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相続させる旨の遺言がなされた場合の対抗要件具備に関する遺言執行者の権限

 従来、相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)がなされた場合、権利を承継した相続人が単独で登記申請することができたことから、最高裁平成11年12月16日は、遺言執行者の職務は顕在化せず、登記手続きをするべき権利も義務も有しないと判示しました。

 しかし、改正民法899条の2第1項は、法定相続分を超える権利の承継については、対抗要件なく第三者に権利の取得を対抗することができないことを規定したことから、改正民法1014条2項は、遺言執行者が、特定財産承継遺言により財産を承継する受益相続人のために対抗要件を具備する権限を有することを明確化しました。

 なお、改正民法のもとでも、受益相続人が単独で登記を申請することはできると解されています。




配偶者居住権の成立要件

 配偶者居住権は、①配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に居住しており、かつ、②⑴当該建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割がされた場合、⑵遺贈がされた場合、⑶死因贈与がされた場合に成立します(改正民法1028条)。

 改正民法1029条は、家庭裁判所が、①共同相続人の間で配偶者に配偶者居住権を取得させることについて合意が成立している場合に加えて、②配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認める場合に限り、配偶者居住権を取得させる審判をすることができることを定めています。

 配偶者居住権により、家族信託の活用場面として期待されている機能が代替できるとの評価もされていますが、附則10条2項は、施行日前にされた遺贈についてついては適用しないこととしています。




商人間の留置権

 商法521条は、商人間における特別の留置権を規定しています。

 ①当事者双方が商人であること、②被担保債権が当事者双方のために商行為であること、③留置権の目的物が債務者の所有に属する物または有価証券であること、④債務者との間における商行為によって、債務者の占有に帰したものであること(被担保債権と個別的関連性があることは要求されない点で民事留置権と異なります。占有取得の原因が債務者との商行為、例えば、債権者・債務者間の寄託契約や賃貸借契約など)、⑤被担保債権の弁済期が到来していること、が要件として定められています(521条ただし書は、特約による留置権成立の排除を認めています)。

 ③との関連で、最高裁平成29年12月14日判決は、留置の目的物に不動産が含まれると判示しました(占有を要件とせず登記の前後により優先権が決定される抵当権との競合により不動産取引の安全を害するのではないかという観点から議論がありました。)。

 また,民事留置権は,目的物が債務者の所有である必要がない点は,それぞれの留置権の沿革が異なることによるものと考えられ,合理性について疑問も生じるところです。

 商事留置権の効力は商法に規定がないことから民法296条以下の規定によることとなり、留置権者は弁済を受けるまで留置目的物を留置し、これにより生ずる果実(民法88条)を取得することはできるが(民法297条)、留置目的物を売却してその代金を自己の債権に充当することはできず、また、競売にかけることはできるが(民事執行法195条)、換価代金について優先弁済を受けることはできないこととされています。

 なお商法は、代理商(31条)、問屋(557条)、運送取扱人(562条)、運送人(574条)の留置権も定めています。 




相続による不動産承継の対抗要件に関する改正

 最高裁は、いわゆる相続させる旨の遺言(改正民法では、特定財産承継遺言)や、相続分の指定が遺言でされた場合に、登記等の対抗要件を具備しなくても、権利の取得を第三者に対抗することができるとしていました。

 改正民法899条の2第1項は、「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分〔法定相続分〕を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」と定め、相続を原因とする権利変動(遺産分割、相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈)について利益を受ける相続人は、対抗要件を備えなければ法定相続分を超える権利の取得を第三者に主張することができないこととしました。

 対抗要件を要求する範囲を法定相続分を超える部分に限定したのは、特定財産承継遺言や相続分の指定がなくても法定相続分に相当する権利については取得することができることから、相続による権利の承継について権利の競合が生じるのは、法定相続分を超える部分に限られることを理由とするものです。

 なお、理論的な問題として、受益相続人以外の相続人は(第三者に遺産を処分した)無権利者であり、その無権利者からの譲受人も無権利者であることを前提としてきた判例理論あるいは従来の考え方の整合性なり位置づけは問題となり得ると考えられます。




新しい在留資格の創設

 出入国管理及び難民認定法の改正により,「真に受入れが必要と認められる分野」に限定して新たな在留資格が創設されました。

 一つ目が,不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に属する「相当程度の知識または経験を必要とする技能」を有する業務に従事する外国人が対象となる特定技能1号であり,二つ目が,不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に属する「熟練した技能」を有する業務に従事する外国人が対象となる特定技能2号であり,入管法別表第1の2に規定されました。

 特定技能1号の在留期限は1年,6か月,または,4か月で,更新による通算の上限が5年であり,家族の帯同は基本的に認められていません。

 一方,特定技能2号の在留期限は,3年,1年,または,6か月で,更新による上限の定めがなく,家族の帯同が認められています。

 上記産業上の分野は,介護,ビルクリーニング(以上について厚労省所管),素形材産業,産業機械製造業,電気・電子情報関連産業(経産省),建設,造船・舶用工業,自動車整備,航空,宿泊(国交省),農業,漁業,飲食料品製造業,外食(農水省)が定められています。

 弁護士としては,今回の法改正を受けて大幅に改正された「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」と,「技能実習の適切な実施・技能実習生の保護を図り,人材育成を通じた開発途上国への技能または知識の移転による国際協力を推進する」ことを目的とする技能実習法とともに,制度を理解しておく必要があります。




契約書の著作物性

 著作物というためには、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの(著作権法2条1項1号)と評価される必要があります。

 東京地裁昭和40年8月31日判決は、船荷証券の用紙について、「被告ないしその取引相手方の将来なすべき契約の意思表示にすぎないのであって、原告の意思はなんら表白されていないのである。従って、そこに原告の著作権の生ずる余地はないといわなければならない」と判示しており、東京地裁昭和62年5月14日判決は、土地売買契約書の案文について、「『思想又は感情を創作的に表現したもの』であるとはいえない」と判示しています。

 創作性の程度については、表現の選択の幅を基準にする見解が有力であり、たまたま最初に契約書を作成した者に長期間の独占を認めることの弊害の観点から、著作物性を一律に否定する見解や原則的に否定する見解があります。




取引先の選択と独占禁止法

 事業者が,取引先を自由に選択することは,独占禁止法の保護法益である自由競争経済秩序の基盤として保護されるべきことから,取引拒絶の内,単独の取引拒絶は,原則として,独占禁止法上の問題は生じないと整理されますが,取引拒絶が「不当に」行われると評価された場合には,不公正な取引方法として違法となります(独占禁止法2条9項6号イ,一般指定2項)。

 「不当に」とは,独占禁止法2条9項6号柱書の「公正な競争を阻害するおそれ」を指し,流通・取引慣行ガイドラインは,「独占禁止法法上違法な行為の実効を確保するための手段として取引を拒絶する場合には違法とな」ること,「競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として取引を拒絶する場合には独占禁止法上問題となる。」ことを定めています。




校則と就業規則の拘束力の法的根拠

 校則が学生を拘束する法的根拠は、就業規則が従業員を拘束する法的根拠についての議論が参考になるかもしれません。




副業先や前勤務先の労働時間との通算と実務上の対応

1 厚生労働省から,「改正労働基準法に関するQ&A」が公表され,転勤や転職をした労働者に対して,時間外労働の上限規制がどのように適用されるかが示されました。

 大企業に対して4月1日から適用されている(中小企業に対しては令和2年4月1日から適用)新しい時間外労働の上限規制は,以下の3つとなっています。

① 36協定により延長できる時間の限度時間(月45時間,年360時間)

② 36協定に特別条項を設ける場合の1年の延長時間の限度(年720時間)

③ 時間外労働と休日労働の合計で,単月100時間未満,2~6か月平均80時間以内(なお,2~6か月の期間には,新しい上限規制の適用開始前の期間は含まれません。)

「Q&A」では,同一企業内のA事業場からB事業場へ転勤した労働者について,①と②は,事業場における36協定の内容を規制するものであるから通算されず,③は労働者個人の実労働時間を規制するためのものであり,通算して適用されるとされています。

また,質問の文中ではありますが,「副業・兼業や転職の場合,休日労働を含んで,1か月100時間未満,複数月平均80時間以内の上限規制が通算して適用されることとなりますが,」と明記されており,③の上限規制が通算して適用されるのは,転勤に限らず副業・兼業や転職の場合にも及ぶことも明らかにされています。

2 使用者としては,同一企業内で管理可能な転勤はともかく,副業・兼業や転職の場合に副業先や前の勤務先での労働時間を把握する必要があることになりますが,どのように把握するかが大問題です。

 「Q&A」では,現実的に副業先や前の勤務先から労働時間についての回答を得ることは困難であるため,「労働者からの自己申告により把握することが考えられる」としています。

 例えば採用面接の際に応募者が,前の勤務先で月80時間を超える時間外労働,休日労働を行っていたと申告した場合,採用する会社側としては,時間外労働,休日労働を極力制限したとしても,前の勤務先の時間外労働,休日労働を通算すると「2~6か月平均80時間」を超過する可能性があり,前職を退職後からある程度の期間を空けて採用する,採用をあきらめる等を考えなければなりません。

 また,採用された労働者が,採用面接の際に前の勤務先での時間外労働,休日労働を過少に申告していた場合,前の勤務先と現在の勤務先を通算すると上限規制に違反している,という事態も想定されます。

 さらに,応募者が前の勤務先での時間外労働の時間が分からない,あるいは,あいまいな回答をするような場合には,どの程度まで調査をすればよいのかについても非常に悩ましい事態が考えられます。




詐欺的に取得されたDNA型情報に基づく鑑定書の証拠能力が否定された事例

 問題となった鑑定書について、東京高裁平成28年8月23日判決は、「平成27年1月28日,荒川河川敷沿いの甲の曝気施設付近にテントを張って生活していた被告人のところに,埼玉県警察本部所属の警察官であるA及び同Bが赴き,被告人から話を聞きたいと述べた上,荒川河川事務所から入手した資料を見せるなどしながら, 周辺のホームレスについての話をし,その際,被告人に持参した紙コップで温かいお茶を勧め,被告人が飲んだ後,DNA採取目的を秘し,そのコップを廃棄するとしてAが回収したこと,その様子をBが撮影していたこと,被告人が使用した上記紙コップからDNAを採取し,その資料を基に原判示第1の事実にかかる被告人の逮捕状が請求されたこと,その逮捕後の平成27年2月12 日に被告人が口腔内細胞を任意提出し,それについてDNA鑑定をした鑑定書が本件鑑定書である。 」としています。

 同判例は、以下のとおり判示して、鑑定書の証拠能力を否定しました。

「被告人は,・・・ 相手がホームレスの話しかしなかったので,国交省の人間だと思い込み,勧められるままに紙コップを手にしてお茶を飲み,被告人が飲んだ後,DNA採取目的を秘し,そのコップを廃棄するとしてAが回収したものと認められる。そうすると,本件においては,Aらは,Aらが警察官であると認識していたとすれば,そもそもお茶を飲んだりしなかった被告人にお茶を飲ませ,使用した紙コップはAらによってそのまま廃棄されるものと思い込んでいたと認められる被告人の錯誤に基づいて,紙コップを回収したことが明らかである。 」

「強制処分であるか否かの基準となる個人の意思の制圧が,文字どおり,現実に相手方の反対意思を制圧することまで要求するものなのかどうかが問題となるが,当事者が認識しない間に行う捜査について,本人が知れば当然拒否すると考えられる場合に,そのように合理的に推認される当事者の意思に反してその人の重要な権利・利益を奪うのも,現実に表明された当事者の反対意思を制圧して同様のことを行うのと,価値的には何ら変わらないというべきであるから,合理的に推認される当事者の意思に反する場合も個人の意思を制圧する場合に該当するというべきである(最高裁判所平成21年9月28日第3小法廷決定参照)。したがって,本件警察官らの行為は,被告人の意思を制 圧して行われたものと認めるのが相当である。」

「相手方の意思に反するというだけでは,直ちに強制処分であるとまではいえず,法定の強制処分を要求する必要があると評価すべき重要な権利・利益に対する侵害ないし制約を伴う場合にはじめて,強制処分に該当するというべきであると解される。本件においては,警察官らが被告人から唾液を採取しようとしたのは,唾液に含まれるDNAを入手し鑑定することによって被告人のDNA型を明らかにし,これを,・・・DNA型記録確認通知書に記載された,合計11件の窃盗被疑事件の遺留鑑定資料から検出されたDNA型と比較することにより,被告人がこれら窃盗被疑事件の犯人であるかどうかを見極める決定的な証拠を入手するためである。警察官らの捜査目的がこのような個人識別のためのDNAの採取にある場合には,本件警察官らが行った行為は,なんら被告人の身体に傷害を負わせるようなものではなく,強制力を用いたりしたわけではなかったといっても,DNAを含む唾液を警察官らによってむやみに採取されない利益(個人識別情報であるDNA型をむやみに捜査機関によって認識されない利益)は,強制処分を要求して保護すべき重要な利益であると解するのが相当である。以上の検討によれば,前記のとおりの強制処分のメルクマールに照らすと,本件警察官らの行為が任意処分の範疇にとどまるとした原判決の判断は是認することができず,本件捜査方法は,強制処分に当たるというべきであり,令状によることなく身柄を拘束されていない被告人からその黙示の意思に反して唾液を取得した本件警察官らの行為は,違法といわざるを得ない。」

「本件捜査方法は,DNA型という個人識別情報を明らかにするため,身柄を拘束されておらずAらが警察官であることも認識していない被告人に対し,紙コップを手渡してお茶を飲むように勧め,そのまま廃棄されるものと考えた被告人から同コップを回収し,唾液を採取するというものであるところ,本件捜査方法は,上司とも相談の上,最初から令状主義を潜脱する目的で採用されたものであることが明らかである上,・・・,Aにおいて,本件捜査方法を採用したことを合理化するため,原審公判において真実に反する供述,信用することのできない供述を重ねているという事情も認められる。したがって,本件警察官らの行為は,・・・なんら被告人の身体に傷害を負わせるようなものではなく,強制力を用いたりしたわけではないといっても,本件警察官らの行為及びこれに 引き続く一連の手続には,令状主義の精神を没却する重大な違法があり,本件鑑定書を証拠として許容することは将来における違法捜査抑制の見地から相当でないというべきであるから,本件鑑定書については,違法収集証拠としてその証拠能力を否定すべきである。」




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