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刑事裁判の流れ

 刑事裁判は、ざっくり以下の流れですすみます(依頼者の方にもこのように説明することが多いです)。

1 冒頭手続き

⑴ 人定質問

  本人確認をします。

  本籍や、住所、職業等が確認されます。

⑵ 起訴状朗読

  検察官が起訴した事実について、起訴状を朗読します。

  直前に、裁判官が起訴状を受け取っているかを確認することが通常です。

⑶ 黙秘権の告知

  裁判官が、公判廷において、ずっと黙っていることもできるし、言いたいことだけ言って、言いたくないことについてだけ言わなくてもよいこと、ただし、公判廷で言った内容は、本人に有利にも不利にも扱われることの説明があります。

⑷ 罪状認否

  起訴状の内容について、間違っている、正しい等の意見を述べます。

⑸ 弁護士の意見

  起訴状の内容について弁護人の意見を述べます。

2 検察官による請求証拠調べ

  有罪にするための証拠として、裁判所に見てほしい証拠を出します。

3 弁護士による請求証拠調べ

  弁護人が裁判所に見てほしい証拠を提出します。

  情状証人の証人尋問や、被告人質問も行われます。

4 検察官による論告・求刑

  起訴された内容の評価や、検察官が妥当と考える求刑の意見が述べられます。

5 弁護人による弁論

  被告人に有利な事情を述べます。

6 被告人によるコメント

  被告人質問に加えて述べておきたいことを被告人が述べます。

7(後日)判決の言い渡し

  裁判官が判決を言い渡します。




会計限定監査役の任務懈怠について判断した最高裁令和3年7月19日判決の判断

 最高裁令和3年7月19日判決は、会計限定監査役だった税理士、公認会計士の任務懈怠を否定した東京高裁判決を差し戻しました(令和3年度重要判例解説商法7番でも紹介されています。)。

 原審の東京高裁令和元年8月21日判決が、会計限定監査役の責任の範囲をかなり限定した判断をしていました。

 弁護士や監査役を引き受ける可能性のある方に重要と思われる、任務懈怠の判断に関する最高裁の判断と草野補足意見を紹介します(特徴的な部分にアンダーラインをつけました。とくに弁護士出身の草野裁判官の補足意見では、会計限定監査役が、税理士や公認会計士である場合にも、原則として責任が加重されるわけではないという趣旨の判示がみられます。)。

1 最高裁の判断部分

「監査役設置会社(会計限定監査役を置く株式会社を含む。)において,監査役は,計算書類等につき,これに表示された情報と表示すべき情報との合致の程度を確かめるなどして監査を行い,会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見等を内容とする監査報告を作成しな ければならないとされている(会社法436条1項,会社計算規則121条2項 (平成21年法務省令第7号による改正前は149条2項),122条1項2号 (同改正前は150条1項2号))。 

 この監査は,取締役等から独立した地位にある監査役に担わせることによって,会社の財産及び損益の状況に関する情報を提供する役割を果たす計算書類等につき(会社法437条,440条,442条参照),上記情報が適正に表示されていることを一定の範囲で担保し,その信頼性を高めるために実施されるものと解される。そうすると,計算書類等が各事業年度に係る会計帳簿に基づき作成されるものであり(会社計算規則59条3項(上記改正前は91条3項)),会計帳簿は取締役等の責任の下で正確に作成されるべきものであるとはいえ(会社法432条1項参照),監査役は,会計帳簿の内容が正確であることを当然の前提として計算書類等の監査を行ってよいものではない。

 監査役は,会計帳簿が信頼性を欠くものである ことが明らかでなくとも,計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な 点において適正に表示しているかどうかを確認するため,会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め,又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである。そして,会計限定監査役にも,取締役等に対して会計に関する報告を求め,会社の財産の状況等を調査する権限が与えられていること(会社法389条4項,5項)などに照らせば,以上のことは会計限定監査役についても異なるものではない。

 そうすると,会計限定監査役は,計算書類等の監査を行うに当たり,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても,計算書類等に表示さ れた情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではない。 」

「被上告人が 任務を怠ったと認められるか否かについては,上告人における本件口座に係る預金の重要性の程度,その管理状況等の諸事情に照らして被上告人が適切な方法により監査を行ったといえるか否かにつき更に審理を尽くして判断する必要があり,また,任務を怠ったと認められる場合にはそのことと相当因果関係のある損害の有無等についても審理をする必要がある」

2 草野補足意見

会計限定監査役は,公認会計士又は監査法人であることが会社法上求められていない以上,被上告人が公認会計士資格を有していたとしても,上告人の監査に当たり被上告人にその専門的知見に基づく公認会計士法2条1項に規定する監査を実施すべき義務があったとは解し得ないという点である(会社計算規則121条2項が同法2条1項に規定する監査以外の手続による監査を容認しているのはこの趣旨によるものであろう。)。次に,監査役の職務は法定のものである以上,会社と監査役の間において監査役の責任を加重する旨の特段の合意が認定される場合は格別,そうでない限り,監査役の属性によって監査役の職務内容が変わるものではないという点である。被上告人の具体的任務を検討するに当たっては,上記の各点を踏まえ,本件口座の実際の残高と会計帳簿上の残高の相違を発見し得たと思われる具体的行為(例えば,本件口座がインターネット口座であることに照らせば,被上告人が本件口座の残高の推移記録を示したインターネット上の映像の閲覧を要求することが考えられる。なお,会計限定監査役にはその要求を行う権限が与えられ ているように思われる(会社法389条4項2号,同法施行規則226条22号参 照)。)を想定し,本件口座の管理状況について上告人から受けていた報告内容等の諸事情に照らして,当該行為を行うことが通常の会計限定監査役に対して合理的に期待できるものか否かを見極めた上で判断すべきであると思われる。」

「平成19年5月期の監査の際に被上告人に提供された本件口座の残高証明書は本件従業員によりカラーコピーで偽造されたものであり,平成20年5月期以後の監査の際に被上告人に提供された残高証明書は本件従業員により白黒コピーで偽造された写しであったとの原審認定を前提とすると,平成20年5月期以後の監査の際に被上告人は本件口座の残高証明書の原本等の提示を求めるべきであったといえるか否かについても検討を要すると思われるが,その際には,平成19年5月期の監査の際に提供された残高証明書につき,被上告人がこれをどのようなものとして認識したか,これと平成20年5月期以後の監査の際に提供された上記写しとの形状・様式・内容の相違の有無・程度,被上告人の会計管理システムの仕組みや態勢,上記のカラーコピーの残高証明書と同様の形状・様式・内容を備えた残高証明書の作成の難易等を考慮して,上記の提示の求めが本件口座の実際の残高と会計帳簿上の残高の相違を発見し得たと思われる行為といえるか否かについて慎重に判断する必要があると思われる。 」




NFTの取引を行った場合の課税関係

 国税庁タックスアンサーで公表されています(NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係)。

1 役務提供などにより、NFTやFTを取得した場合

⑴ NFTやFTを取得した場合は、事業所得、給与所得または雑所得。
⑵ 臨時・偶発的にNFTやFTを取得した場合は、一時所得。
⑶ 上記以外の場合は、雑所得。

2 NFTやFTを譲渡した場合

⑴ 譲渡所得の基因となる資産に該当する場合(その所得が譲渡したNFTやFTの値上がり益(キャピタル・ゲイン)と認められる場合)は、譲渡所得
 NFTやFTの譲渡が、営利を目的として継続的に行われている場合は、譲渡所得ではなく、雑所得または事業所得
⑵ 譲渡所得の基因となる資産に該当しない場合は、雑所得(規模等によっては事業所得)




押収物の還付請求手続き

 捜査手続きにおいて、捜索・差押えが行われた結果、被疑事実とは関連性のないものや、必要と考えられる期間経過後も領置されているのではないかと考えられる経験があります。

 刑事訴訟法222条1項、同123条1項は、事件が終結したときには捜査機関が押収物を還付しなければならないこと、留置の必要がないと認められる場合には事件が終結していなくても還付しなければならないことを定めています。

 また、刑事訴訟法222条1項、同123条2項は、仮還付の制度を定めています。

 これは、留置の必要がなくなったとはいえないけれども、一時返還しても捜査上の支障がないと認められる押収物を、一時的に返還する手続きです。

 押収物の仮還付を受けた所有者、所持者、保管者または差出人は、還付の場合とは異なり、捜査機関に返還することが予定されていることから、押収物の保管義務を負うことになります。

 仮還付を受けた所有者であっても、押収物を勝手に処分した場合には、刑法252条、262条の適用がありえます。

 弁護士が被疑者の代理人として手続きを行う場合、弁護人選任届とは別に委任状を要求される場合もあるようです(なお、還付請求のみの代理人になることは慎重な検討を要するものと考えられます)。

 還付請求の却下処分、仮還付の却下処分に対しては、準抗告を行うことができます(刑事訴訟法430条1項「押収物の還付に関する処分」。1項が検察官又は検察事務官のした処分、2項が司法警察職員のした処分について定めている、)。

 なお、裁判所の還付、仮還付の決定、それらの請求を却下する決定に対しては抗告の申立てができます(刑事訴訟法420条2項)。




税理士・公認会計士だった会計限定監査役の任務懈怠について判断した最高裁令和3年7月19日判決の一審千葉地裁の判断

 最高裁令和3年7月19日判決は、会計限定監査役だった税理士、公認会計士の任務懈怠を否定した東京高裁判決を差し戻しました。

 弁護士としては、任務懈怠の判断に関する最高裁と草野補足意見をまずは確認しておくべきですが、当該会計限定監査役の任務懈怠を認めた一審千葉地裁の判断の内、任務懈怠、過失相殺の判断が特徴的なので、引用して紹介します。

1 任務懈怠

「〔1〕原告のように会計監査人が設置されていない会社においては、監査役の会計監査における資産の実在性に関する監査の重要性が極めて高いこと、〔2〕被告は、公認会計士及び税理士としての専門的能力を買われて監査役に選任されており、より高い水準の善管注意義務を負っていたことに加えて、〔3〕「中小会社・ベンチャー企業の監査役業務とQ&A〔3訂版~6訂版〕」においては、現金預金の残高を監査する大事なポイントは正の残高証明とチェックすることであり、絶対にコピーとチェックしてはならず,その理由として、コピーは一見信用できそうにみえるが、改ざんされていることがあること等が指摘されていること(前記認定事実(3)カ参照)、〔4〕「監査役監査の基本がわかる本」においては、貸借対照表の現金及び預金の監査における留意点として、預金は、流動性が高いことから不正リスクは高い等と指摘されていること(前記認定事実(3)ク参照)、〔5〕「実務解説監査役監査」においては、会計監査人が非設置の場合や監査範囲が会計監査に限定されている会社では、実査・確認による手続のウエイトが比較的高くなること等が指摘されていること(前記認定事実(3)ケ参照)、〔6〕残高証明書の原本確認は通常容易なはずで(本件でも、被告は原告に赴いて監査を実施していたのであるから、原本を一時的に借り出すことは容易であった。)、たまたま別の用途に用いられている場合でも、例えば本件サービスを利用してその場で残高照会を行うことによる確認も考えられることなどを併せ考えれば、被告は、原告の会計監査の際に丙川から提供される本件口座の残高証明書の実査に当たって、預金の不正リスクが相対的に高いことを念頭に置き、提供された本件口座の残高証明書が写しの場合には、残高証明書の原本又は当座勘定照合表の原本の提示を求めるべき注意義務を負っていたと認められる。したがって、被告及びその補助者である丁田は、提供された本件口座の残高証明書が明らかに写しであることを認識しながら、丙川に対し、残高証明書の原本又は当座勘定照合表の原本の提示を求めることが容易であるにもかかわらず、これらを怠り、漫然と、残高証明書の写しを実査する方法のみで本件口座の預金の実在性を監査しており、本件各横領行為に関する被告の任務懈怠が認められる。」

2 過失相殺

「監査役が、その任務を怠り、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う場合に、取締役も会社に対し責任を負うときは、両者は連帯して会社に対し責任を負うものであり、両者の債務の関係は不真正連帯債務となるから(会社法430条)、原告と被告との関係においては、原告の取締役である原告代表者及び戊原の過失に基づき、過失相殺を認めることはできない。換言すると、本件では、被告と原告代表者及び戊原は、原告に対して共同不法行為者に準じる地位にあるから、後者を被害者側の者とみなすことはできない。また、このような場合に過失相殺を認めることは、本件で何ら責めのない会社債権者の債権の引き当てとなる会社財産を毀損する結果となるおそれがあり、相当でない。なお、被告と原告代表者及び戊原の責任の分担については、被告において、原告代表者及び戊原に対し求償することによって解決を図るほかないというべきである。」

3 その他の判示事項

⑴ 原告の会社は、定款に監査役の監査範囲を限定する旨の定めはなかったが、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律1条8号による廃止前の株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律1条の2第2項所定の小会社で、かつ、公開会社でない株式会社であったことから、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款に定めているとみなされている(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律53条)。

⑵ 横領行為の発覚後、横領した社員は懲戒解雇ではなく諭旨解雇されている。また原告である会社から損害賠償請求訴訟を提起された直後に死亡しており、訴えが取り下げられている。

⑶ 年額36万円の監査役としての報酬について、地裁は「監査役就任当時の物価を前提とすれば、必ずしも低額ではない」と評価し、東京高裁は「平成20年前後における年額36万円(月額3万円)は、公認会計士の専門知識を生かした本格的な監査の報酬としては非常に低額である」と評価し、報酬の点は、善管注意義務の水準を通常と異なるものと評価すべき根拠とならないと判示している。




労働判例百選第10版には令和2年10月の同一労働同一賃金に関する最高裁5判例が掲載されていない。

 弁護士業務で労働事件を扱うので、最近出された労働判例百選第10版を買いました。

 ざっとみたところ、平成30年に出されたハマキョウレックス事件は4ページにわたり掲載されていましたが、令和2年10月に出された大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便に関する3事件は掲載されていません。

 司法試験受験生は法律雑誌の特集記事や重要判例解説、判決文の確認が必要ですね。




令和4年4月1日施行令和3年改正少年法のポイント

 令和4年4月1日から、令和3年改正少年法が施行されます。

 ポイントは以下のとおりです。

1 18歳、19歳の少年を特定少年と定義すること

 改正少年法は、「20歳に満たない者」という少年について実質的な定義(少年法2条1項)を変更せず、18歳、19歳の少年も少年法の適用があることに変更はありません。

 しかし、特定少年として「18歳以上の少年」と定義し(改正少年法62条1項)、特定少年の特別扱いを定める構成をしています。

 なお、川出敏裕「改正少年法について」(法律時報2022号2月号)によると、18歳19歳の非行少年に少年法を適用していた従来の運用が、当該非行少年の改善教育と再犯防止に有効に機能していたことは、法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会内において、意見の一致があったとのことです。

 特定少年の特別扱い(少年法では「特定少年の特例」と規定されています。)として、①原則検察官送致、いわゆる逆送対象事件の拡大、②保護処分は、「犯罪の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内」で行うこととし、ぐ犯を理由とする保護処分を行わないこと、③刑事処分を理由とする逆送決定後は少年法が定める特例は原則として適用されないこと、④公判請求された場合、いわゆる推知報道が解禁されることが規定されました。

 以下、①、②、④について若干コメントします。

2 ①検察官送致の特例

 特定少年については、罰金以下の刑に当たる罪の事件も逆送が可能となり(少年法62条1項)、原則逆送事件として故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件で16歳以上の少年に係るもののほか、死刑または無期若しくは短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件で、犯行時特定少年だった場合が追加されています。

 これにより、強盗や建造物等以外放火などの犯情の幅のひろい類型が含まれることになります。

 付添人活動を行う弁護士としては、付帯決議において「新たに原則逆送の対象となる罪の事件には様々な犯情のものがあることに鑑み、家庭裁判所が同決定をするに当たっては、きめ細かな調査及び適正な事実認定に基づき、犯情の軽重及び要保護性を十分に考慮する運用が行われるよう本法の趣旨の周知に努めること。」とされています。

3 ②ぐ犯

 ぐ犯の立件は少なく、うちの事務所での取り扱いもわずかですが、17歳以下の時期のぐ犯でも、特定少年に達すると手続をすすめることができなくなることから、付添人活動に大きな影響がでることが予想されますし、「切迫」の場合には、そもそもぐ犯での立件自体が事実上抑制されるのかもしれません。

4 ④推知報道の解禁

 特定少年の公正と報道の自由、表現の自由等の調整の観点から、政策的判断として特定少年のときに犯した事件について、公判請求された場合には、その時点から推知報道の禁止を解除することとされました(少年法68条)。

 犯行時に18歳未満であれば、推知報道は解除されないことは確認しておく必要があります。

5 その他(付添人選任権者の範囲拡大)

 改正前は、少年と保護者のみでしたが、少年の法定代理人、保佐人、配偶者、直系親族、兄弟姉妹も選任権者とされています。

 成年年齢引下げに関する民法改正を受けて、特定少年は親権から離脱し法律上の保護者(少年法2条2項)がいなくなり、付添人選任権者の範囲が狭くなりすぎることを踏まえての改正で、弁護士として少年事件についての委任契約をするときに関係してきそうです。




民事訴訟マニュアル(上)(下)の改訂

 民事訴訟、民事手続き一般に関する実務書は複数ありますが、岡口裁判官の民事訴訟マニュアルがコンパクトにまとまっており、まず参照することが多いので、改訂の都度購入しています。

 裁判官が著者のものとして、門口裁判官の「民事裁判の要領 裁判官の視点」も参考になります。

 弁護士によるものとして、圓道至剛弁護士の「企業法務のための民事訴訟の実務解説〔第2版〕」、京野哲也弁護士の「クロスレファレンス民事実務講義〔第3版〕」もよく参照します。

 そのほかに、中村直人弁護士の「訴訟の心得 円滑な進行のために」、岡口裁判官と中村真弁護士の「裁判官!当職そこが知りたかったのです。民事訴訟がはかどる本」も参考になります。




私生活上の非違行為の懲戒処分

 職務に関連する犯罪行為と異なり、ただちに懲戒処分の対象になるわけではないというのが基本的な考え方ですが、企業秩序に直接の関連を有する行為や会社の社会的評価の低下、毀損によって会社の円滑な運営に支障を来すおそれがある行為について懲戒処分の対象になると考えられます。

 実務上よく問題になるのが飲酒運転についてのもので、トラック会社等の従業員に関する裁判例が複数あります。

 東京高判平成15年12月11日判決は、鉄道会社の従業員が痴漢で複数回有罪判決を受けた従業員に対する懲戒解雇は有効としたものの、退職金全額の不支給は無効と判断しています。




課税処分に関する不服申立前置主義

 課税処分を争う取消訴訟を行うには、再調査の請求、審査請求の手続きを経る必要がある不服申立前置主義が採用されています。

 不服申立前置主義制度を採用することにより、裁判上の救済遅延が生じることは否定できませんが、3か月経過しても裁決がなされない場合には裁判所に訴訟提起することができること(国税通則法115条1項1号)等や、不服申立手続きを経た後の裁判所に対する訴訟提起を行うことを認めていることから、一般に憲法32条に違反しないと考えられています。

 不服申立前置主義を採用せず、自由選択主義を採用すると、いきなり裁判所に訴訟を提起する納税者も相当程度存在することは容易に想像できます。

 このことは、不服申立手続きによって解決することができた争訟や、不服申立手続きによって解決に至らなくても効率的な争点整理ができていたはずの争訟がいきなり裁判所に持ち込まれることを意味し、裁判所の負担が増大することになります。

 租税に関する争訟は、複雑かつ専門的であり、租税法に精通した知識や実務経験を積んだ人材により裁判の前に審理を行わなければ、裁判所が注力するべき事件・論点に時間を割くことができず、国全体としての紛争解決の効率が著しく低下することも考えられます。

 租税に関する争訟が現実に大量に発生していることや、審査請求を審理する国税不服審判所は、国税庁の特別の機関として、執行機関である国税局や税務署から分離された別個の機関として設置されており、また、税理士や弁護士、公認会計士などの民間の専門家も採用されていること、また、課税処分の根拠となった法令の解釈や通達が問題となる場合、国税不服審判所長があらかじめ国税長官に意見を通知して通達と異なる裁決をすることができる制度(国税通則法99条)もあるなど、中立公正な判断が一定程度期待できると考えられます。

 不服申立手続きにより最終的に解決がなされない場合も当然ありますが、不服申立手続きにおいて行われた争点整理により、裁判所は、効率的な審理を行うことができ、裁判所の負担軽減につながることになります。




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