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契約上の給付に起因して第三者に損害が発生した場合の不法行為責任についての考え方

1 契約に基づく給付が行われた場合に、それに起因して直接には契約関係にはない第三者が経済的損害を受けた場合に,不法行為責任を負うべきかについては議論があります(新注釈民法⒂788頁では,各種の「取引関係における不法行為」の内,「給付起因損害類型」と分類されています。同書では,不法行為法の議論の対象が,伝統的に取引行為が介在していない場合であったといえること,取引関係にある者の間では,契約責任と不法行為責任の選択や調整の議論が主にされてきたという指摘があります。)。

2 最高裁平成19年7月6日判決は、直接の契約関係にない建物取得者の設計・施工者等に対する不法行為責任を認めた裁判例です。

 当該判決では、「建物は,そこに居住する者,そこで働く者,そこを訪問する者等の様々な者によって利用されるとともに,当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在しているから,建物は,これらの建物利用者や隣人,通行人等(以下,併せて「居住者等」という。)の生命,身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず,このような安全性は,建物としての基本的な安全性というべきである。そうすると,建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者(以下,併せて「設計・施工者等」という。)は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者等に対する関係でも,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。」と判示しました。

3 このような場面で原則として不法行為責任を否定する根拠として、当事者の合意や任意法規により分配されているリスクが無意味になるという指摘や、賠償請求を直接の被害者に集中させるべきという指摘がされているようです。

  なお,債権者代位権の転用や,直接訴権の考え方により解決を目指す学説もあるようです。

4 登記手続きの専門家である司法書士の第三者に対する責任について判断を示した最高裁令和2年3月6日判決では、「司法書士の職務の内容や職責等の公益性と不動産登記制度の目的及び機能に照らすと,登記申請の委任を受けた司法書士は,委任者以外の第三者が当該登記に係る権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し,このことが当該司法書士に認識可能な場合において,当該第三者が当該司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという正当な期待を有しているときは,当該第三者に対しても,上記のような注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負い,これを果たさなければ不法行為法上の責任を問われることがあるというべきである。」として,弁護士の専門家責任を考える上でも重要な指摘といえます。