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未払割増賃金の付加金請求権が除斥期間とされることの意味

 労働基準法114条で認められている付加金の請求権の2年(改正後の労働基準法では3年とされました)は除斥期間とされています。

 弁護士がいわゆる残業代請求を行う場合には,いきなり訴訟提起(労働審判を含む)をするのではなく,内容証明による請求を行って残業代請求権についての消滅時効の成立を回避しつつ,交渉し,合意に至らない場合に訴訟手続きを行うというのが一般的です。

 そうすると,未払割増賃金の請求権の2年(改正後の労働基準法では当面の間3年とされました)は時効を定めたものと解されていることから,未払割増賃金と「同一額」の付加金請求権が認められることはほとんどないということになります。

 いきなり訴訟提起しないことが紛争解決の観点からは望ましい場合があるとすれば,事実審の口頭弁論終結時までに会社が未払割増賃金を支払えば付加金支払いを命じることができないとする最高裁平成26年3月6日判決の立場からも,付加金が割増賃金の未払いに対する制裁的な制度としては徹底されていないと感じることもあるところです。

 なお,改正債権法に合わせて,4月1日から施行されている改正労働基準法の概要は以下のとおりです。

1 賃金請求権の消滅時効期間の延長等

 ・ 賃金請求権の消滅時効について、令和2年4月施行の改正民法と同様に5年に延長する。

 ・ 消滅時効の起算点が客観的起算点(賃金支払日)であることを明確化する。

 ・ 退職手当(5年)、災害補償、年休等(2年)の請求権は、現行の消滅時効期間を維持する。

2 記録の保存期間等の延長

 ・ 賃金台帳等の記録の保存期間について、賃金請求権の消滅時効期間と同様に5年に延長する。

 ・ 割増賃金未払い等に係る付加金の請求期間について、賃金請求権の消滅時効期間と同様に5年に延長する。

3 施行期日、経過措置、検討規定

 ・ 施行期日は,改正民法の施行の日である令和2年4月1日

 ・ 経過措置として,賃金請求権の消滅時効、賃金台帳等の記録の保存期間、割増賃金未払い等に係る付加金の請求期間は、当分の間は3年。 施行日以後に賃金支払日が到来する賃金請求権について、新たな消滅時効期間を適用する。

 ※この経過措置については,非常に議論のあったところであり,憲法も含めた議論が今後もなされるかもしれません。