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管理監督者該当性が否定された場合に、管理監督者に該当することを前提に支払っていた管理職手当が不当利得に当たるとされた東京高裁令和元年12月24日判決

 残業代請求がされた場合に、使用者側の抗弁として当該労働者が管理監督者に該当することを主張する場合があります。

 使用者が管理職手当を支払っている場合もありますが、当該労働者の管理監督者性が否定された場合に、支払っていた管理職手当が不当利得に該当するとしたのが、東京高裁令和元年12月24日判決です(労働判例1235号40頁)。

 最高裁が令和2年9月25日不受理決定により確定しており、支払い済みの管理職手当について不当利得を理由とする反訴がなされていました。

 ざっくりまとめると、使用者側は当該労働者を労基法上の管理監督者に該当すると誤解して管理職手当を支払っていたのであるから、管理監督者に該当しない当該労働者は管理職手当を受給することはできないことになり、したがって管理職手当に相当する金額の受領は法律上の原因がなく不当利得に該当するとしたものです。

 弁護士がこの裁判例の射程がどのような場合に及ぶのかを検討するに際しては、管理監督者扱いされていた労働者に対する手当がどのような趣旨の手当なのかの慎重な検討が重要と考えられます。




建材メーカーが、石綿含有建材の製造販売に当たり、当該建材が使用される建物の解体作業従事者に対し、当該建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険があること等を表示すべき義務を負っていたとはいえないとした最高裁令和4年6月3日判決

1 建物の解体作業等に従事した後に石綿肺、肺がん等の石綿(アスベ スト)関連疾患にり患した方が、建材メーカーらに対し、当該疾患へのり患は、建材メーカーらが、石綿含有建材を製造販売するに当たり、当該建材が使用される建物の解体作業等に従事する者に対し、当該建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険があること等(以下「本件警告情報」という。)を表示すべき義務を負っていたにもかかわらず、その義務を履行しなかったことによるものであるなどと主張して、不法行為等に基づく損害賠償を求めた事案に関する判断が示されました。

2 事実関係の概要は以下のとおりです。

⑴ 石綿は、天然に産出される繊維状けい酸塩鉱物(クリソタイル、クロシドライト等)の総称であり、耐熱性等にその特長を有し、建材等に広く使用されてきた。我が国で使用されてきた石綿含有建材には、壁や天井の内装材として用いられるスレートボード及びけい酸カルシウム板、外壁や軒天の外装材として用いられるスレート波板等があった。

⑵ 鉄骨造建物の工事においては、躯体となる鉄骨の耐火被覆として、石綿とセメント等の結合材を混合した吹付け材が用いられていた。建物の解体工事において、石綿含有建材の切断、破砕、除去等をする際に、当該建材に含まれる石綿が粉じんとなって発散し、解体作業従事者が石綿粉じんにばく露することがあった。

⑶ 石綿関連疾患には、石綿肺、肺がん等がある。石綿肺は、石綿粉じんを大量に吸入することによって発生する疾患であり、じん肺の一種である。肺がんは、肺に発生する悪性腫瘍の総称である。石綿粉じんのばく露量と肺がんの発症率との間には、直線的な量反応関係(累積ばく露量が増えるほど発症率が高くなること)が認められる。

⑷ 石綿粉じんへのばく露と石綿関連疾患のり患との間の因果関係に関しては、石綿肺につき昭和33年3月頃に、肺がん、中皮腫等につき昭和47年頃にそれぞれ医学的知見が確立し、昭和48年までに当該知見を基礎付ける研究報告等が国際機関等により公表されていた。

3 原審は、建材メーカーらの不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容したが、最高裁は以下のとおり判示して建材メーカーらの責任を認めませんでした。

⑴ 石綿含有建材の中には、吹付け材のように当該建材自体に本件警告情報を記載することが困難なものがある上、その記載をしたとしても、加工等により当該記載が失われたり、他の建材、壁紙等と一体となるなどしてその視認が困難な状態となったりすることがあり得る。

⑵ 建物において石綿含有建材が使用される部位や態様は様々であるから、本件警告情報を記載したシール等を当該建材が使用された部分に貼付することが困難な場合がある上、その貼付がされたとしても、当該シール等の経年劣化等により本件警告情報の判読が困難な状態となることがあり得る。本件警告情報を記載した注意書及びその交付を求める文書を石綿含有建材に添付したとしても、当該建材が使用された建物の解体までには長期間を経るのが通常であり、その間に当該注意書の紛失等の事情が生じ得るのであっ て、当該注意書が解体作業従事者に提示される蓋然性が高いとはいえない。

⑶ 建材メーカーは上記の貼付又は交付等の実現を確保することはできないし、その製造販売した石綿含有建材が使用された建物の解体に関与し得る立場になく、建物の解体作業は、当該建物の解体を実施する事業者等において、当該建物の解体の時点での状況等を踏まえ、あらかじめ職業上の知見等に基づき安全性を確保するための調査をした上で必要な対策をとって行われるべきも のということができる。

4 弁護士としては、いわゆる泉南アスベスト、建設アスベストに関する最高裁判例やその成果としての救済制度の理解(石綿(アスベスト)工場で勤務していた方向けの制度として厚労省ホームページ、建設アスベスト給付金制度について厚労省ホームページ)と残されている論点の確認、アスベストに関する各救済法の理解、労災手続きやその他の特別法の確認も必要かもしれません。




薬物再濫用防止プログラム

 保護観察に付されることとなった犯罪事実に指定薬物又は規制薬物等の所持・使用等に当たる事実が含まれる仮釈放者又は保護観察付執行猶予者(特別遵守事項で受講を義務付けて実施)に対して保護観察所によって実施されます(薬物再濫用防止プログラムの概要)。

 覚醒剤の自己使用の事案などが典型例です。

 まず2週間に1回程度計5回のコアプログラムが実施され、その後、月に1回程度ステップアッププログラムと呼ばれる課程が保護観察終了まで実施されることになります。

 定期的に尿検査も行われ、民間の医療機関との連携も行われます。

 対象者の意向を踏まえた運用がなされており、保護観察が付されることが前提になる点など、弁護士として制度の理解を前提に、依頼者の意向を確認する必要があります。




司法試験短答試験の合格発表

 先日実施された司法試験の短答式試験の合格発表があり各法科大学院別の合格者も発表されています。

 受験者3060人の内2494人が合格しています。

 予備試験合格者は、405人の内404人が合格しています。




強制採尿令状の発付に違法があっても尿の鑑定書等の証拠能力は肯定できるとされた最高裁令和4年4月28日判決

1 最高裁令和4年4月28日第一小法廷判決は、強制採尿令状の発付手続きに違法があったとしても、当該令状に基づいて得られた尿の鑑定書等の証拠能力は肯定できる旨判示しました。

 刑法学者出身の山口厚裁判官、弁護士出身の岡正晶裁判官が関与していますが、全員一致の判断でした。

2 捜査の経過等の事実関係は以下のとおり認定されています。

⑴ 警察官らは、令和元年7月26日に別件大麻取締法違反で現行犯逮捕した者 (以下「参考人」という。)の尿から覚醒剤が検出されたことから、覚醒剤の入手先について参考人を取り調べ、「被告人から何度か覚醒剤を買った。」旨の供述を得るとともに、被告人に覚醒剤事犯の多数の犯歴があること(被告人は覚醒剤取締法違反の前科7犯を有し、平成16年以降の前科は覚醒剤自己使用の罪又はこれを含む罪による4犯であって、平成30年12月に最終前科による服役を終えていた。)を確認するなどした。

⑵ A警部は、令和元年10月15日、福岡簡易裁判所裁判官に対し、被告人について、覚醒剤の譲渡を被疑事実とする被告人方等の捜索差押許可状及び覚醒剤の自己使用を被疑事実とする被告人の尿を採取するための捜索差押許可状(以下「本件強制採尿令状」ともいう。)を請求したが、これに先立ち、警察官が被告人に接触するなどしたことはなかった。本件強制採尿令状請求書記載の犯罪事実(以下 「本件犯罪事実」という。)の要旨は、「被疑者は、令和元年10月上旬頃から同月15日までの間、福岡県内又はその周辺において、覚醒剤若干量を自己の身体に摂取し、もって覚醒剤を使用したものである。」というものであった。A警部は、本件強制採尿令状請求の疎明資料である捜査報告書に、「被疑者の過去の採尿状況」として、平成20年から平成31年4月までの間、4回任意採尿を拒否して強制採尿を実施し、うち2回は鑑定の結果覚醒剤の含有が認められ、そのうち1回は任意採尿を拒否した後逃走し、令状の再請求後に強制採尿を行ったこと、「強制捜査の必要性」として、被疑者は過去に任意で尿を提出したことはなく、捜索時警察官に対し、「令状がないと応じない」旨の言動を繰り返しているため、警察官の説得に応ずる可能性は極めて低いものと認められ、過去に強制採尿令状の請求準備中に逃走したことがあるので、同令状の取得が必要不可欠であること、覚醒剤の「味 見」をしなければ密売人として活動できないことから、被疑者が自己使用している蓋然性が高いことなどを記載した。また、A警部は、平成27年と平成31年に被告人に対して任意採尿の説得をした際に作成された捜査報告書も疎明資料として添付した。同裁判所裁判官(以下「令状担当裁判官」という。)は、令和元年10月15 日、上記各許可状を発付した。

⑶ B警部補らは、同月16日、被告人方に行き、被告人方等の捜索差押許可状を執行したが、その際、被告人は痩せて頰がこけており、会話はできるがろれつが回らない状態で、立ち上がるとふらふらしていた。B警部補は、この様子を見て覚醒剤使用を疑い、被告人に対して尿を任意提出するよう求めたが、被告人はこれを拒否した。その後も、B警部補は、被告人に対して尿の任意提出を求め、これを促すなどしたが、被告人がいずれも拒否したことから、本件強制採尿令状を執行した。B警部補は、被告人に対して被告人方で尿を出してほしい旨伝え、しばらく待ったものの、被告人が排尿しなかったため、同令状記載の医院に被告人を連行し、同医院内のトイレで被告人に採尿容器を渡して自然排尿を促したが、被告人が不正な行為をするような様子が見られたことから、自然排尿を打ち切り、その後、医師によりカテーテルを用いた採尿が行われた。採取した尿を鑑定したところ、覚醒剤の含有が認められた。

3 原判決は、以下のように理由の要旨を述べ、本件鑑定書等の証拠能力は認められないとして、訴訟手続の法令違反の控訴趣意をいれ、第1審判決を破棄し、被告人に対して無罪を言い渡した。

 本件犯罪事実について、強制採尿令状を発付するに足りる嫌疑があったとは到底認められず、最終的手段としての強制採尿の必要性の点でも、本件強制採尿令状の 発付は要件を欠いた違法なものであり、同令状の執行としての強制採尿手続も違法である。本件強制採尿令状の法規範からの逸脱は甚だしく、上記各要件の重要性に 照らせば、この違法は深刻なものである。本件では、捜査機関によるずさんな、ま た、不当に要件を緩和した令状請求に令状担当裁判官のずさんな審査が加わって、事前の司法的抑制がなされずに令状主義が実質的に機能しなかったのであり、こうした本件一連の手続を全体としてみると、その違法は令状主義の精神を没却するような重大なものである。そして、本件鑑定書等を証拠として許容することは、本件 のような違法な令状が請求、発付されて、違法な強制採尿が行われることを抑止する見地からも相当でないと認められる。

4 最高裁は以下のとおり述べて、証拠能力を肯定しています。

 被疑者の体内からカテーテルを用いて強制的に尿を採取することは、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合に は、最終的手段として、適切な法律上の手続を経て、被疑者の身体の安全と人格の保護のための十分な配慮の下にこれを行うことが許されると解するのが相当である (最高裁昭和54年(あ)第429号同55年10月23日第一小法廷決定・刑集 34巻5号300頁参照)。本件においては、参考人の供述内容と被告人の犯歴等を併せ考えても、本件強制採尿令状発付の時点において、本件犯罪事実について同令状を発付するに足りる嫌疑があったとは認められないとした原判断が不合理であるとはいえない。また、前記のような被告人の過去の採尿状況に照らすと、被告人が本件当時も任意採尿を拒否する可能性が高いと推測されるものの、原判決も説示するとおり、同令状請求に先立って警察官が被告人に対して任意採尿の説得をしたなどの事情はないから、同令状発付の時点において、被告人からの任意の尿の提出が期待できない状況にあり適当な代替手段が存在しなかったとはいえない。したがって、同令状は、被告人に対して強制採尿を実施することが「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合とは認められないのに発付されたものであって、その発付は違法 であり、警察官らが同令状に基づいて被告人に対する強制採尿を実施した行為も違法といわざるを得ない。

 しかしながら、警察官らは、本件犯罪事実の嫌疑があり被告人に対する強制採尿の実施が必要不可欠であると判断した根拠等についてありのままを記載した疎明資料を提出して本件強制採尿令状を請求し、令状担当裁判官の審査を経て発付された適式の同令状に基づき、被告人に対する強制採尿を実施したものであり、同令状の執行手続自体に違法な点はない。同令状発付の時点において、嫌疑の存在や適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、被告人に対する強制採尿を実施することが「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合であるとは認められないとはいえ、この点について、疎明資料において、合理的根拠が欠如していることが客観的に明らかであったというものではない。また、警察官らは、前記のような態度等を示した被告人に対して、直ちに同令状を執行して強制採尿を実施することなく、尿を任意に提出するよう繰り返し促すなどしており、被告人の身体の安全や人格の保護に対する一定の配慮をしていたものといえる。そして、以上のような状況に照らすと、警察官らに令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったともいえない。これらの事情を総合すると、本件強制採尿手続の違法の程度はいまだ令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえず、本件鑑定書等を証拠として許容することが、違法捜査抑制の見地から相当でないとも認められないから、本件鑑定書等の証拠能力は、これを肯定することができると解するのが相当である。 

5 強制採尿に関する最高裁昭和55年10月23日第一小法廷判決は、司法試験の勉強を始めた当時、このような捜査手法が許されるのかと衝撃を受けた記憶があります。

 同最高裁が要件として判示していた「犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合に は、最終的手段として、適切な法律上の手続を経て」等を踏まえた判断とは言えないのではないかと考えられます。なお、覚醒剤の自己使用が、「被疑事件の重大性」の要件を満たすのかという素朴な疑問もありますが、このこと自体は前記最高裁が前提としていることになります。




改正民法、改正労働基準法前後の残業代の消滅時効期間

1 令和2(2020)年4月1日以前に発生した残業代は2年で時効消滅し、令和2(2020)年4月1日以降に発生した残業代は3年で時効消滅します(民法及び労働基準法が改正されたことによります)。
 なお、「裁判上の請求」を行わなくても、口頭あるいは書面で残業代の請求をすれば6カ月間は消滅時効の完成が猶予されます。
 消滅時効は、毎月の給与支払い日ごとに期間の経過とともに消滅することから、消滅時効にかかる可能性のある期間の残業代について、弁護士は、消滅時効が完成しないよう法的措置をとるか、消滅時効が完成しないように書面による残業代の承認を求めたり、合意による消滅時効の完成猶予の対応を検討することになります。
2 残業代請求における「裁判上の請求」は、一般的に、「労働審判」と「訴訟」が考えられます。
⑴ どちらも裁判所で行われる手続きですが、早期解決を求める場合は労働審判を,法律論、事実認定をを厳密に審理するのが訴訟手続きと一般的に考えられています。
 訴訟の場合,こちら側が譲歩することにより早期に和解することもありますが、判決が出るまでには1年から1年半程度,場合によってはそれ以上かかることもあります。
⑵ 訴訟の場合は,未払いの残業代があると判断された場合には、裁判所の判断で、法律上その額を上限とする付加金の支払いが命じられることがあります。

 




催告によらない契約の一部解除と代金減額請求権の要件

1 催告によらない解除一般について、民法542条に定められており、同条1項1号から5号は以下のとおり要件を定めています。

一 債務の全部の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達成することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

2 また、契約の一部解除について同条2項が以下のとおり定めています。

一 債務の一部の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

3 一方、債権法の改正で明文化された売買契約の代金減額請求権について、民法563条が定めており、同条2項が催告によらない代金減額請求権を以下のとおり定めています。

一 履行の追完が不能であるとき。

二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。

四 前3号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。




刑事裁判の流れ

 刑事裁判は、ざっくり以下の流れですすみます(依頼者の方にもこのように説明することが多いです)。

1 冒頭手続き

⑴ 人定質問

  本人確認をします。

  本籍や、住所、職業等が確認されます。

⑵ 起訴状朗読

  検察官が起訴した事実について、起訴状を朗読します。

  直前に、裁判官が起訴状を受け取っているかを確認することが通常です。

⑶ 黙秘権の告知

  裁判官が、公判廷において、ずっと黙っていることもできるし、言いたいことだけ言って、言いたくないことについてだけ言わなくてもよいこと、ただし、公判廷で言った内容は、本人に有利にも不利にも扱われることの説明があります。

⑷ 罪状認否

  起訴状の内容について、間違っている、正しい等の意見を述べます。

⑸ 弁護士の意見

  起訴状の内容について弁護人の意見を述べます。

2 検察官による請求証拠調べ

  有罪にするための証拠として、裁判所に見てほしい証拠を出します。

3 弁護士による請求証拠調べ

  弁護人が裁判所に見てほしい証拠を提出します。

  情状証人の証人尋問や、被告人質問も行われます。

4 検察官による論告・求刑

  起訴された内容の評価や、検察官が妥当と考える求刑の意見が述べられます。

5 弁護人による弁論

  被告人に有利な事情を述べます。

6 被告人によるコメント

  被告人質問に加えて述べておきたいことを被告人が述べます。

7(後日)判決の言い渡し

  裁判官が判決を言い渡します。




会計限定監査役の任務懈怠について判断した最高裁令和3年7月19日判決の判断

 最高裁令和3年7月19日判決は、会計限定監査役だった税理士、公認会計士の任務懈怠を否定した東京高裁判決を差し戻しました(令和3年度重要判例解説商法7番でも紹介されています。)。

 原審の東京高裁令和元年8月21日判決が、会計限定監査役の責任の範囲をかなり限定した判断をしていました。

 弁護士や監査役を引き受ける可能性のある方に重要と思われる、任務懈怠の判断に関する最高裁の判断と草野補足意見を紹介します(特徴的な部分にアンダーラインをつけました。とくに弁護士出身の草野裁判官の補足意見では、会計限定監査役が、税理士や公認会計士である場合にも、原則として責任が加重されるわけではないという趣旨の判示がみられます。)。

1 最高裁の判断部分

「監査役設置会社(会計限定監査役を置く株式会社を含む。)において,監査役は,計算書類等につき,これに表示された情報と表示すべき情報との合致の程度を確かめるなどして監査を行い,会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見等を内容とする監査報告を作成しな ければならないとされている(会社法436条1項,会社計算規則121条2項 (平成21年法務省令第7号による改正前は149条2項),122条1項2号 (同改正前は150条1項2号))。 

 この監査は,取締役等から独立した地位にある監査役に担わせることによって,会社の財産及び損益の状況に関する情報を提供する役割を果たす計算書類等につき(会社法437条,440条,442条参照),上記情報が適正に表示されていることを一定の範囲で担保し,その信頼性を高めるために実施されるものと解される。そうすると,計算書類等が各事業年度に係る会計帳簿に基づき作成されるものであり(会社計算規則59条3項(上記改正前は91条3項)),会計帳簿は取締役等の責任の下で正確に作成されるべきものであるとはいえ(会社法432条1項参照),監査役は,会計帳簿の内容が正確であることを当然の前提として計算書類等の監査を行ってよいものではない。

 監査役は,会計帳簿が信頼性を欠くものである ことが明らかでなくとも,計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な 点において適正に表示しているかどうかを確認するため,会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め,又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである。そして,会計限定監査役にも,取締役等に対して会計に関する報告を求め,会社の財産の状況等を調査する権限が与えられていること(会社法389条4項,5項)などに照らせば,以上のことは会計限定監査役についても異なるものではない。

 そうすると,会計限定監査役は,計算書類等の監査を行うに当たり,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても,計算書類等に表示さ れた情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではない。 」

「被上告人が 任務を怠ったと認められるか否かについては,上告人における本件口座に係る預金の重要性の程度,その管理状況等の諸事情に照らして被上告人が適切な方法により監査を行ったといえるか否かにつき更に審理を尽くして判断する必要があり,また,任務を怠ったと認められる場合にはそのことと相当因果関係のある損害の有無等についても審理をする必要がある」

2 草野補足意見

会計限定監査役は,公認会計士又は監査法人であることが会社法上求められていない以上,被上告人が公認会計士資格を有していたとしても,上告人の監査に当たり被上告人にその専門的知見に基づく公認会計士法2条1項に規定する監査を実施すべき義務があったとは解し得ないという点である(会社計算規則121条2項が同法2条1項に規定する監査以外の手続による監査を容認しているのはこの趣旨によるものであろう。)。次に,監査役の職務は法定のものである以上,会社と監査役の間において監査役の責任を加重する旨の特段の合意が認定される場合は格別,そうでない限り,監査役の属性によって監査役の職務内容が変わるものではないという点である。被上告人の具体的任務を検討するに当たっては,上記の各点を踏まえ,本件口座の実際の残高と会計帳簿上の残高の相違を発見し得たと思われる具体的行為(例えば,本件口座がインターネット口座であることに照らせば,被上告人が本件口座の残高の推移記録を示したインターネット上の映像の閲覧を要求することが考えられる。なお,会計限定監査役にはその要求を行う権限が与えられ ているように思われる(会社法389条4項2号,同法施行規則226条22号参 照)。)を想定し,本件口座の管理状況について上告人から受けていた報告内容等の諸事情に照らして,当該行為を行うことが通常の会計限定監査役に対して合理的に期待できるものか否かを見極めた上で判断すべきであると思われる。」

「平成19年5月期の監査の際に被上告人に提供された本件口座の残高証明書は本件従業員によりカラーコピーで偽造されたものであり,平成20年5月期以後の監査の際に被上告人に提供された残高証明書は本件従業員により白黒コピーで偽造された写しであったとの原審認定を前提とすると,平成20年5月期以後の監査の際に被上告人は本件口座の残高証明書の原本等の提示を求めるべきであったといえるか否かについても検討を要すると思われるが,その際には,平成19年5月期の監査の際に提供された残高証明書につき,被上告人がこれをどのようなものとして認識したか,これと平成20年5月期以後の監査の際に提供された上記写しとの形状・様式・内容の相違の有無・程度,被上告人の会計管理システムの仕組みや態勢,上記のカラーコピーの残高証明書と同様の形状・様式・内容を備えた残高証明書の作成の難易等を考慮して,上記の提示の求めが本件口座の実際の残高と会計帳簿上の残高の相違を発見し得たと思われる行為といえるか否かについて慎重に判断する必要があると思われる。 」




NFTの取引を行った場合の課税関係

 国税庁タックスアンサーで公表されています(NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係)。

1 役務提供などにより、NFTやFTを取得した場合

⑴ NFTやFTを取得した場合は、事業所得、給与所得または雑所得。
⑵ 臨時・偶発的にNFTやFTを取得した場合は、一時所得。
⑶ 上記以外の場合は、雑所得。

2 NFTやFTを譲渡した場合

⑴ 譲渡所得の基因となる資産に該当する場合(その所得が譲渡したNFTやFTの値上がり益(キャピタル・ゲイン)と認められる場合)は、譲渡所得
 NFTやFTの譲渡が、営利を目的として継続的に行われている場合は、譲渡所得ではなく、雑所得または事業所得
⑵ 譲渡所得の基因となる資産に該当しない場合は、雑所得(規模等によっては事業所得)




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