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裁判所への出廷

 コロナ禍の影響と、裁判所によるWEBによる審理の推進(地方裁判所では、TEAMSを利用しています。なんらかの原因により接続が上手くいかない場合には、急遽電話をつないで審理を行うということもありますが、最近は減ってきた印象です。)により、通常の裁判手続きでは、弁護士が実際に裁判所に出廷することは少なくなりました。

 以前は、本庁ではなく、支部ではWEBによる審理に対応していない時期もありましたが、最近はそのようなことはなくなりました。

 私の経験でも、金沢地裁や東京地裁など、名古屋市に事務所のある弁護士にとって遠方の裁判所に係属した事件でも、一度も実際に出廷することなく終了した事件がありますが、現状では、尋問の期日はやはり、出廷する必要があり、遠方の裁判所でも実際に出廷する必要があります。

 なお、労働審判事件では、以前からWEBによる審理も実際行われており(出廷するか、WEBにより参加するかは、当事者の希望が原則認められています。)、WEBによる労働審判も経験しました。

 これまでは、WEBでは、厳密には期日は開かれず、書面による準備手続きが実施されているという扱いであったことから、準備書面の陳述をすることができず、尋問の期日に口頭弁論を実施し、陳述や証拠調べを行われていましたが、民事訴訟法の改正により、WEBでも準備的口頭弁論を実施することが可能になりました。

 以上のことは民事事件であり、公判請求された刑事事件の場合には、被告人を弁護する弁護人として、コロナ禍においても裁判所に出廷することが必要でした。

 名古屋地裁に出廷すると、愛知県弁護士会の図書室に行って本や法律雑誌を眺めたり、名法書店に寄って法律書籍を購入することになりますし、久しぶりに同期の弁護士に会ったりすることもあります。

 名古屋地裁では、弁護士以外の一般の方が裁判所に入る際には、手荷物検査が必要ですが、弁護士も弁護士バッチが弁護士の身分証明書がないと、手荷物検査を受ける必要があり、期日ぎりぎりに到着した場合はあせることになります。




脳・心臓疾患を伴う過労死の労災認定

1 脳・心臓疾患を伴う過労死について、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13・12・12基発1063号)を改正した、「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和3年9月14日基発0914第1号)が現在適用されています。

2 対象疾病は以下のとおりとされています。

⑴ 脳血管疾患

ア 脳内出血(脳出血)

イ くも膜下出血

ウ 脳梗塞

エ 高血圧性脳症

⑵ 虚血性心疾患等

ア 心筋梗塞

イ 狭心症

ウ 心停止(心臓性突発死を含む。)

エ 重篤な心不全

オ 大動脈解離

3 認定要件として、原則として、以下の⑴から⑶の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより上記2の対象疾病を発症した場合には、業務に起因する疾病として扱うものとされています。

⑴ 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(以下「長期間の過重業務」という。)に就労したこと ※長期間とは、6か月を指します。疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と位置付けられる労働時間について、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされています。

⑵ 発症に近接した時期において、特に過重な業務(以下「短期間の過重業務」という。)に就労したこと ※短期間とは、1週間を指します。労働時間について具体的な定めはありません。

⑶ 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(以下「異常な出来事」という。)に遭遇したこと

4 相談にのる弁護士としては、その他の部分の認定基準の理解と、取消訴訟まで含めた的確な見通しを行うことが重要と考えられます。

 一般に、行政の認定基準は講学上の通達であり、裁判所の判断を拘束しないとされており、例えば労働の過重性については時間数という量的なものではなく質的な負荷要因も十分に考慮する傾向があり、実際、認定基準では過労死と認定されない事案について、裁判所により救済される場合もあると指摘されています。




施設送致申請(少年法26条の4第1項)

 少年法26条の4は、保護観察を付された場合、保護観察官等による指示に反し、遵守事項に違反することを繰り返す場合について、少年院送致等の施設内処遇を言い渡すことが出来る旨定めています。

 保護観察とは、社会内処遇の一種で、少年を施設に収容することなく通常の生活を営ませながら改善更生の処遇を行うもので、少年の居住地を管轄する保護観察所が行うことが、更生保護法に定められています。

 なお、少年法には、家庭裁判所で審判が開始された後、少年の終局処分を一定期間留保して、調査官に少年を観察させる試験観察という制度もあります。

 具体的な要件は、①保護観察所長から遵守事項を遵守するよう警告を発せられたにもかかわらず、遵守事項を遵守せず、②その程度が重いときに、保護観察所長が、家庭裁判所に対し、本人を施設に送致する決定をするよう求める施設送致申請を行い(更生保護法67条2項)、③家庭裁判所が保護観察の保護処分によっては本人の改善及び更生を図ることが出来ないと認めることです。

 問題となる遵守事項として、例えば、「保護観察に付されたときに保護観察所の長に届け出た住所又は転居することについて保護観察所の長から許可を得た住居に居住すること」があります。

 保護観察の意味に加えて、付添人として活動する弁護士からも、少年に丁寧に説明するべき条項です。




騙取金による弁済が不当利得となる場合

 いわゆる騙取金による弁済について、被騙取者による不当利得返還請求が認められるかについては、最高裁昭和49年9月26日判決が、不当利得制度一般に加えて、以下のとおり要件を判示しています。

 「およそ不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、利得者にその利得の返還義務を負担させるものであるが、いま甲が、乙から金銭を騙取又は横領して、その金銭で自己の債権者丙に対する債務を弁済した場合に、乙の丙に対する不当利得返還請求が認められるかどうかについて考えるに、騙取又は横領された金銭の所有権が丙に移転するまでの間そのまま乙の手中にとどまる場合にだけ、乙の損失と丙の利得との間に因果関係があるとなすべきではなく、甲が騙取又は横領した金銭をそのまま丙の利益に使用しようと、あるいはこれを自己の金銭と混同させ又は両替し、あるいは銀行に預入れ、あるいはその一部を他の目的のため費消した後その費消した分を別途工面した金銭によつて補填する等してから、丙のために使用しようと、社会通念上乙の金銭で丙の利益をはかつたと認められるだけの連結がある場合には、なお不当利得の成立に必要な因果関係があるものと解すべきであり、また、丙が甲から右の金銭を受領するにつき悪意又は重大な過失がある場合には、丙の右金銭の取得は、被騙取者又は被横領者たる乙に対する関係においては、法律上の原因がなく、不当利得となるものと解するのが相当である。」

 特に、悪意・重過失の理論的な位置づけについて学説上の議論が多くあるところですが、弁護士実務上は、悪意重過失の主張立証が重要となります。




事業者向けファクタリングは出資法上の「金銭の貸付け」に該当するか

 ファクタリングとは、企業が有する売掛債権等を売却する(譲渡す)ことにより資金を提供するサービスで、企業の資金繰りのために利用されています。

 裁判例では、当該ファクタリング契約が、実質的に利息付きの金銭消費貸借契約であるとして、出資法や貸金業法、利息制限法や公序良俗に反するかが問題となっており、実質的に金銭の貸付けに当たるとした裁判例として、大阪地裁平成29年3月3日判決や、名古屋地裁令和3年7月16日判決があります。

 5444万円分の債権について4900万円で債権譲渡した事実関係において、上記名古屋地判では、不法原因給付に当たる受領金を損害額から控除するべきではないとして、5444万円を不法行為に基づく損害賠償責任を認めています(破産会社の破産管財人弁護士がファクタリング業者に請求した事案で、最高裁平成20年6月10日判決が参照されています。)。

 個人を対象とする給与ファクタリングについては、金融庁が、令和2年3月5日付で業として行うことは貸金業に該当する見解を示しており、その旨の裁判例が複数出ています。




大麻栽培罪の既遂時期に関する播種説と発芽説

 大麻草の種子を播種(はんしゅ)したが発芽にまで至らなかった場合に大麻栽培罪の既遂となるか未遂にとどまるか。

 東京高裁令和3年9月28日判決において、弁護人は、大麻草の有害物質であるTHC(テトラヒドロカンナビール)が生成されていないことや大麻草の種子には発芽可能性がないものも含まれること等を主張しましたが、結論として、大麻草の種子が発育できる環境下で大麻草の種子を地中に埋めた播種の時点で既遂になる旨判示しました。

 播種の時点で大麻栽培罪の既遂を認めた高裁判例として重要です。




労災保険に関する消滅時効の定め

1 労災保険に関する消滅時効について労働者災害補償保険法第42条は以下のとおり定めています。

 療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付、複数事業労働者療養給付、複数事業労働者休業給付、複数事業労働者葬祭給付、複数事業労働者介護給付、療養給付、休業給付、葬祭給付、介護給付及び二次健康診断等給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から二年を経過したとき、障害補償給付、遺族補償給付、複数事業労働者障害給付、複数事業労働者遺族給付、障害給付及び遺族給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から五年を経過したときは、時効によって消滅する。

2 債権法の改正により消滅時効の期間は原則として5年となりましたが、弁護士業務を進める際には、当該請求権の根拠となる個別法規定をその都度確認する必要があります。




労働条件を規律する規範の関係

 労働条件を規律する規範は複数あり、弁護士業務を行う上でも、整理しておくことが有益な場合があります。

1 労基法等の強行法規がすべてに優先

2 就業規則と労働契約(個別合意)との関係

① 使用者と労働者が個別的な合意をしていない場合、その内容が合理的であり、周知されている場合、就業規則の定めが労働契約の内容になる(労契法7条本文、就業規則の補充効)。

② 就業規則と異なる内容の合意をしている場合、その合意が優先する(労契法7条ただし書)。

③ その個別合意が就業規則で定める基準よりも低い場合には就業規則が優先する(労契法12条、最低基準効)。

3 労働協約と労働契約、就業規則との関係

⑴ 労働協約の定めは、個別労働契約に優先して適用される。

 労働協約が、個別労働契約に関する項目を定めている場合に問題となります。

 労組法16条は、「労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。」

⑵ 労働協約は就業規則に優先して適用される。

 労働協約の規範的効力とは、労働協約で「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」について取り決めをした場合には、労働協約の定めは個別労働契約に優先して適用される。労働条件を不利に変更する効力も有するというもの。

※ 労基法89条は、就業規則について以下のとおり定めています。

 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項

 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項

 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項

 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項

 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項

 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項

 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項

 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項




刑事訴訟法301条の2第2項により却下された証拠を職権採用した裁判例

 名古屋地裁岡崎支部令和4年6月8日判決は、被疑者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録媒体に記録しておかなければならない(刑事訴訟法301条の2第4項)にもかかわらず履践していなかったとして、刑事訴訟法301条の2第2項により却下された証拠を、争いになっていた殺意の認定の証拠として職権により採用しています。

 捜査機関が刑事訴訟法に定められた手続きを履践しなくても、結果的に裁判所が証拠採用するとすれば、捜査機関の違法な捜査を是認するものであり、不当といえるでしょう。

 判決文の(証拠能力の判断について)の項目では、以下のような判断経緯が示されています。

1 判示第1の事実に関し、検察官は、被告人質問終了後、公判前整理手続において証拠調請求をしていた被告人の令和2年8月5日付け(乙8)及び同月7日付け(乙10)の各検察官調書中の弁護人不同意部分について、改めて刑訴法32 2条1項前段に基づく請求を行い、弁護人は、当該部分の任意性を争う旨の証拠意見を述べたところ、当裁判所は、上記各検察官調書の不同意部分につき、いずれも任意性の立証がなされていないと判断して却下したため、その理由を以下に補足して説明する。前提として、公判廷における被告人の供述状況を踏まえると、被告人は被誘導性が強いことが窺われるため、その供述の任意性は慎重に検討する必要がある。検察官が任意性立証のために請求した被告人に対する取調状況の録音録画に係る記録媒体(甲85)は、令和2年7月29日、同月31日、同年8月5日(乙8の作成日)、同月7日(乙10の作成日)の各取調状況の一部分のみが記録され たものであるところ、同月7日の取調べに係る音声映像は、乙10の不同意部分とは異なるやりとりを記録したもので、乙10の不同意部分に係る被告人供述がどのようなやりとりを経て作成されたかを明らかにするものではないから、これについて任意性が立証されたとは認められない(なお、乙10の請求に関して刑訴法301条の2第1項の手続が適切に履践されたとも認められない。)。次に、同月5日の取調べに係る音声映像は、乙8の不同意部分(Aの存在についての認識の程度や被告人が本件現場において被告人車両を向かわせようとした場所)に係るやりとりが記録されたものであるところ、被告人は、公判廷において、検察官調書の作成時に、Aをはっきり認識できていたか否かについて、あまりはっきり認識できていなかったという内容に供述調書を訂正するよう申し出たが、対応してもらえなかった旨述べていることや、作業車両(規制車両)と中央分離帯の間に突っ込ませようと思った旨の発言をしているにもかかわらず、乙8の不同意部分には作業員や作業車両に突っ込んだ旨の記載がなされていることを踏まえると、これについても任意性が立証されたとはいえない(刑訴法301条 の2第1項の手続も適切に履践されたとは認められない。)。

2 他方、前記判断を踏まえて検察官が請求した同年7月29日付け弁解録取書抄本(乙15、職4)については、やむを得ない事由(刑訴法316条の32第1項)があるとは認められないことや、刑訴法301条の2第1項の手続が適切に履践されたとは認められないこと(同2項)により却下は免れない。しかしながら、甲85に記録された同日の取調状況を見ると、検察官の質問が誘導的であるとは認められず、被告人も自らの言葉で具体的に供述しており、乙15(職4)はその供述と同内容が記載されているものであるから、任意性の立証はなされていると認められる。したがって、必要性に鑑み、これを職権で採用することが相当であると判断した。




城祐一郎著「性犯罪捜査全書ー理論と実務の詳解ー」(立花書房)

 刑事弁護を取り扱う弁護士としては、性犯罪の構成要件や裁判所の判断傾向、警察・検察の捜査の方針等の大枠を知っておくことは必須といえると思います。

 標記の本は、元最高検察庁検事の著者が、強制性交等罪、強制わいせつ罪、準強制わいせつ及び準強制性交等罪、監護者わいせつ・監護者強制性交等罪等や公然わいせつ罪、わいせつ物頒布等罪などのいわゆる刑法犯から、売春防止法違反や児童福祉法・青少年保護育成条例違反、児童買春・児童ポルノ処罰法、ストーカー規制法、リベンジポルノ防止法、出会い系サイト規制法、風営法・職業安定法、痴漢・盗撮を規制するいわゆる迷惑防止条例に至るまで、構成要件の解説や多数の未公刊の裁判例が紹介されています。

 さらに、実務上よく問題となり得る薬物鑑定やタナー法、繊維鑑定、面割り捜査などの解説や各捜査手法の問題点の検討までされています。

 同一のシリーズのものとして、「盗犯捜査全書」、「殺傷犯捜査全書」があります。




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