いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項
1 厚生労働省が、いわゆるシフト制の労働者の雇用管理を行うにあたり、使用者が留意するべき事項を作成し公表しています(厚労省ウェブサイト)。
ここでの「シフト制」とは、労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1か月など)ごとに作成される勤務シフトなどで、初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような勤務形態を指しています。
2 特に、弁護士が相談にのることの多い「労働契約に定めることが考えられる事項」の部分を紹介します。
(ア) シフト作成・変更の手続
使用者及び労働者双方の立場から労働条件の予見可能性を高め、労働紛争を防止するという観点から、シフト制労働者の場合であっても、使用者が一方的にシフトを決めることは望ましくなく、使用者と労働者で話し合ってシフトの決定に関するルールを定めておくことが考えられます。
a.シフトの作成に関するルール
具体的な労働日、労働時間などをシフトにより定めることとする場合には、これらが労働条件の重要な要素となっていることに鑑み、シフト作成に関するルールとして、例えば、以下の事項について、あらかじめ使用者と労働者で話し合って定めておくことが考えられます。
●シフト表などの作成に当たり、事前に労働者の意見を聴取すること
●確定したシフト表などを労働者に通知する期限や方法
b.シフトの変更に関するルール
基本的に、一旦シフトを確定させた後に当該シフト上の労働日や労働時間等を変更することは、労働条件の変更に該当します。労働契約法第8条では、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」とされていることを踏まえ、確定した労働日、労働時間等の変更は、使用者及び労働者双方が合意した上で行うようにしてください。こうした変更が円滑にできるようにするために、シフトの変更に関するルールとして、例えば、以下の事項について、あらかじめ使用者と労働者で話し合って、合意しておくことが考えられます。
●シフトの期間開始前に、確定したシフト表などにおける労働日、労働時間等の変更を使用者又は労働者が申し出る場合の期限や手続
●シフトの期間開始後に、使用者又は労働者の都合で、確定したシフト表などにおける労働日、労働時間等を変更する場合の期限や手続
なお、これらのルールについては、就業規則に定める等して、一律に設けることも考えられます。
(イ) 労働日、労働時間などの設定に関する基本的な考え方
労働者の労働契約の内容に関する理解を深めるためには、シフトにより具体的な労働日、労働時間や始業及び終業時刻を定めることとしている場合であっても、その基本的な考え方を労働契約においてあらかじめ取り決めておくことが望まれます。例えば、労働者の希望に応じて以下の事項について、あらかじめ使用者と労働者で話し合って合意しておくことが考えられます。
●一定の期間において、労働する可能性がある最大の日数、時間数、時間帯(例:「毎週月、水、金曜日から勤務する日をシフトで指定する」など)
●一定の期間において、目安となる労働日数、労働時間数(例:「1か月○日程度勤務」、「1週間当たり平均○時間勤務」など)
これらに併せる等して、一定の期間において最低限労働する日数、時間数などについて定めることも考えられます。(例:「1か月○日以上勤務」、「少なくとも毎週月曜日はシフトに入る」など)
3 シフトの削減分について賃金等を請求できるかが問題となった最近の裁判例として、ホームケア事件(横浜地裁令和2年3月26日判決)、萬作事件(東京地判平成29年6月9日判決)、シルバーハート事件(東京地裁令和2年11月25日判決)、東京シーエスビー事件(東京地裁平成22年2月2日判決)などがあります。