名古屋市の弁護士 森田清則(愛知県弁護士会)トップ >> 刑事 >> 性犯罪に関する刑事法検討会委員の「自己紹介及び意見」

性犯罪に関する刑事法検討会委員の「自己紹介及び意見」

 法務省において,性犯罪に関する刑事法の検討会が開催されています。

 著名な刑法学者,刑事訴訟法学者,弁護士,臨床心理士等が委員として参加しています。

 刑事実体法の観点からは,暴行脅迫要件の撤廃や不同意性交等罪の創設等が議論されるようです。

 また,刑事訴訟法の観点からは,公訴時効制度の見直し,刑事手続における司法面接の位置付け,起訴状における被害者の氏名秘匿制度の創設等が議論されるようです。

 かなり珍しいと思いますが,同検討会について,「開催にあたって提出された各委員の自己紹介及び意見」が掲載されています。

 井田良中央大学教授(座長)の ,「この検討会に期待されているのは,2017年の刑法一部改正後の状況を踏まえ,より効果的な被害者保護を可能にするとともに,無罪推定の原則をはじめとする伝統的な刑事法の基本原則をゆるがせにすることのない,新たな性犯罪処罰の在り方を模索し,その将来像を描くことであると考えています。しかし,それは言うは易く,応じることはきわめて困難なミッションで す。刑事立法の全体に通じることですが,法改正にあたっては,立法事実としての被害の実態についての正確な認識が前提とされるのはもちろん,現行の刑事実務についてのバランスのとれた深い知識が必要であり,過去と現在の日本の刑罰法令についての周到な理解,外国の法制についての幅広い知見,さらには,およそ刑法の果たすべき社会的機能と役割についての理論的・法哲学的洞察も欠くことはできないでしょう。超人でもなければ,1人でそれらすべてを兼ね備えることはできません。したがって,複数の専門家がそれぞれの立場からの知見を提供し合い,それぞれに足らざるところを謙虚に学び合い,補い合うことなくしては,困難なこの課題に応えることは到底できないのです。」,「委員の皆さんには,ぜひお願いしたいことがあります。それぞれの領域の専門家であれば,自分の領域に関わる他の委員の発言の中に認識不足を感じられることがあるかもしれません。しかし,そういう自分の発言が,他の専門領域に踏み込むときには,底の浅さを露呈しないという保証はないのです。われわれ1人ひとりは,この巨大なテーマの前では実にちっぽけな存在にすぎないという謙虚さを持つべきでしょう。自分の得意とする領域に関わる他の委員の発言には大いに寛容であるべきですし,逆に,自分の専門領域を越えたところにある論点についても,遠慮なく発言していただきたいと思います。この検討会では,協力的・協調的な雰囲気の中で,それぞれの分野の専門家の集まりらしく質の高い,しかも気品のある議論を展開することにより,わが国におけるこの種の議論の模範を示すことができれば,と思っております。」という部分が,この検討会の扱う問題の難しさを端的に示しているような気がします。

 また,和田俊憲東京大学教授の意見は,「 まず,強制性交等罪や強制わいせつ罪といった中核的な性犯罪を,純粋に性的自由に対する 罪と見るのは,もはややめた方がよいと考えている。」という文章から始まります。 

 この論点に興味のある方は,一読をお勧めします。