所得税法157条1項で規定されているいわゆる同族会社の行為計算否認規定の適用は、経済的、実質的見地において当該行為又は計算が合理的経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かが基準とされ、①異常もしくは変則的か、②租税回避以外に正当で合理的な理由もしくは事業目的がないかという観点から、所得税の負担が不当に減少されていないかが判断されることと一般に考えられています。
同規定が適用された場合に,他の税目,例えば法人税法上の課税の調整がされるべき場合については,それを調整する規定として平成18年に所得税法157条3項が定められたと考えられているようです。
なお,同規定の適用が問題と一応なった裁判例として,大阪高判平成30年11月2日TAINS Z888‐2207、大阪地判平成30年4月19日TAINS Z888‐2201があります。
厳密には,訴訟段階では,必要経費該当性を否定し,同族会社の行為計算否認規定の適用の解釈論及び具体的なあてはめまでは検討されていません。
ほかに,理由付記が不十分である旨の納税者側の主張もありましたが,認められていません。
上記裁判の納税者側の代理人弁護士には,同志社大学の占部教授がついており,同教授の関連する最近の論考として,「所得税法における必要経費の概念と判断基準 : 直接関連性要件と必要性要件はどのように用いられているか 」があります。
最高裁昭和55年12月17日決定は,検察官による公訴権の逸脱・濫用について,以下のとおり述べています。
「検察官は,現行法制の下では,公訴の提起をするかしないかについて広範な裁量権を認められているのであって,公訴の提起が検察官の裁量権の逸脱によるものであるからといって直ちに無効となるものでないことは明らかである。たしかに,右裁量権の行使については種々の考慮事項が刑訴法に列挙されていること(刑訴法248条),検察官は公益の代表者として公訴権を行使すべきものとされていること(検察庁法4条),さらに,刑訴法上の権限は公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ誠実にこれを行使すべく濫用にわたってはならないものとされていること(刑訴法1条,刑訴規則1条2項)などを総合して考えると,検察官の裁量権の逸脱が公訴の提起を無効ならしめる場合のありうることを否定することはできないが,それはたとえば公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られるものというべきである。」
公訴権濫用については,①嫌疑なき起訴,②訴追裁量権の逸脱,③違法捜査に基づく起訴の3類型に分けて議論されるのが一般的ですが,②の類型について,「差別的起訴」という言葉で表現して研究する論文として,黒川享子「差別的起訴について」があり,同論文では,近年の差別的不起訴の主張がほとんど退けられている一因として差別的起訴の立証方法が確立されていないという分析をしています。
また同論文では,アメリカの議論を参考に,当該起訴が平等保護条項に違反していないか否かという訴訟条件の問題であることを明確にするべきこと等を主張されています。
弁護士が刑事事件の弁護人として,公訴提起を無効と主張するべき場面は多くはありませんが,理論的な整理をしておく意義はあると考えられます。
内定の法的性質を始期付解約権留保付労働契約の成立と解釈することが実務上通説となっており,事案によって「就労始期付」と「効力発生始期付」に分けて考えるべき場合があると考えられていますが,両者を区別する基準が必ずしも判然としないこと等により,判断を二分化することについては疑問を呈する立場もあります。
就労始期付と判断される場合には,労働契約上の拘束関係は内定時から生じるため,就労を前提としない範囲,例えば,企業の名誉・信用の保持,秘密保持等については,就業規則の適用や業務命令による義務付けが肯定されやすくなります。
一方,効力発生始期付と判断される場合には,入社日までは労働契約の効力は発生していないので,就業規則の適用や業務命令による義務付けは否定的と解されます。
1 改正民法465条の10第1項は,主債務者の保証人に対する情報提供義務を課しています。提供すべき情報の具体的内容は,①財産及び収支の状況,②主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況,③主たる債務の担保として他に提供し,又は提供しようとするものがあるときは,その旨及びその内容が規定されています。
2 情報提供義務を負うのは,債権者ではなく主債務者ですが,民法465条の10第2項は,主債務者が情報を提供しない,あるいは,事実と異なる情報を提供した場合には,債権者がそのことを知り又は知ることができたときは,保証人が保証契約を取り消すことができると定めています。
要するに,主債務者が情報提供をしなかったことを債権者が「知ることができたとき」にも保証契約の取消しが可能となることから,債権者としては,主債務者が民法465の10第1項に規定された情報提供を正しく行ったかどうかの調査を行うべきことになります。
3 どの程度の調査を行う必要があるかについては,債権者に厳格な調査義務を課すものではなく,こういう説明を受けたという書面を保証人から提出させれば,原則として十分であり,保証人から債務者の説明の内容を聞く必要はないと考えられているようです。
4 保証人が代表取締役の場合についても,保証人に対する情報提供義務について免除される規定はないため,当然適用されることになり,保証人である代表取締役が情報提供義務の対象となる事項について誤認し,それによって保証契約の締結をした場合に,債権者がそのことを知っていたか知ることができた時に保証契約が取り消されることになります。
しかし,そのような事態はごくまれだとおもわれ,「代表者が資料を有していること等を確認するなどの簡易な方法をとれば足りると解される。」という見解も主張されています(立法を担当した裁判官や弁護士が執筆している筒井健夫ほか「Q&A改正債権法と保証実務」〔金融財政事情研究会〕)。