名古屋市の弁護士 森田清則(愛知県弁護士会)トップ >> 弁護士業務一般 >> 不動産の所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士に当該申請の委任者以外の者との関係において注意義務違反があるとした原審の判断に違法があるとされた事例(最高裁令和2年3月6日判決)

不動産の所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士に当該申請の委任者以外の者との関係において注意義務違反があるとした原審の判断に違法があるとされた事例(最高裁令和2年3月6日判決)

1 いわゆる地面師が絡んだ不動産取引について,司法書士の責任が問われれた事例です。

  事案自体の固有の事情や,具体的な結論についても実務的に非常に重要ですが,最高裁判例及び草野裁判官の意見が判示している職業専門家についての部分について紹介したいと思います。

2 最高裁は,「司法書士法は,登記等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資することにより国民の権利の保護に寄与することを目的として(1条),登記等に関する手続の代理を業とする者として司法書士に登記等に関する業務を原則として独占させるとともに(3条1項,73条1項),司法書士に対し,当該業務に関する法令及び実務に精通して,公正かつ誠実に業務を行わなければならないものとし(2条),登記等に関する手続の専門家として公益的な責務を負わせている。このような司法書士の職責及び職務の性質と,不動産に関する権利の公示と取引 の安全を図る不動産登記制度の目的(不動産登記法1条)に照らすと,登記申請等の委任を受けた司法書士は,その委任者との関係において,当該委任に基づき,当該登記申請に用いるべき書面相互の整合性を形式的に確認するなどの義務を負うのみならず,当該登記申請に係る登記が不動産に関する実体的権利に合致したものとなるよう,上記の確認等の過程において,当該登記申請がその申請人となるべき者 以外の者による申請であること等を疑うべき相当な事由が存在する場合には,上記事由についての注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負うことがあるものと解される。そして,上記措置の要否,合理的な範囲及び程度は,当該委任に係る委任契約の内容に従って定まるものであるが,その解釈に当たっては,委任の 経緯,当該登記に係る取引への当該司法書士の関与の有無及び程度,委任者の不動産取引に関する知識や経験の程度,当該登記申請に係る取引への他の資格者代理人や不動産仲介業者等の関与の有無及び態様,上記事由に係る疑いの程度,これらの者の上記事由に関する認識の程度や言動等の諸般の事情を総合考慮して判断するの が相当である。しかし,上記義務は,委任契約によって定まるものであるから,委任者以外の第三者との関係で同様の判断をすることはできない。もっとも,上記の司法書士の職務の内容や職責等の公益性と不動産登記制度の目的及び機能に照らすと,登記申請の委任を受けた司法書士は,委任者以外の第三者が当該登記に係る権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し,このことが当該司法書士に認識可能な場合において,当該第三者が当該司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという正当な期待を有しているときは,当該第三者に対しても,上記のような注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負い,これを果たさなければ不法行為法上の責任を問われることがあるというべきである。そして,これらの義務の存否, あるいはその範囲及び程度を判断するに当たっても,上記に挙げた諸般の事情を考慮することになるが,特に,疑いの程度や,当該第三者の不動産取引に関する知識 や経験の程度,当該第三者の利益を保護する他の資格者代理人あるいは不動産仲介業者等の関与の有無及び態様等をも十分に検討し,これら諸般の事情を総合考慮し て,当該司法書士の役割の内容や関与の程度等に応じて判断するのが相当である。」と判示しています。

 そのうえで,「被上告人は,上告人と委任契約は締結しておらず,委任者以外の第三者に該当するものの,上告人が 受任した中間省略登記である後件登記の中間者であって,第2売買契約の買主及び 第3売買契約の売主として後件登記に係る所有権の移転に重要かつ客観的な利害を有しており,このことが上告人にとって認識可能であったことは明らかである。」「 しかし,上告人が委任を受けた当時本件不動産についての一連の売買契約,前件登記及び後件登記の内容等は既に決定されており,上告人は,そもそも前件申請が申請人となるべき者による申請であるか否かについての調査等をする具体的な委任は受けていなかったものである。」「上記の状況の下,上告人にとって委任者以外の第三者に当たる被上告人との関係において,上告人に正当に期待されていた役割の内容や関与の程度等の点について検討することなく,上記のような注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務があったと直ちにいうことは困難であり,まして上告人において更に積極的に調査した上で代金決済の中止等を勧告する等の注意義務を被上告人に対し て負っていたということはできない。」

3 弁護士出身の草野裁判官の意見では,「職業的専門家」を「長年の 研さんによって習得した専門的知見を有償で提供することによって生計を営んでい る者」,「依頼者」を「職業的専門家と契約を締結して同人から専門的知見を提供する旨の約束を取り付けた者」と定義し,「 職業的専門家は社会にとって有用な存在であり,その有用性は社会の複雑化と社会生活を営む上で必要とされる情報の高度化が進むほど高まるものである。そうで ある以上,専門的知見を依頼者以外の者に対して提供することを怠ったことを理由 として職業的専門家が法的責任を負うことは特段の事情がない限り否定されてしかるべきである。」ことの理由として,「職業的専門家が同人からの知見の提供を求めている者に遭遇した場合において,たとえその者が依頼者でなくとも当該職業的専門家は知見の提供をしなければならないという義務が肯定されるとすれば,知見を求める人々の側においてはわざわざ報酬を支払って依頼者となろうとする必要性が消失し,そ の結果として,職業的専門家の側においては安定した生活基盤の形成が困難となってしまう」こと,「職業的専門家が依頼者に提供する役務の質を向上させるためには職業的専門家と依頼者の間において高度な信頼関係が形成される ことが必要であるところ,それを達成するためには職業的専門家は依頼事項に関して依頼者の同意を得ずに依頼者以外の者に対して助言することはないという行動原理が尊重されなければなら」ないことを挙げています。 さらに,その例外として,「対応可能な職業的専門家が一人し かいない状況において知見の提供を必要とする突発的事態が発生した場合はその典型であろうが,他の例として,次の三つの条件が同時に成立する場合も特段の状況と評価してよいであろう。①法的には依頼者でないにもかかわらず職業的専門家から知見の提供を受け得ると真摯に期待している者がいること。②その者がそのような期待を抱くことに正当事由が認められること。③その者に対して職業的専門家が知見を提供することに対して真の依頼者(もしいれば)が明示的又は黙示的に同意を与えていること。 」を挙げています。

4 今回の判決は,直接には司法書士についての判示ではありますが,その判示については,草野意見を含めて,弁護士の専門家責任を考える上でも重要な判示をしているのではないかという観点からも,十分に検討するべき判決文だと思います。