中小企業庁が公表している事業承継ガイドラインでは、以下の5ステップが紹介されています(内容についてはかなり要約をしています。)。
事業承継に関する文献では言及されることが多いので、概要を知っていると役立つと思います。
1 事業承継に向けた準備の必要性の認識
概ね60歳を迎えた経営者に対して,事業承継準備に取組むきっかけを提供することが重要。
2 経営状況・経営課題等の把握(見える化)
⑴ 会社の経営状況の見える化
ア 適正な決算処理が行われているかを点検する。
イ 保有する自社株式の数を確認するとともに株価評価を行う。
ウ 自社の知的資産について,他社ではなく,なぜ,自社が取引先に選ばれているのか等という観点から自社の企業価値の源泉について適切に認識する。
エ 自社の業界内における位置付け等を客観評価する。
⑵ 事業承継課題の見える化
ア 後継者の有無を確認する。
イ 将来の相続発生を見据えて,相続税額の試算,納税方法等を検討する。
3 事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
⑴ 本業の競争力強化
「強み」をつくり,「弱み」を改善する。
⑵ 経営体制の総点検
ガバナンス,内部統制の向上に向けた取組み など
⑶ 経営強化に関する取組
財務状況をタイムリーかつ正確に把握する,経営者自ら利害関係者に財務情報を説明することにより信用力を獲得する など
⑷ 業績が悪化した中小企業における事業承継
債務免除などの事業再生が必要な場合には,弁護士等の専門家に相談することが重要。
代表者個人の負債整理について,経営者保証ガイドラインの利用。
4―1 親族内・従業員承継の場合~事業承継計画の策定
⑴ 中長期目標の設定
⑵ 事業承継計画の策定
ア 自社の現状分析
イ 今後の環境変化の予測と対応策・課題の検討
ウ 事業承継の時期等を盛り込んだ事業の方向性の検討
エ 具体的な目標の設定
オ 円滑な事業承継に向けた課題の整理
4-2 社外への引継ぎの場合~M&A等のマッチングの実施(第5)
⑴ M&A仲介機関の選定
⑵ 売却条件の検討
従業員の雇用・処遇を現状のまま維持したい など
5 事業承継の実行
判例タイムズ1467号185頁に掲載されている東京地裁平成30年6月8日判決です(東京高裁平成30年11月14日判決で公訴棄却の判断がなされているとのことです。)。
事案は、配置転換により勤務場所までの通勤時間が約3時間となったところ、会社が、勤務場所近くに転居するよう転居命令を発したが労働者が従わなかったことから、解雇したというものです。
会社が、当該労働者の長距離通勤が労働安全衛生法上不相当であると考えたことが事の発端だと考えられ、裁判所も、一般論として、個別の合意なく労働者の勤務場所を決定し、勤務場所の変更に伴う居住地の変更を命じて労務の提供を求める権限を有する旨判示しています。
そのうえで、当該転居命令が発された時期や、早朝・夜間の勤務の必要がないことや緊急時の対応が必要ないこと等の業務の内容、単身赴任による負担との比較等を具体的に検討し、転居を命令する義務まではないと判断されています。
判例タイムズのコメントによれば、転居命令について判断した裁判例は見当たらないということで、労務管理を考える際に、その判断枠組みや事実の検討が参考になるものと思います。
休業補償給付の要件として「労働することができない」がありますが,「労働することができない」とは,一般的に労働不能であることを意味すると考えられています。
つまり,現実に勤務先で行える仕事があるかないかにかかわらず,軽作業をできる状態であれば,「労働することができない」には該当しないと判断されることになります。
例えば,医師が「軽作業は可能」という意見を出している場合には,通院日以外は休業補償給付は支給されないということになります。
事業承継関係で最近重要な機能を有している認定支援機関の制度ですが,平成30年5月に中小企業等経営強化法が改正され,同年7月9日に施行され,5年間の有効期間が設けられました。
平成27年7月以前に認定を受けた認定支援機関については,更新の経過措置として令和2年3月31日までの集中受付期間が定められています。
4月1日以降は書面による更新申請ができず,「認定支援機関電子申請システム」による電子申請のみ認められることになります。
労働者に不利益な労働条件変更がなされた場合に有効になるためには,労働者の単なる同意ではなく、「自由な意思に基づく同意」を要求する一連の最高裁判例があります。
まず退職金債権放棄の意思表示について,「それが上告人の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならない」と判示し結論として有効性を肯定したシンガー・ソーイング・メシーン事件です。
次に、均等法9条3項で禁止される妊娠等を理由とする不利益取扱いに当たる降格について労働者が承諾した場合の効力が問題になった事案で,禁止される不利益取扱いに該当しない場合として,「当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」と判示し結論として否定した,広島中央保健生協(C生協病院)事件があります。
退職金規程の不利益変更について,「労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,……当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべき」と判示した山梨県民信用組合事件があります。
退職については,原則として労働者が自由にできるという意味では,上記裁判例で問題となった法律上の規制がないことから,「自由な意思」に基づく判断がなされたかという厳格な審査を要しないのではないかという考え方も十分成り立つと考えられます。
相談にのる弁護士としては、仮に「自由な意思」に基づくかの判断枠組みを採用する場合には、理論的には、退職の意思表示の瑕疵との関係についても整理しておく必要があると思います。
結果地無価値論で有名な町野朔先生が、信山社から刑法総論の本を出すようです。
法科大学院の刑法科目では、町野先生のほか、林幹人先生、島田聡一郎先生、岩瀬徹先生から講義を受けました。
1 令和2年4月1日から施行される改正民法では、消滅時効期間についての重要な変更があります。
2 原則的な時効期間と起算点について、166条1項1号で主観的起算点の考え方を導入し、『権利を行使することができることを知った時』から5年間、同項2号で客観的起算点として『権利を行使することができる時』から10年間の消滅時効期間を規定しています。
上記166条1項2号は現行法と同じ文言であることから、従来の客観的起算点を基準とする10年の消滅時効に加えて、同項1号の主観的起算を基準とする5年の消滅時効期間が導入されたということになります。
「権利を行使することができる時」という文言の従来の解釈として、法律上の障害がなくなった時と考えられていましたが、さらに、判例では、「権利行使が現実的に期待できるものであること」という解釈を示し、債権者の救済を図る場面もあったところですが、客観的起算点の解釈適用で考慮すればよいという見解が有力のようです。
3 生命身体に対する侵害については、例外的な消滅時効期間の規律が導入され、債務不履行責任と不法行為責任での統一化がはかられています。
4 賃金請求権については、労働基準法で定められた2年を5年に改正するべきとも考えられますが、労働政策審議会は、当面の間3年とするべき旨の建議を提出しています。
いよいよ4月1日に施行が迫った改正債権法では、保証人の保護を図る観点から、3種類の情報提供義務が導入されました。
一つ目は、主債務の履行状況に関する情報提供義務(458条の2)です(条文の順に列挙しています)。対象となる保証人は、委託を受けた個人・法人の保証人ですが、違反した際の規定はありません。
二つめは、主債務者の期限の利益喪失時における情報提供義務(458条の3)です。対象となる保証人は、委託の有無を問わず個人の保証人で、違反した債権者は、通知時までの遅延損害金相当額の保証履行の請求ができなくなります。
三つめは、契約締結時の情報提供義務(465条の10)です。事業のために負担する債務について委託を受けた個人の保証人が対象であり、保証人に対する情報提供がなされたとはいえない場合で、かつ、そのことについて債権者が悪意又は有過失である場合には保証人による契約の取消権が認められています。
以上のような情報提供に関する制度は、条文順に並べると、契約締結時、主債務履行時、期限の利益喪失時という弁護士が直感的に整理しやすい時系列とは一致しないことから、混乱しがちです。
整理の方法として、上記3つめの情報提供義務は独立して理解するのがよいと思います。
事業についての債務に関する保証契約については、情報提供義務の規律と一緒に(どのような事項をどの程度説明するべきかについて非常に悩ましい議論がなされています。)、保証意思宣明公正証書が有効要件となること、保証意思宣明公正証書の適用除外規定が議論されていることについてまずは押さえておくべきということです。
なお保証意思宣明公正証書の作成手続きについては、3月1日から施行されることになっています(参考公証人連合会ホームページ)。
身元保証ニ関スル法律1条は、「引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ期間ヲ定メズシテ被用者ノ行為ニ因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約」と定義しています。
潮見佳男「プラクティス債権総論(第5版)」677頁では、「身元保証とは、被用者の雇入れによって使用者に生じた損害の担保を目的とする保証のことを言う。」と記載されています。
この身元保証契約には、①被用者が使用者に対して損害賠償債務を保証する保証契約の性質を有するものと、②被用者が使用者に対して損害賠償義務を負うか否かにかかわらず被用者が使用者に対して負わせた損害を賠償する損害担保契約の性質を有するものがあると解されています(筒井健夫ほか『Q&A改正債権法と保証実務』(商事法務)81頁)。
上記①の性質を有すると判断される身元保証契約の場合には、改正債権法の適用があることになるため、極度額の定めがなければそれだけで当該身元保証契約は無効となります(改正民法465条の2)。
実務上極度額を定める場合には、具体的な金額をどう定めるか、例えば多額になることのある横領等を想定した場合など、更新のタイミング、経過措置などもあわせて、なかなか悩ましい問題が発生することになりそうです。