被告に対し,損害賠償請求した事案です。

 裁判所の憲法53条後段についての判示は以下のとおりです。

 「憲法53条後段は,「いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば,内閣は,その召集を決定しなければならない。」 と定めており,この規定の趣旨は,前記のとおり,少数派の国会議員による臨時会の召集要求を認め,内閣ではなく少数派の国会議員の主導による議会の開催を可能にするという趣旨に基づくものと解され,その文言からも,内閣は憲法53条後段に基づく要求を受けた場合,臨時会を召集すべき憲法上の義務があるというべきである。」

「しかし,内閣が,憲法53条後段に基づき,臨時会召集の要求を行った 個々の国会議員に対して,憲法上,臨時会召集の義務を負担するものかどうかは,同条後段の文言上からは必ずしも明らかでない。この点,国会議員には憲法上,歳費請求権(憲法49条),不逮捕特権(憲法50条),発言表決の無答責(憲法51条)といった権利が認められるところ,これらの権利に係る条文は,いずれも「両議院の議員」を主語としており,文言上も,議員としての具体的権利を定めていることが明らかであるが,憲法53条後段はそのような規定となっておらず,ほかに憲法上,個々の国会議員に内閣に対する臨時会の召集要求権を認める趣旨の明文の規定は見 当たらない。また,憲法53条後段は,「議院の総議員の4分の1以上」の召集要求に対して内閣が臨時会の召集をしなかった場合の具体的効果について規定しておらず,内閣に臨時会の召集を強制することができる旨をうかがわせる規定も存在しない(ただし,このことをもって,憲法53条後段に基づく内閣の臨時会の召集義務が単なる政治的義務にとどまるも のと解することはできない。)。そして,憲法53条後段は,「議院の総議員の4分の1以上の要求」がある場合に内閣に臨時会の召集を義務付けているところ,その文言からは,「議院の総議員の4分の1以上の召集要求」があった場合に,内閣に臨時会を召集するべき憲法上の義務が生じるものと 解するのが自然であって,それを超えて,「議院の総議員の4分の1以上の召集要求」があった場合において,内閣が,当該召集要求をした個々の国会議員に対し,臨時会を召集する(国賠法1条1項の)職務上の法的義務を負担することまでを規定したものとはただちにはいえない。なお,臨時会の召集要求をした「議院の総議員の4分の1以上」の国会議員総体について,憲法上,内閣に対する臨時会の召集要求権を観念した上で,内閣は,召集要求をした「議院の総議員の4分の1以上」の国会議員総体に対し,臨時会を召集する(国賠法1条1項の)職務上の法的義務があると解する余地もあるが,この場合において,内閣が召集要求をした国会議員に対し, 国賠法1条1項に基づく損害賠償義務を負うと解するならば,結局,個々の国会議員に対する内閣の臨時会の召集義務を認めたことと同一の結果となる。そして,憲法53条後段に基づき召集される臨時会には,召集要求をした国会議員のみならず召集要求をしなかった国会議員も出席することが予定されるところ,憲法53条所定の臨時会の召集要求があったにもかかわらず,内閣が臨時会を召集しなかったというような場合(不当に臨時会の召集を遅延した場合も含む。)には,召集要求をした国会議員のみなら ず,召集要求をしなかった国会議員もその出席の機会を奪われることになるが,召集要求をしなかった国会議員についてまで,内閣が国賠法1条1 項所定の損害賠償義務を負うものとは考えにくい。そうすると,仮に内閣が本件召集要求を行った国会議員に対してのみ国賠法1条1項所定の損害賠償義務を負うと解した場合には,召集要求を行った国会議員と行って いない国会議員とを区別することとなるが,いずれの国会議員も「全国民の代表」(憲法43条1項)として基本的には同一の地位ないし役割(多様な国民の意向を汲みつつ国民全体の福祉の実現を目指して行動することなど)を有することに照らすと,臨時会の召集が適法に行われないという全国会議員にとって共通の出来事について,召集要求をした個々の国会議員に対してのみ,国賠法1条1項に基づく損害賠償を認めるというのは,いささか不自然の感を否めない。そして,国賠法1条1項は,民法709 条と同様,公務員が故意または過失により違法に国民の権利利益を侵害して,国民が具体的な損害を被ったという場合に,その損害を賠償させることにより,被害者である国民が被った具体的な損失を回復させることを目的とするものと考えられるところ,憲法53条後段所定の召集要求がされ たにもかかわらず,内閣が当該召集要求に従わずに臨時会を召集しなかっ たというような場合において,当該召集要求をした国会議員が被る不利益ないし損失というものは,臨時会における自由な討論等を通じて「全国民の代表」としての国会議員の役割を果たすことができなくなるというもの であり,こうした臨時会を開催されることによる国会議員としての利益は,極めて政治的な性格を有するものであって,国会議員の個人的な利益(私 益)ではなく,国民全体のための利益(公益)といえるものである。そうすると,憲法53条後段に基づく召集要求があったにもかかわらず,内閣が適法に臨時会を開催しないといった事態は,当該召集要求をした個々の国会議員に対する金銭賠償を行うことによっててん補されることで回復するといった性質のものとは考えにくいところであって,国賠法がある行為を違法と評価することによってその行為の適法性を確保するという機能を営むものであるとしても,このような場合の救済として,国賠法1条1項に基づく損害賠償を認めることは,国賠法1条1項の制度趣旨に必ずしも沿うものとはいえない。そして,前記のとおり,内閣に臨時会の召集 を強制することができる旨をうかがわせる規定も存在していないことか らすると,国賠法1条1項に基づく損害賠償を認めることによって,事実上,内閣に対し,臨時会の召集を間接的に強制する結果となることも憲法 20 上は予定されていないものと考えられる。」として,国賠法上の違法性を否定しています。

 弁護士としては,統治行為論についての判示も確認しておくべき重要な裁判例といえると思います。




退職者に対する給与支払い及び退職金支払い時期についての考え方

 給与の支払いについて,例えば末締め10日払いの定めを賃金規程に定め実際そのように運用している場合には,労働基準法24条が定める賃金支払いについての諸原則に反することはないと一般的に考えられています。

 ところが,労働者が退職または死亡した場合については別の取扱をすることが求められます。

 すなわち労働基準法23条1項は,労働者が退職又は死亡した場合について,「7日以内に賃金を支払い,積立金,保証金,貯蓄金その他名称の如何を問わず,労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。,」と定めています。

 したがって,退職者から請求があった場合には,7日以内に給与を支払わなければならないことになります。

 退職金についても労働基準法23条1項の「賃金」に該当するものと一般に考えられており,労働基準法23条1項の適用により7日以内に支払うことが必要とも考えられますが,行政解釈では,あらかじめ就業規則等で定められた支払時期に支払えば足りるものとされており,実務上もそのように取り扱われていますが,法解釈の観点から,弁護士としては若干気になる部分もあります。




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