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相続法改正の経緯

 今年7月に成立した相続法の改正の直接のきっかけは,非嫡出子の相続分に関する最高裁平成25年9月4日決定とされています。

 諮問第100号は,「高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続に関する規律を見直す必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」となっており,民法(相続関係)部会が設置されました。

 配偶者に対する配慮としては,相続開始時の配偶者の年齢が相対的に高くなっており生活を保護するべき必要性が高まっていること,少子化により子に対する取得割合が配偶者と比べて相対的に高まっているといえることが指摘されていますが,配偶者の相続分の改正はなされず,配偶者居住権,配偶者短期居住権,持ち戻しの免除等の改正がなされました。




裁判官に対する懲戒申立事件最高裁決定の調査官解説

 今日届いたジュリスト1527号102頁に掲載されています(有斐閣ホームページ)。

 裁判所法49条の「品位を辱める行状」の該当性については,基本的には,最高裁決定をなぞる記載になっていますが,表現の自由との関係では,「本件における被申立人の行為は表現の自由として裁判官に許容される限度を逸脱したものである旨を簡潔に説示している。」と評価・解説しています。

 なお,議論を呼んでいる補足意見が触れたthelast strawの理論については触れられていません。 




個人再生手続きにおける否認対象行為と清算価値の考え方

 個人再生手続きでは、通常民事再生で規定されている否認権(詐害行為否認、偏頗行為否認)の適用が、手続きの簡易性・迅速性の要請から、除外されています。

 ただし、清算価値保障原則の観点からは、否認対象行為を考慮して再生計画を立案する必要があります。

 清算価値に計上する方法としては、単純に偏頗弁済の金額とすることも考えられ、実務上そのような取扱いを裁判所から指示されることも多い印象があります。

 しかし、申立代理人弁護士の立場とすれば(、理論的な観点や回収可能性の観点からも)、否認権の要件を実際に充足するのかや、清算価値の算定において配当見込額を控除する方法などについても検討するべきだと考えられます。




アーンアウト条項の検討事項

 アーンアウト条項とは,M&A取引において,一定の財務指標や,新製品開発などの非財務的な指標を基準にして,当該指標が達成された場合に売主に追加で対価を支払うことを内容とする条項です。

 売主と買主の間で,対象会社の企業価値すなわち譲渡価格の主張に開きがある場合に,その開きを埋めて取引を成立させるというメリットが指摘されます。

 売主の経営株主が契約締結後も経営に関与する場合には,経営に対するインセンティブとして機能する側面がある一方で,経営株主に対する何らかの補償請求権が発生した場合に追加で発生した譲渡対価請求権と相殺できるようにしておけば,当該請求権の保全手段としても機能することになります。

 一方で,契約締結後は,基本的に対象会社をコントロールできる買主側が,アーンアウト条項の指標との関係で自己に有利となるように操作するインセンティブが発生するという問題も指摘されています。

 アーンアウト条項は,検討がされるものの,結果としては採用されないことも多いようです。




任意後見契約の法定後見に対する優先性

 任意後見契約が公正証書により作成されその旨の任意後見についての登記がなされている場合、法定後見の申立ては、「本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り」、法定後見の開始の審判をできることとされています(任意後見契約に関する法律10条1項)。

 任意後見監督人の選任後法定後見が開始された場合には、任意後見契約は終了しますが(任意後見契約に関する法律10条3項)、任意後見監督人選任前に法定後見の開始の審判がなされた場合には当然には任意後見契約は終了しません。

 法定後見開始後に任意後見監督人選任の申立てがあった場合には、原則として任意後見監督人が選任され後見開始の審判は職権で取り消されることになりますが(任意後見契約に関する法律4条2項)、本人の利益のため特に必要であると認められる場合には、任意後見監督人の選任はされず(任意後見契約に関する法律4条1項2号)、法定後見が継続されることになります。




団体交渉の参加人数を理由に団体交渉を退席することが不当労働行為に該当するか

 判例時報2385号84頁で,東京地裁平成30年1月29日判決が紹介されています。

 タイトルは,「団体交渉への参加人数に係る求めに応じない限り団体交渉の議題に入らないとし,右求めに係る労働組合側の質問に回答せず,最終的に団体交渉を退席した使用者側の各対応が,団体交渉拒否の不当労働行為に当たると判断された事例」となっています。

 「団体交渉に出席する者の人数を何名とするのか(これと密接に関連するものとして誰を出席させるのか)という事柄は,第一次的には,団体交渉に当たるそれぞれの当事者(労働組合及び使用者)においてする自主的な判断に委ねられるべき性質のものである。もとより,団体交渉のルールを当事者双方による協議によって作ることは望ましいものと考えることができるから,原告において,団体交渉の相手方である被告補助参加人に対し,組合側出席者の人数を7名以内にするように求めることや,その協議を求めること自体は許されるとしても,被告補助参加人が当該人数の制限の求めをそのまま応諾しなかったからといって,それを理由に団体交渉の議題に入らないとの態度をとることは,当該求めの内容とされる出席者の人数の制限についての客観的な必要性及び合理性を勘案し,当該求めが相当であると認められるものであるといった特段の事情のない限りは,許されるものではないものというべきである。」と判示しています。

 実際に団体交渉の参加人数をどのように決めるかは悩むこともあり,参考になる裁判例だと思います。




相続させる遺言と登記手続きに関する遺言執行者の権限

 相続開始時に被相続人名義となっている不動産について,相続させる旨の遺言がある場合には,遺言執行の余地がないのが原則とされます。

 このことは,特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言の効力に関する最高裁判例が判示するところです。

 しかし,最高裁平成11年12月16日判決は,包括的に相続させる旨の遺言が取り消されたのちに,新たに特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がなされたにもかかわらず,取り消された遺言に基づいて所有権移転登記がなされた事案で,相続させる旨の遺言の場合に遺言執行者に登記の権限がある旨判示しています。




弁護士会照会報告拒絶に対する報告義務確認請求訴訟の最高裁判決についての会長談話

 愛知県弁護士会が当事者となっていた,弁護士会照会に関する最高裁判決を受けて,会長声明が出されています(愛知県弁護士会ホームページ)。

 弁護士会照会実務に対する今回の最高裁判例の事実上の影響は,特に回答する側の判断に対して,あるような気もします。




弁護士費用の請求

 弁護士費用を相手方に請求することができるかという質問を受けることがあります。

 最高裁昭和44年2月27日判決は、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を追行するための弁護士費用の内、一定の範囲(事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる範囲)で不法行為と相当因果関係のある損害として認めました。

 また、最高裁平成24年2月24日判決は、労働者が使用者に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求訴訟を追行した場合の弁護士費用の一部について請求を認めました。

 弁護士費用の賠償が認められるとすると、弁護士費用敗訴者負担制度を採用していない現行制度と矛盾する側面があるのではないか、被告が勝訴した場合には相手方に弁護士費用を負担させる手段がないにもかかわらず原告が勝訴した場合にだけ弁護士費用の一部を相手方に負担させることができる点に対する違和感なども指摘されているところです。

 なお、弁護士費用の請求が認められる場合にも、認容額の1割程度ということが多く、ご負担いただいた弁護士費用の全額の請求が認められるわけではありません。




民事信託と遺留分について判断した裁判例(東京地裁平成30年9月12日判決)

 一部で話題になっていますが、東京地裁平成30年9月12日判決は、民事信託と遺留分の関係について判断しています。

 争点は多岐にわたりますが、民事信託との関係では、本件信託契約時の委託者の意思能力の有無、本件信託が公序良俗に反するか、本件信託が有効な場合に遺留分減殺の対象は信託財産か受益権か等が判断されています。

 最も議論を呼びそうなのが、本件信託契約の一部を公序良俗に反して無効であることを導くに際し、他の部分では「仮に遺留分が侵害されているならばそれを行使して利益の回復を図ることができるのであるから、・・・本件信託が遺留分逃れのものであるということはできない。」と指摘しつつ、「民法上認められた遺留分減殺請求権の行使を妨げる内容の信託が許されることになるものではない。」と指摘している点です。

 いずれにせよ信託契約を提案する弁護士としては、検討が必須の裁判例といえます。




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