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上告提起、上告受理申立てと強制執行停止の申立て

1 仮執行宣言付の敗訴判決について上告提起・上告受理申立てをした場合にも、控訴提起を行った場合と同じく、強制執行の停止の申し立てをすることができる旨、民事訴訟法403条1項2号が定めています。

 ただし、その要件は、①原判決の破棄の原因となるべき事情があること、及び、②判決により償うことができない損害を生ずるおそれがあることについての疎明が必要であり、控訴の場合の要件である、①原判決の取消し・変更の原因となるべき事情がないとはいえないこと、または、②執行により著しい損害を生ずるおそれがあること、と比べると、かなり厳しい要件であることが明らかです。

 申立書には、上告理由・上告受理申立て理由に記載するべき内容(憲法の違反があること、絶対的上告理由があること、判決に影響を及ぼすことが法令の違反があること)を記載することが要求されます。

 さらに、事後的に金銭賠償がされたとしても補償することができない損害であることの疎明も求められますし、提供が求めらる担保の額も多くなることが通常と考えられています。

2 強制執行停止の申立てを行い、裁判所が認容する場合には、担保提供命令を発し、法務局に供託したことを証する書面(供託書)を裁判所に提出することにより強制執行停止決定が出されます。

 刻一刻を争う状況で、以上の書面のやりとりを裁判所と法務局で行う必要があり、また、供託する金額が大きい場合には、電子納付や振込等の選択なども非常に神経を使います。

 また、担保提供命令の決定は、書面でなされることが通常と考えられますが(主文は、例えば、「申立人は、本決定の告知を受けた日から7日以内に、担保として金●万円を供託しなければならない。」というようなものです。)、口頭で告知することでも可能とされており(電話で告知されます。)、供託時に不安になる要素となります。

 控訴提起時の場合の主文は、例えば、「前記仮執行宣言付判決に基づく強制執行は、本案控訴事件の判決があるまで、これを停止する。」というようなものです。

3 それでは、上告提起・上告受理申立て時に供託が必要となる金額は、控訴提起時に供託した金額の差額を供託すればよいのでしょうか?

 この点については、差額を供託すればよいとは考えられておらず、上告・上告受理申立て時の担保提供命令の金額を供託しなければ、供託が受け付けられることはなく、強制執行停止命令も出されません。

 さらに、上告・上告受理申立て時の担保提供命令の金額を供託した場合にも、控訴の際に供託した供託金を取り戻すことができないと判断した大阪地裁昭和36年2月20日決定があり、民事訴訟を取り扱う弁護士としては注意が必要です。

 この点は、強制執行の停止によって相手方に生じる損害(執行が遅れたことによる原告の損害)を担保するという趣旨からは、大きな疑問があります。

 実務上、判決により認容された金額よりも、求められる担保の合計額が優に超える決定が出されることさえあります。

4 上告・上告受理申立ての際に、上記の事情等により強制執行停止の申立てが得られない場合には、一旦は敗訴当事者が支払いを行うべき場合もありますが、最高裁で結論が覆った場合には、清算の手続き(回収の手間等)が必要となることも別途想定しておく必要があります。

 勝訴当事者、敗訴当事者いずれの代理人弁護士であったとしても、対応に悩ましい問題があります。