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WEB期日導入の影響

 裁判所は、いわゆるWEB期日としてTEAMSを利用した書面による準備手続きにより、審理を進行することが昨年から多くなりました。

 私の経験でも、金沢地裁や東京地裁に昨年から今年にかけて係属した事件でも、一度も出頭することなくWEBや電話を利用した進行により、終結しました。

 WEB期日の導入により、移動時間を考慮する必要性がなくなったことから、別々の裁判所に係属している事件でも、例えば30分おきに予定を入れることも可能となったことは、訴訟案件を多く有する弁護士にとっては大きなメリットといえます。

 一方で、高等裁判所では、電話による審理は行われますが、WEB期日が導入されていないことは留意しておくべきことといえると思います。 

 また、WEB期日は当然事務所のパソコンを使って参加することになるため、その30分後に同じ裁判所の出頭を要する期日を入れることができないことは注意が必要です。

 WEB期日は、労働審判でも利用されるなど、地方裁判所においてはかなり広く利用されています。




 犯人が他人を教唆して自己を蔵匿させ又は隠避させる行為と刑法103条の罪の教唆犯の成否について判断した最高裁令和3年6月9日判決

 犯人が他人を教唆して自己を蔵匿させ又は隠避させた場合に、刑法103 条の罪の教唆犯が成立するかについて学説上は争いがありますが、成立するとするのが最高裁の立場であり、今回の最高裁もその旨判示しました。

 刑法学が専門で東京大学名誉教授であり、いわゆる弁護士枠で最高裁判事に就任したとされる山口厚裁判官が、犯人に犯人隠避・蔵匿罪の教唆犯が成立するべきではないことについて、以下のとおり、反対意見を述べています。

「刑法103条は、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者(以下「犯人」という。)が自ら行う蔵匿・隠避行為を処罰の対象としていない。それは、犯人が自ら逃げ隠れしても「蔵匿」したとはいわないし、「隠避させた」という要件は犯人隠避罪に該当する行為を行う者が犯人以外の者であることを前提としていると理解できるからである。このように、犯人による自己蔵匿・隠避行為は同条が定める構成要件に該当していない。この理由として、原判決のように、それらの行為も同条の規定が保護する刑事司法作用に侵害を与え得るものではあるものの、犯人の刑事手続における当事者性を考慮して政策的に処罰を限定したものであるなどと説明されることがあるが、このような処罰の政策的な限定を理論的に表現したものが、「犯人には期待可能性が認められない。」とする説明である。当審判例は、犯人が他人を教唆して、自らを蔵匿・隠避させた場合は、処罰を限定する上記立法政策の射程外であり、教唆犯として処罰の対象となるとしてきた。それを支える根拠・理由として幾つかのことが指摘されているが、犯人が一人で逃げ隠れするより、他人を巻き込んだ方が法益侵害性が高まるとの指摘がされることがある。このこと自体には理由があると考えられるが、他人の関与により高められた法益侵害性は、教唆された正犯者を処罰することによって対応し得るものであり、法益侵害性の高まりから犯人を教唆犯として処罰すべきことが直ちに導かれるわけではない。結局、正犯としてではなく、教唆者としては犯人を処罰の対象とし得ると解することは、「正犯としては処罰できないが、教唆犯としては処罰でき る」ことを認めるものであり、この背後には、「正犯は罪を犯したことを理由として処罰され、教唆犯は犯罪者を生み出したことを理由として処罰される。」といういわゆる責任共犯論の考え方が含まれ、犯罪の成否を左右する極めて重要な意義がそれに与えられているように思われる。このような共犯理解は、他人を巻き込んだことを独自の犯罪性として捉え、正犯と教唆犯とで犯罪としての性格に重要な差異を認めるものであり、相当な理解とはいえないであろう。なぜなら、正犯も教唆犯も、犯罪結果(法益侵害)と因果性を持つがゆえに処罰されるという意味で同質の犯罪であると解されるからである。このような共犯理解によれば、正犯が処罰され ないのに、それよりも因果性が間接的で弱く、それゆえ犯罪性が相対的に軽い関与形態である教唆犯は処罰されると解するのは背理であるといわざるを得ない。」

 この山口裁判官の指摘が理論的に正しいと思われ、最高裁の今回の判断は残念な印象です。




仮想通貨の大暴落と暗号資産(仮想通貨)交換業者の対応

 いわゆる仮想通貨は、通貨という側面よりは投資の対象と考えられらることも多いと思います。

 弁護士が取り扱う業務との関係では、相続や財産分与、倒産手続き時の評価や税務上の処理で問題となることがあります。

 仮想通貨が暴落している局面では、できるだけ早期に売却したいという方もいれば、できるだけ早期に購入したいという方もいると思います。

 暗号資産取扱業者のサイトがダウンし、取引ができなくなってしまった場合の法的な責任は悩ましい問題だと思います。




社債に利息制限法は適用されるか(最高裁令和3年1月26日判決)

 社債に利息制限法が適用されるかについては、従来から議論がありました。

 社債への利息制限法の適用が一律に適用されると、指数連動債や利益参加社債等の商品性が失われるという指摘もあったところです。

 破産した会社の破産管財人弁護士が、当該会社が発行した社債についての社債権者に利息制限法1条所定の制限を超えて利息として支払った金額を元本に充当すると過払金が発生していると主張して,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還等を求めた事案において、最高裁令和3年1月26日判決は、原審が事実関係のいかんにかかわらず,社債には利息制限法1条の規定は適用されないと判示したのに対し、「債権者が会社に金銭を貸し付けるに際し,社債の発行に仮託して,不当に高利を得る目的で当該会社に働きかけて社債を発行させるなど,社債の発行の目的,募集事項の内容,その決定の経緯等に照らし,当該社債の発行が利息制限法 の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められるなどの特段の事情がある場合には,このような社債制度の利用の仕方は会社法が予定しているものではないというべきであり,むしろ,上記で述べたとおりの利息制限法の趣旨が妥当する。 そうすると,上記特段の事情がある場合を除き,社債には利息制限法1条の規定 は適用されないと解するのが相当である。」と判示しました。

  社債の会社法上の規制、すなわち、社債は,会社が募集事項を定め,会社法679条所定の場合を除き,原則として引受けの申込みをしようとする者に対してこれを通知し(同法677条1 項),申込みをした者の中から割当てを受ける者等を定めることにより成立するものである(同法677条2項,3項,678条,680条1号)ことや,会社が定める募集事項の「払込金額」と 「募集社債の金額」とが一致する必要はなく,償還されるべき社債の金額が払込金額を下回る定めをすることも許されると解される(同法676条2号,9号参照) などの点や、金融商品取引法上の規制、すなわち、金融商品取引法2条1項に規定する有価証券として同法の規制に服することにより,その公正な発行等を図るための措置が講じられている点などが理由として挙げられています。




改正個人情報保護法16条の2(不適正な利用の禁止)

 個人情報保護法が改正され、原則として令和4年4月1日に施行されます(同法83条から87条の法定刑の引き上げについては、令和2年12月12日から施行されています)。

 同法16条の2により、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法で個人情報を利用するこが禁止されることになりました。

 立法の背景には、官報公告を利用してインターネット上の地図と破産者の氏名等を関連付けて公開した破産者マップの事件や、類似のサイトの問題が発生したことが挙げられ、規制対象として、①差別を誘発する利用方法、②違法な行為を営むことが疑われる者への個人情報の提供、③不当要求対策のための反社会的勢力等の名簿の開示などが具体例として挙げられていますが、同条が、「不当な」行為も含めていることから、規制範囲が広範になる可能性もあり、相談を受ける弁護士としては注意が必要です。

 なお、「送達を受けるべき者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合」に公示送達をすることができる旨の改正もなされました(改正個人情報保護法58条の4第1項1号)。




いわゆる「同一労働同一賃金」の法的意味

 日本で導入された正規・非正規の格差是正のための同一労働同一賃金ガイドラインや、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条による法的規制は、①賃金に限られないすべての労働条件に関するものであること、②通勤手当や福利厚生施設の利用等においては「同一労働」ではなくても同一扱いをするべきか議論されるべきこと、③そもそも「同一労働」を要件とすることなく不合理な労働条件の相違を禁止しようとする内容であること等から、法的には誤解を招く表現であると考えられます。

 正確には「不合理な相違禁止規制」とも呼ぶべきだと考えられますが、令和2年10月に出された5つの最高裁判決を踏まえた短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律対応を内容とする最近出版された弁護士執筆の実務書のタイトルは、「最新同一労働同一賃金27の実務ポイントー令和3年4月完全施行対応ー」(新日本法規)、「同一労働同一賃金対応の手引き(第2版)」というように、スローガン的な分かりやすさを重視したものになっています。

 なお、ジュリスト最新号の特集名は「正規・非正規の不合理な待遇格差とはー5つの最高裁判例を契機に」となっています。

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条(不合理な待遇の禁止)

 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。




医療機関に対する個別指導・監査対応

 先日、愛知県弁護士会主催の「業務開拓!行政弁護士への誘い~保険医に対する指導・監査への弁護士の関与~」を受講しました。

 保険医療機関の指定及びこれに対する指導・監査の場面において、指定権限庁からの不相当な指導・監査も報告されているということで、弁護士が関与することの必要性が高い分野といわれており、講師の井上清成弁護士から、豊富な実務経験を踏まえた実践的な内容と、根拠となる最低限の条文、若干の裁判例が紹介されました。

 参考文献として紹介された社会保険診療研究会編「医師のための保険診療入門2020」(じほう)のほか、進藤勝久著「保険審査委員による保険診療&請求ガイドライン2020-21年版」(医学通信社)、厚労省のサイト(保険診療における指導・監査)などを確認しています。




割賦販売法の改正とクレジットカード・セキュリティガイドライン【2.0版】

1 令和3年4月1日施行される改正割賦販売法の改正の概要は以下のとおりです。

⑴ 従来の包括支払可能見込額調査に代わる与信審査手法によることを許容する「認定包括信用購入あつせん業者」の創設

⑵ 極度額10万円以下の包括信用購入あつせん業を営む事業者の新たな登録制度による規制を合理化する「登録少額包括信用購入あつせん業者」の創設

⑶ 新たなクレジットカード番号等の保持主体を適切管理義務の主体に追加するため、クレジットカード番号等の適切管理の義務主体の拡充

⑷ 利用者の事前の承諾を要することなく、電子による利用明細等の提供を行うことを許容する、書面交付の電子化

⑸ 業務停止命令の導入

2 クレジットカード・セキュリティガイドライン【2.0版】は、上記1⑶によりクレジットカード番号等の適切管理義務者として追加された事業者を、「決済代行業者等」及び「コード決済事業者等」として定義した上で、当該事業者に求められる指針対応について以下のような改正をおこなっています。

(1) 決済代行業者等(割賦販売法35条の16第1項第4号又は第7号該当事業者)

 ① PCI DSS に準拠し、これを維持・運用する。

 ② 非保持化(非保持と同等/相当を含む)の対策を講じている対面取引は、当該対策に加え、リスクに応じた必要なセキュリティ対策を講じるとともに、適切な管理運営を行う。

(2) コード決済事業者等(割賦販売法35条の16第1項第5号又は第6号該当事業者)

 ① PCI DSS に準拠し、これを維持・運用する。

 ② コード決済事業者等から委託を受けてカード情報を他の決済情報により特定できる状態で管理している事業者についてもPCI DSSに準拠し、これを維持・運用する。




労働者に対する損害賠償請求の裁判例

1 使用者の労働者に対する損害賠償請求について、最高裁昭和51年7月8日判決は、「使用者の事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他の諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」と判示しています。

2 労働者の責任制限の基準は、①労働者の帰責性(故意・過失の有無・程度)、②労働者の地位・職務内容・労働条件、③損害発生に対する使用者の寄与度(指示内容の適否、保険加入による事故予防・リスク分散の有無等)とされています(菅野和夫「労働法 第12版」163頁)。

3 裁判例については、判例タイムズ1468号5ページの村木洋二裁判官の「被用者が使用者又は第三者に損害を与えた場合における使用者と被用者の間の賠償・求償関係」に掲載されている裁判例一覧が非常に参考になります。

 以下に、比較的弁護士として相談にのることの多い類型についての裁判例をいくつか紹介します(交通事故類型は除きます)。

⑴ 福岡地裁平成30年9月14日判決

 長距離トラックの運転手であった労働者が突然失踪したことにより受注していた運送業務が履行不能となった事案で、「労働者は、労働契約上の義務として、具体的に指示された業務を履行しないことによって使用者に生じる損害を、回避ないし減少させる措置をとる義務を負うと解される」と判示し、履行不能となった業務の受注金額から経費を控除した金額について労働者の損害賠償義務を認めた。

⑵ 東京地裁平成17年12月14日判決

 予算が決められた工事を発注する場合には予算を超えて発注することは許されておらず、金額を決めずに発注することも許されていないにもかかわらず、建設会社の製作推進部統括部長が見積りを取ることなく発注をし、これを隠蔽したまま退職したことに対して、会社が取引先に支払った金額を損害賠償請求した事案で、損害賠償義務を認めた。

⑶ 東京地裁平成15年12月12日判決

 中古車販売会社の店長が、客から代金全額が入金されてから納車するという会社のルールを知りながら、入金がない段階で車両を客に引渡して回収不能となった事案で、損害賠償義務を認めた。

⑷ 大阪地裁平成11年1月29日判決

 課長の地位にあった労働者が、見積価格での商品の仕入れが可能であったにもかかわらず、あえて1割高い価格で仕入れをした行為が会社の利益に反する背任行為に当たるとして、退職金の不支給及び会社からの損害賠償請求を認めた。

⑸ 東京地裁平成4年9月30日判決

 労働者が入社約1か月後の退職により会社に与えた損害200万円を賠償する旨の合意が有効であると判断し、うち70万円の損害賠償義務を認めた。




旧労働契約法20条に関する最高裁判決とパート有期雇用法8条の解釈

 令和2年10月に旧労働契約法20条に関する5つの最高裁判例、すなわち、退職金が問題となったメトロコマース事件、賞与及び私傷病による欠勤中の賃金問題となった大阪医科薬科大学事件、年末年始勤務手当、有給の病気休暇に係る相違、年始期間の祝日給に係る相違、有給の夏季冬季休暇に係る相違が問題となった日本郵便事件3件(東京、大阪、佐賀)が出ました。

 令和2年4月1日から施行されている短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(いわゆる「パート有期雇用法」)8条の解釈の先例的意義を有するかが議論されています。

 大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件の各最高裁判決が当該労働条件の性質・目的とは無関係に旧労働契約法20条に規定する諸事情を考慮に入れている点で、当該労働条件の性質及び目的に照らして適切と認められる事情を考慮するというパート有期雇用法8条に合致しないことを理由にその先例的意義を疑問視する見解も主張されているところです。

 労働事件を扱う弁護士は、平成30年に出されたハマキョウレックス事件最高裁判決及び長澤運輸事件最高裁判決と合わせて、最高裁判例の考え方を整理しておく必要があります。

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条

事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。




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