敗訴判決が出た場合に備えて
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1 逮捕の違法性、弁護権の侵害を理由とする国家賠償請求がなされた裁判です。
前提となる事案の概要として、以下のように紹介されています(適宜省略している。)。特徴として、いわゆる迷惑防止条例違反であり思い犯罪とは言えないこと、結果として無罪判決となっていること、弁護人の同席を認めれば取調べに応じることを通知していることが挙げられます。
本件甲事件は、控訴人が、後に無罪判決を受けた公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(電車内の痴漢行為)の被疑事件について、逮捕の必要性がなく、逮捕状請求が却下されたにもかかわらず、⑴検察官が再度の逮捕状請求をし、発付された逮捕状を執行したこと及び⑵再度の逮捕状請求に基づき裁判官が逮捕状を発付したことが違法であると主張して、被控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料160万円及び弁護士費用40万円の損害賠償を請求した事案である。
本件乙事件は、控訴人の私選弁護人であった控訴人弁護士が、上記被疑事件について、⑴控訴人の弁護人として取調べの日程調整の窓口になることを申入れていたにもかかわらず、検察官が控訴人に直接連絡をして日程調整をしようとしたこと、⑵検察官が再度の逮捕状請求及び発付された逮捕状を執行したこと、⑶再度の逮捕状請求に基づき裁判官が逮捕状を発付したことが、それぞれ控訴人弁護士の弁護権を違法に侵害したと主張して、被控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料160万円及び弁護士費用40万円の損害賠償を請求した事案である。
2 続けて同判決は、請求を棄却した原審の判断を以下のようにまとめています。
「担当検察官と控訴人らとの間で取調べにおける弁護人の立会いの可否をめぐって対立状況が継続する中で、本件逮捕状請求時において、担当検察官の合理的判断として、控訴人の逮捕の必要が明らかにないと判断すべきであったとまでは認められないから、担当検察官の逮捕状請求及び発付された逮捕状の執行に国家賠償法1条1項の違法はなく、逮捕の必要が明らかにない場合には該当しないとして本件逮捕状を発付した担当裁判官の行為にも、同条項の違法はないとして、控訴人らの請求をいずれも棄却した。」
3 そして、同判決の判断として、まず、逮捕状請求手続きの違法について以下のとおり判断をしています。
「(1)ア 刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕が違法となるということはない(最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁)。そして、司法警察職員や検察官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由及び逮捕の必要性の有無について裁判官が審査した上で発付した逮捕状によって、被疑者を逮捕することができる(刑訴法199条1項本文、2項)。逮捕状の請求を受けた裁判官は、提出された資料等を取り調べた結果(刑訴規則143条、143条の2)、被疑者が逃亡するおそれがなく、かつ、罪証を隠滅するおそれがない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない(刑訴法199条2項ただし書、刑訴規則143条の3)。なお、上記罪証隠滅のおそれについては、被疑事実そのものに関する証拠に限られず、公訴を提起するかどうかの判断や刑の量定に関して参酌される事情に関する証拠も含めて審査されるべきものである。そして、逮捕状を請求された裁判官に求められる審査、判断の義務に対応して考えると、司法警察員や検察官においても、逮捕の理由がないか、又は明らかに逮捕の必要がないと判断しながら逮捕状を請求することは許されないというべきである(最高裁平成10年9月7日第二小法廷判決・裁判集民事189号613頁)。
イ また、本件逮捕状請求は、本件現行犯逮捕がされた後に前件勾留却下がされ、その後にされた再度の逮捕状請求であるところ、手続上、再度の逮捕状請求も予定されており(刑訴法199条3項、刑訴規則142条1項8号)、法的に許容されたものではあるが、同一犯罪事実による逮捕の繰り返しが無制限に許されるとすれば、逮捕の時間的制限が無意味なものになるから、以前逮捕がされ、留置期間が満了した者につき再度の逮捕状請求を受けた裁判官は、上記アと同様に提出された資料を取り調べた結果、再度の逮捕をすべき特別の事情がない場合には、再度の逮捕状の請求を却下しなければならないと解すべきである。そして、上記アと同様、再度の逮捕状を請求された裁判官に求められる審査、判断の義務に対応して考えると、司法警察員や検察官においても、明らかに再度の逮捕の必要がないと判断しながら再度の逮捕状を請求することは許されないというべきである。」「(3)ア そこで、控訴人が、弁護人の取調べ立会権を主張し、控訴人Bの立会いのない取調べには応じなかったことによって、明らかに逮捕の必要がないとはいえない状況となったかを検討する。
イ 逮捕又は勾留されている場合を除き、被疑者は、検察官からの出頭要求に応じる義務はなく、出頭後いつでも退去することができる(刑訴法198条1項)。しかし、そうであるからといって、在宅の被疑者が取調べに応じるに当たり必要かつ合理的な限度で条件を付することができ、選任した弁護人を取調べに立ち会わせる権利があると当然に解されるわけではなく、明文で弁護人の取調べ立会権を認める規定は存在しない上、最高裁判所による明確な判断も示されておらず、弁護人の取調べ立会権があるとの解釈は確立していない。
また、正当な理由のない不出頭は、一般的には逃亡ないし罪証隠滅のおそれの一つの徴表であると考えられ、数回不出頭が重なれば逮捕の必要が推定されることがあると解されている。そうすると、検察官の出頭要求に応じて被疑者が出頭したものの、弁護人を取調べに立ち会わせることを求め、これを検察官が認めなかったことから、結果として被疑者の取調べを行うことができない事態が繰り返された場合に、検察官が、被疑者が正当な理由なく取調べを拒否しており、正当な理由のない不出頭を繰り返した場合に準じ、逃亡ないし罪証隠滅のおそれがあるとして逮捕の必要性があると評価することに合理的根拠がないとはいえず、本件においては、明らかに逮捕の必要がなかったということはできず、本件逮捕状の請求及び逮捕状の執行は、刑訴法及び刑訴規則の定める要件を満たす適法なものであったということができる。」「控訴人が弁護人の立会いなしでの取調べに1回応じなかったのみではいまだ罪証隠滅や逃亡のおそれが高まったとはいえないが、数回の出頭要求と説得を重ねたものの、結局控訴人単独での取調べに応じなかったことから罪証隠滅や逃亡のおそれが高まったと評価することに合理的根拠がないとはいえず、弁護人の取調べへの立会を求められた際に直ちに再度の逮捕状の請求をしなかったからといって、濫用目的があったと認めることはできない。」「また、控訴人は、別の理由として、本件逮捕状発付後に直ちに本件逮捕状が執行されていないことや、本件逮捕状による逮捕後の補充捜査が予定されておらず、逮捕当日に起訴されていること、在宅求令状の方法をとらず敢えて本件逮捕状請求をしていることなどから、上記濫用目的が認められると主張する。しかし、証拠(乙10ないし14、17)によれば、本件逮捕状の執行の嘱託を受けた担当警察官は、8月2日の本件逮捕状受領後に、控訴人が出張により帰宅しないこともあり、妻子があること等を考慮して、早朝の出勤時に逮捕することが適切であると判断し、早朝を中心に控訴人の動向を確認し、同月8日に控訴人を発見して本件逮捕状を執行したこと、控訴人は、逮捕当日の弁解録取手続及びその後の取調べで黙秘したことが認められる。このような事実関係からすると、検察官は、控訴人の主張を得て補充捜査を行うことができなかったことから、同日、公訴提起に至ったものと考えられ、本件逮捕状請求の時点で、逮捕後の補充捜査が予定されていなかったとは認めるに足りない。」
4 この裁判例は、刑事弁護を扱う弁護士には、不当な裁判例として有名です。黙秘権の行使ではなく、取調べ自体の拒否を推進するべきという考え方も(事案によっては)ありうるとされているところですが(取調べ拒否権を実現する会https://rais2024.jp/)、このような思考をする検察官や裁判官がいる(いた)ことも踏まえて、弁護方針を考えるべき場合もあります。
懲役及び禁錮が廃止され、個々の受刑者に応じて必要な作業や必要な指導を行う拘禁刑が導入されましたが、施行日の6月1日より前に懲役または禁錮に当たる罪を犯した場合には、なお懲役または禁錮により処罰されることになり、また、懲役受刑者や禁錮受刑者に拘禁刑が執行されることはありません。
施行日後の改正法の適用に当たり、施行前にした行為に関する罪と施行後にした行為に関する罪が同一罪名の場合には、併合罪の罪数処理の際に罪の軽重を決定する必要がでてきます。
すなわち、併合罪の処断刑については、「その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。」とされており、施行前の行為は懲役刑、施行後の行為は禁錮刑の軽重によって「その最も重い罪」が確定されます。
結論としては、罪の軽重は、懲役、拘禁刑、禁錮の順に重いとされており、拘禁刑ではなく懲役刑が課されることになります。
矯正の現場において、拘禁刑に一本化されるのはかなり先になることは明らかで、矯正職員の意識の整理も重要な課題となりそうです。
従来、弁護士が刑事事件の弁護人としては、若干軽視しがちだった部分ですが(弁護士会は人権救済案件として関与してきた分野ではあります)、拘禁刑の運用に対する関心・監視と、弁護活動への反映も重要になりそうです。
刑法第9章
(併合罪)
第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について拘禁刑以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。
(併科の制限)
第四十六条 併合罪のうちの一個の罪について死刑に処するときは、他の刑を科さない。ただし、没収は、この限りでない。
2 併合罪のうちの一個の罪について無期拘禁刑に処するときも、他の刑を科さない。ただし、罰金、科料及び没収は、この限りでない。
(有期拘禁刑の加重)
第四十七条 併合罪のうちの二個以上の罪について有期拘禁刑に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。
(罰金の併科等)
第四十八条 罰金と他の刑とは、併科する。ただし、第四十六条第一項の場合は、この限りでない。
2 併合罪のうちの二個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する。
(没収の付加)
第四十九条 併合罪のうちの重い罪について没収を科さない場合であっても、他の罪について没収の事由があるときは、これを付加することができる。
2 二個以上の没収は、併科する。
(余罪の処理)
第五十条 併合罪のうちに既に確定裁判を経た罪とまだ確定裁判を経ていない罪とがあるときは、確定裁判を経ていない罪について更に処断する。
(併合罪に係る二個以上の刑の執行)
第五十一条 併合罪について二個以上の裁判があったときは、その刑を併せて執行する。ただし、死刑を執行すべきときは、没収を除き、他の刑を執行せず、無期拘禁刑を執行すべきときは、罰金、科料及び没収を除き、他の刑を執行しない。
2 前項の場合における有期拘禁刑の執行は、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを超えることができない。
(一部に大赦があった場合の措置)
第五十二条 併合罪について処断された者がその一部の罪につき大赦を受けたときは、他の罪について改めて刑を定める。
(拘留及び科料の併科)
第五十三条 拘留又は科料と他の刑とは、併科する。ただし、第四十六条の場合は、この限りでない。
2 二個以上の拘留又は科料は、併科する。
(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
第五十四条 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
2 第四十九条第二項の規定は、前項の場合にも、適用する。
刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(令和四年法律第六十八号)
1 法定休日とは
法定休日とは、労働基準法第35条に基づき、雇用主が労働者に与えなければならない最低限の休日のことです。具体的には、「少なくとも週に1回、または4週間を通じて4日の休日」を確保することが法律で義務付けられています。この休日は、労働者が心身をリフレッシュし、健康的に働くための重要な権利という位置づけです。
ただし、法定休日は「必ず日曜日」、あるいは、「特定の曜日」と決めることまでは、労働基準法上求められてはいません。企業の実情や業種に応じて、柔軟に設定できます。大切なのは、法律が定める最低限の休日数を確実に確保することです。
2 所定休日、会社指定の休日等との違い
法定休日と混同しやすいのが、「所定休日」や「会社指定の休日」です。法定休日は法律で義務付けられた最低限の休日ですが、所定休日は就業規則や労働契約で企業が独自に定める休日を指します。例えば、土日を休日とする企業の場合、週1日の法定休日(例えば日曜日に法定休日と特定した場合)に加え、土曜日が所定休日となることがあります。
また、祝日や年末年始休暇は、法律上は休日付与義務がありません。これらは企業の裁量で設定される休日です。ただし、従業員のワークライフバランスを考えると、こうした休日を積極的に取り入れることは、離職率低下や採用力強化につながります。
3 法定休日の効果-未払い賃金のリスク等
法定休日に労働させた場合、通常の賃金に加えて「休日手当」(通常賃金の35%増以上)を支払う必要があります。また、法定休日を適切に付与しない場合、労働基準法違反となります。
1 割増賃金の算定基礎賃金の1時間当たりの単価計
そうすると、年次有給休暇を消化することで実労働時間が減少し、徐する数字が小さくなることにより、歩合給の労働者について割増賃金の単価ないしは割増賃金の総額が相対的に増えることが、構造上あり得ます。有休を消化する(消化した回数ないし時間が多い)ほど、歩合給の割増賃金が増えることになり、不都合ではないかとも思われます。
2 結論としては、 労働基準法施行規則第19条第1項第6号の「総労働時間」は、「実際に労働した時間」を指し、有給休暇を取得した時間は、総労働時間に含まれないと考えられています。
弁護士が会社側、労働者側のどちらからに相談に乗る場合にも、歩合給のある会社では問題となります。
3 有給休暇を取得すると、実労働時間が短くなる一方で、有給分の賃金が確保されます(労基法第39条)。
そのため、有給休暇の取得により割増賃金が増える場合、労働者にとっては経済的メリットとなり得ますが、そもそも実労働時間が減少することによって、歩合給のベースとなる成果が減少することも容易に想像されます。
労働基準法では、有給休暇は労働者の権利として保障されており(労基法第39条)、これを取得したことによる不利益な取扱いは禁止されています(労基法附則第136条)。したがって、有給取得による割増賃金の増加を理由に、労働者の権利を制限することは難しいですが、必要な場合には、歩合給の計算方法を含めた賃金に関する考え方の定期的な見直し、有給休暇の取得が割増賃金に与える影響を抑える設計を検討する(例:固定給部分を増やす、歩合の基準を調整する)等を検討するべき場合もあり得ます。
判例タイムズ1532号で、下請代金支払遅延等防止法、いわゆる下請法上の買いたたきに該当し不法行為に該当するとして損害賠償請求をした事案が紹介されています。
裁判所は、下請法上の買いたたき行為に該当したことをもって私法上の不法行為を構成するということはできず、下請事業者における適正な原価と一定の利益率を勘案して受け取るべき対価を措定して、親事業者の支払金額との間に著しい乖離があり、かつ、協議状況等の他の要素を考慮しても著しい乖離が正当化されない場合に限られると判示しています。
不法行為該当性については、適正な原価及び利益率と、実際に支払われた金額との差額に著しい乖離はないとして否定していますが(独占禁止法上の優越的地位の濫用を理由とする不法行為該当性も否定しています。)、請負契約または商法512条に基づき通常支払われる対価から既払金を控除した残額の相当報酬額については、下請事業者の請求を認めています。
上記の請求を認めるにあたっては、契約締結時において有償合意が存在するのみで具体的な報酬額の合意はされていなかっという認定や、見積書・注文書が作成されていてもそれに記載されている金額で合意されたとは認められないと認定している点も、この種の相談にのる弁護士にとっては参考になります。
なお、下請法は、用語も含めて大きな改正がなされており、法律名が、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」となり、下請事業者は「中小受託事業者」に、親事業者は「委託事業者」に、 下請代金は「委託等代金」に変わり、令和8年1月から施行されます。
株式会社が株主と合意して自己株式を取得する状況は、経済的には剰余金の配当と同じであり、株主に対する財産分配といえます。
株主総会において、各種の項目を定めることが必要となり、特別決議による必要があります(会社法140条2項、309条2項1号)。
さらに特定の株主から、会社が自己株式を取得する場合には、当該株主の氏名も決議することが必要です(会社法160条1項、309条2項2号)。
当該決議の内容を知った他の株主は、株式の売却機会の平等を図るために、売主として自分の株式を加えるように変更するよう請求することができることも定められています。
取得財源の規制及び期末の財産状態の予測からの規制にも注意が必要です。
なお、株主が出資した金額よりも、株式の譲渡価額が高い場合は、
令和7年6月1日から、改正刑法の施行により、懲役刑と禁錮刑が廃止され、拘禁刑が導入されました。
拘禁刑の対象となるのは、6月1日以降に行われた行為であり、起訴日や判決確定日は基準とはならず、既に受刑中の方が拘禁刑に転換されるわけでもありません。
1 株式の譲渡には、会社の承認が必要な旨定められている場合があります。
譲渡制限株式(会社法2条17号)と呼ばれ、中小企業の多くが発行しており、発行する全部または一部の株式の内容として譲渡制限の定款の定めを設けていない株式会社が、「公開会社」です(会社法2条5号)。
2 譲渡制限株式を換価、現金化しようとして当該株式を譲渡する場合には、譲渡する株式の数、当該株式を譲り受ける者の氏名、名称を明らかにして会社に請求することになります(会社法138条1項1号イ・ロ)。
会社法136条は、「譲渡制限株式の株主は、・・・他人・・・に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするかの決定をするか否かの決定をすることを請求することができる。」と定めています。
当該承認がない限り、株主名簿の名義書き換えを請求することができません(会社法134条)
3 譲渡の承認をしない場合に、当該株式会社か、当該会社が買取を指定する者に対し株式を買い取りを請求する場合にはその旨を明らかにします(会社法138条1号ハ)。
なお、譲渡制限株式の取得者が、譲渡制限株式を取得したことについての承認をするか否かの決定をすることを当該会社に請求できる旨会社法137条1項が定めています。
会社の事前の承認なしになされた譲渡制限株式の譲渡は会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間では有効とするのが最高裁判例の立場です。
4 会社は、譲渡を承認したか否かについてその内容を通知する必要があり、不承認とした場合にも、承認請求の日から2週間以内にその旨を通知しなかったときは、承認した扱いとなります。
5 会社または指定された買取人が買い取る場合、株主総会の特別会議により、株式を買い取ることおよび買い取る株式数を決議する必要があります。
会社・指定買取人が対象株式を買い取る旨の通知は、形成権の行使とされ、対象株式に関する売買契約が成立し、その後具体的な価格を協議することになります(会社法144条1項、7項)。
なお、会社法141条2項、142条2項は、買取の通知の要件として、1株当たり純資産額に買い取る対象株式の数を乗じて得た額を本店所在地の供託所に供託し、その供託を証明する書面を交付することを要求しています。
協議が調わないときは、裁判所に対し、「売買価格」の決定の申立てをすることができ(会社法144条2項、同7項)、裁判所は、「譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態の一切の事情」(会社法144条3項)を考慮することになります。
裁判所の決定に対しては、即時抗告ができます(会社法144条6項、7項)。
6 DCF法、収益還元法、配当還元法、純資産法などの評価手法を用いて、非流動性ディスカウントなどの調整が行われ、弁護士、公認会計士、税理士と連携して対応することが求められます。
なお、最高裁令和5年5月24日第三小法廷決定は、会社法144条2項に基づく手続きにより譲渡制限株式の売買価格の決定をする場合において、「当該譲渡制限株式に市場性がないことを理由に減価を行うことが相当と認められるときは、当該譲渡制限株式が任意に譲渡される場合と同様に、非流動性ディスカウントを行うことができるものと解される。」と判示しています。
会社が、従業員に辞めてもらうことを検討する局面で、弁護士として相談を受けることが多くあります。
一般的に、退職と解雇の場合についての違いは以下のとおりです。
1 退職(合意)
従業員からの退職届の提出または従業員と会社の合意によって労働契約を解約するもので、以下の類型があります。
⑴ 自己都合退職(労働者側の事情による退職)
ア 失業給付(失業手当)を退職後1か月間は受給できません(「給付制限」)。
イ 引継ぎをし、有給休暇を消化してから退職するのが一般的です。
ウ 会社が雇用関連の助成金を受給するにあたって、不利にならならいとされています。
⑵ 会社都合退職(会社からの働きかけによる退職)
ア 失業手当の給付制限はなく、自己都合退職よりも受給できる金額が有利になる場合があります。
イ 引継ぎをし、有給休暇を消化してから退職するのが通常です。
ウ 退職日から一定期間、会社は雇用関連の助成金を受給できなくなります。
2 普通解雇(会社から一方的に労働契約を解除すること)
⑴ 解雇には、一般的に以下のリスクがあるといわれています。
ア 解雇された従業員が、労基署や弁護士、労働組合等に相談に行き、解雇の有効性を争う可能性があります(退職の場合にも争われる可能性はあります。)。
イ 裁判所は、解雇の有効性を厳格に判断する傾向にあり、裁判所が解雇が無効であると判断すると、会社は従業員を復職させ、解雇したとされる日以降の賃金を支払う必要があります。
⑵ 手続き等の留意点は以下のとおりです。
ア 解雇の通知当日に労働契約を解除する場合は、同時に平均賃金30日分の解雇予告手当を支払う必要があります。
解雇予告手当を支払わない場合は解雇日(労働契約を解除する日)の30日前に予告が必要で、解雇予告手当として支払った平均賃金の日数分だけ、予告期間が30日から短縮されます。
イ 失業給付(失業手当)の給付制限はなく、自己都合退職よりも受給できる金額が有利になる場合もあります。
ウ 従業員は、解雇日以降は有給休暇を取得することはできません。
エ 解雇日から一定期間、会社は雇用関連の助成金を受給できなくなります。
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