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刑事訴訟法301条の2第2項により却下された証拠を職権採用した裁判例

 名古屋地裁岡崎支部令和4年6月8日判決は、被疑者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録媒体に記録しておかなければならない(刑事訴訟法301条の2第4項)にもかかわらず履践していなかったとして、刑事訴訟法301条の2第2項により却下された証拠を、争いになっていた殺意の認定の証拠として職権により採用しています。

 捜査機関が刑事訴訟法に定められた手続きを履践しなくても、結果的に裁判所が証拠採用するとすれば、捜査機関の違法な捜査を是認するものであり、不当といえるでしょう。

 判決文の(証拠能力の判断について)の項目では、以下のような判断経緯が示されています。

1 判示第1の事実に関し、検察官は、被告人質問終了後、公判前整理手続において証拠調請求をしていた被告人の令和2年8月5日付け(乙8)及び同月7日付け(乙10)の各検察官調書中の弁護人不同意部分について、改めて刑訴法32 2条1項前段に基づく請求を行い、弁護人は、当該部分の任意性を争う旨の証拠意見を述べたところ、当裁判所は、上記各検察官調書の不同意部分につき、いずれも任意性の立証がなされていないと判断して却下したため、その理由を以下に補足して説明する。前提として、公判廷における被告人の供述状況を踏まえると、被告人は被誘導性が強いことが窺われるため、その供述の任意性は慎重に検討する必要がある。検察官が任意性立証のために請求した被告人に対する取調状況の録音録画に係る記録媒体(甲85)は、令和2年7月29日、同月31日、同年8月5日(乙8の作成日)、同月7日(乙10の作成日)の各取調状況の一部分のみが記録され たものであるところ、同月7日の取調べに係る音声映像は、乙10の不同意部分とは異なるやりとりを記録したもので、乙10の不同意部分に係る被告人供述がどのようなやりとりを経て作成されたかを明らかにするものではないから、これについて任意性が立証されたとは認められない(なお、乙10の請求に関して刑訴法301条の2第1項の手続が適切に履践されたとも認められない。)。次に、同月5日の取調べに係る音声映像は、乙8の不同意部分(Aの存在についての認識の程度や被告人が本件現場において被告人車両を向かわせようとした場所)に係るやりとりが記録されたものであるところ、被告人は、公判廷において、検察官調書の作成時に、Aをはっきり認識できていたか否かについて、あまりはっきり認識できていなかったという内容に供述調書を訂正するよう申し出たが、対応してもらえなかった旨述べていることや、作業車両(規制車両)と中央分離帯の間に突っ込ませようと思った旨の発言をしているにもかかわらず、乙8の不同意部分には作業員や作業車両に突っ込んだ旨の記載がなされていることを踏まえると、これについても任意性が立証されたとはいえない(刑訴法301条 の2第1項の手続も適切に履践されたとは認められない。)。

2 他方、前記判断を踏まえて検察官が請求した同年7月29日付け弁解録取書抄本(乙15、職4)については、やむを得ない事由(刑訴法316条の32第1項)があるとは認められないことや、刑訴法301条の2第1項の手続が適切に履践されたとは認められないこと(同2項)により却下は免れない。しかしながら、甲85に記録された同日の取調状況を見ると、検察官の質問が誘導的であるとは認められず、被告人も自らの言葉で具体的に供述しており、乙15(職4)はその供述と同内容が記載されているものであるから、任意性の立証はなされていると認められる。したがって、必要性に鑑み、これを職権で採用することが相当であると判断した。