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五十嵐禎人・岡田幸之編「刑事精神鑑定ハンドブック」(中山書店)

 中山書店から出されました(中山書店ホームページ)。

 中山書店からは,「刑事事件と精神鑑定」が出ていましたが,やや古くなり使いづらい印象を持っていました。

 この分野で著名な医師,元裁判官,検察官,弁護士などが執筆しており,責任能力が問題となる事案で,まず参照するべき文献として適切という印象を持ちました。




全過程の取調べ可視化の例外事由への対応

 平成31年6月までに施行が予定されている改正刑事訴訟法301条の2第4項は、同条第1項で定める対象事件についての取調べの全過程の録音・録画義務とその例外事由を、以下のとおり定めています。

 弁護士としては、録音・録画されることを原則とすべきことから、できるだけ例外事由に該当しないような弁護実践が求められるといえますが,一方で,録音・録画された媒体が,実質証拠として位置づけようとする検察側の動きもないわけではないことから,2号の活用もポイントになるかもしれません。

 ただし,2号や4号については,捜査機関側が,被疑者が「記録を拒んだ」として,録音・録画をしない口実に活用することも懸念されるところであり,慎重な検討が求められると考えられます。

① 記録に必要な機器の故障その他のやむを得ない事情により,記録をすることができないとき。

② 被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動により,記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき。

③ 当該事件が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(略)第3条の規定により都道府県公安委員会の指定を受けた暴力団の構成員による犯罪に係るものであると認めるとき。

④ 前二号に掲げるもののほか,犯罪の性質,関係者の言動,被疑者がその構成員である団体の性格その他の事情に照らし,被疑者の供述及びその状況が明らかにされた場合には被疑者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあることにより,記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき。




加戸守行ほか「平成30年改正著作権法施行に伴う柔軟な権利制限規定による著作物の利用拡大とこれからの課題(上)」

 NBL1143号に連載されています。

 著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用を定めた改正著作権法30条の4,電子計算機における著作物の利用に付随する利用等を定めた改正著作権法47の4,電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等を定めた改正著作権法47条の5の解説だと思いますので,必読だと思います。




著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用についての権利制限規定

 平成30年の改正により、以下のとおり、著作権者の許諾なく利用できる場合を定める著作権法30条の4が規定され,機械学習に必要な学習用データを作成する場面において著作権者の許諾を得ることなく著作物を利用できる範囲が広がりました。

 同条が定める場合には、著作権法が保護しようとしている著作権者の利益を通常損なわないものと評価されるとの考えに基づくものです(但し書きも参照)。

 著作物利用に係る技術開発、情報解析、人の知覚による認識を伴わない利用を例示として挙げており、ディープランニングによる人工知能の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録する行為や、プログラムの調査解析を目的とするプログラムの著作物の利用などが権利制限の対象となるといわれています。

 その他の改正を含めて,文化庁ホームページ(特に,著作権法の一部を改正する法律(平成30年改正)について(解説))をご覧ください。

(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合




23条照会に対する報告を拒絶する行為は弁護士会に対し不法行為を構成するか

 最高裁平成28年10月18日判決は、「23条照会の制度は,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたものである。そして,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解されるのであり,23条照会をすることが上記の公務所又は公私の団体の利害に重大な影響を及ぼし得ることなどに鑑み,弁護士法23条の2は,上記制度の適正な運用を図るために,照会権限を弁護士会に付与し,個々の弁護士の申出が上記制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会に委ねているものである。そうすると,弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎないのであって,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない。」とし、結論として、23条照会に対する報告を拒絶する行為について、当該弁護士会に対する不法行為を構成することを否定しました。

 原審は、「23条照会をする権限は,その制度の適正な運用を図るために弁護士会にのみ与えられており,弁護士会は,自己の事務として,個々の弁護士からの申出が制度の趣旨に照らして適切であるか否かについて自律的に判断して上記権限を行使するものである。そして,弁護士会が,23条照会の適切な運用に向けて力を注ぎ,国民の権利の実現を図ってきたことからすれば,23条照会に対する報告を拒絶する行為は,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成するというべきである。」と判断していました。

 さらに、23条照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴えの適否について、最高裁平成30年12月21日判決は、「23条照会に対する報告の拒絶について制裁の定めがないこと等にも照らすと,23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決が確定しても,弁護士会は,専ら当該相手方による任意の履行を期待するほかはないといえる。そして,確認の利益は,確認判決を求める法律上の利益であるところ,上記に照らせば,23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決の効力は,上記報告義務に関する法律上の紛争の解決に資するものとはいえないから,23条照会をした弁護士会に,上記判決を求める法律上の利益はないというべきである。本件確認請求を認容する判決がされれば上告人が報告義務を任意に履行することが期待できることなどの原審の指摘する事情は,いずれも判決の効力と異なる事実上の影響にすぎず,上記の判断を左右するものではない。」として、23条照会をした弁護士会が,その相手方に対し,当該照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠き不適法と判断しています。




就業規則の不利益変更に対する労働者との合意と最低基準効との関係

 就業規則に規定されている労働条件を引き下げる場合,個々の労働者が同意したとしても,引き下げることはできないことが,労働契約法12条に定められています(就業規則の最低基準効とよばれます)。

 就業規則の不利益変更に対する個別の労働者の同意と変更後の就業規則の有効性について最高裁平成28年2月19日判決(山梨県民信用組合事件)は,「労働契約の内容である労働条件は,労働者と使用者との個別の合意によって変更することができるものであり,このことは,就業規則に定められている労働条件を不利益に変更する場合であっても,その合意に際して就業規則の変更が必要とされることを除き,異なるものではないと解される(労働契約法8条,9条本文参照)」と判示しています。

 就労働契約法8条と9条は,労働条件に関するいわゆる合意原則を定めている規定であり,最高裁は同意の有無について,「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべき」と判示しています。




季刊刑事弁護100号記念模擬裁判員裁判

 2019年11月2日に,高野隆弁護士を弁護人役,後藤貞人弁護士を検察官役とする標記の模擬裁判が企画されています。

 各地で開催されている模擬裁判は,検察官役が検察官であることから,検察官役も検察官のほうが良いような気もしますが,どちらも刑事弁護の分野で著名な先生であり,台本などない真剣勝負のやりとりが期待でき,非常に勉強になるものと思います。

 最新の季刊刑事弁護で紹介されています。




タイプフェイスの著作物性と法的保護

 タイプフェイス(文字フォント,(印刷用)書体)の著作物性について,最高裁平成12年9月7日判決は,「印刷用書体が・・・著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが 相当である。」「印刷用書体について右の独創性を緩和し、又は実用的機能の観点から見た美しさがあれば足りるとすると、この印刷用書体を用いた小説、 論文等の印刷物を出版するためには印刷用書体の著作者の氏名の表示及び著作権者の許諾が必要となり、これを複製する際にも著作権者の許諾が必要となり、既存の印刷用書体に依拠して類似の印刷用書体を制作し又はこれを改良することができなくなるなどのおそれがあり(著作権法19条ないし21条、27条)、著作物の公正な利用に留意しつつ、著作者の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与しよ うとする著作権法の目的に反することになる。また、印刷用書体は、文字の有する情報伝達機能を発揮する必要があるために、必然的にその形態には一定の制約を受 けるものであるところ、これが一般的に著作物として保護されるものとすると、著作権の成立に審査及び登録を要せず、著作権の対外的な表示も要求しない我が国の著作権制度の下においては、わずかな差異を有する無数の印刷用書体について著作権が成立することとなり、権利関係が複雑となり、混乱を招くことが予想される。」と厳格な基準を提示し,問題となったゴナ書体について著作物性を否定しました。

 ただし,タイプフェイスの開発には多額の投資と労力が必要であることから,著作権法以外による保護を考えるべきという議論もなされています。




相続財産についての情報は,被相続人の生前に個人情報保護法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるものであったとしても,直ちに相続人等の「個人に関する情報」に当たるとはいえない(最高裁平成31年3月18日判決)

 原審広島高裁岡山支部は,「ある相続財産についての情報であって被相続人に関するものとしてその生前に法2条1項にいう「個人に関する情報」であったものは,当該相続財産が被相続人の死亡により相続人や受遺者(以下「相続人等」という。)に移転することに伴い,当該相続人等に帰属することになるから,当該相続人等に関するものとして上記「個人に関する情報」に当たる。本件印鑑届書の情報は,本件預金口座に係る預金契約上の地位についての情報であって亡母に関するものとして上記「個人に関する情報」であったから,亡母の相続人等として上記預金契約上の地位を取得した被上告人に関するものとして上記「個人に関する情報」に当たる。」と判断していましたが,最高裁は以下のとおり判示しました。

「⑴法は,個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み,個人情報の適正な取扱いに関し,個人情報取扱事業者の遵守すべき義務等を定めること等により,個人情報の有用性に配慮しつつ,個人の権利利益を保護することを目的とするものである。法が,保有個人データの開示,訂正及び利用停止等を個人情報取扱事業者に対して請求することができる旨を定めているのも,個人情報取扱事業者による個人情報の適正な取扱いを確保し,上記目的を達成しようとした趣旨と解される。このような法の趣旨目的に照らせば,ある情報が特定の個人に関するものとして法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるか否かは,当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべきものである。したがって,相続財産についての情報が被相続人に関するものとしてその生前に法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるものであったとしても,そのことから直ちに,当該情報が当該相続財産を取得した相続人等に関するものとして上記 「個人に関する情報」に当たるということはできない。

⑵本件印鑑届書にある銀行印の印影は,亡母が上告人との銀行取引において使用するものとして届け出られたものであって,被上告人が亡母の相続人等として本件預金口座に係る預金契約上の地位を取得したからといって,上記印影は,被上告人と上告人との銀行取引において使用されることとなるものではない。また,本件印鑑届書にあるその余の記載も,被上告人と上告人との銀行取引に関するものとはいえない。その他,本件印鑑届書の情報の内容が被上告人に関するものであるというべき事情はうかがわれないから,上記情報が被上告人に関するものとして法2 条1項にいう「個人に関する情報」に当たるということはできない。 」

 個人情報保護法,及び,相続事件に関する最高裁判例として確認しておく必要があります。




知的財産法の侵害に該当しない場合の一般不法行為の成否及び退職従業員の秘密保持義務・競業避止義務

 個別の知的財産法違反が否定された場合に、民法709条の一般不法行為が成立するかについては、議論がありました。

 著作権法が問題となった北朝鮮事件(最高裁平成23年12月8日判決)は、著作権法6条各号に該当しない著作物であることから著作権法の保護を受けない著作物について、「(著作権)法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」と判示し、知的財産法による保護が否定された情報の利用行為は、原則として不法行為の成立を否定する立場をとったと考えられます。

 なお、不正競争防止法の「営業秘密」に該当しないとの判断をしたうえで、「控訴人は,本件原告製品を模倣されないことによる利益を侵害された旨主張するものと解されるところ,控訴人が主張する本件原告製品を模倣されないことにより享受する利益は,不競法が規律の対象とする営業秘密の利用による利益と異なる利益をいうものとは解されない。そうすると,本件原告製品に係る本件情報が不競法2条6項の営業秘密に当たるとはいえないから,被控訴人の上記利用行為が不法行為を構成するとみることはできない。」と判示した知財高裁平成30年7月3日判決があります。

 労働問題を取扱う弁護士としては、退職従業員に対して秘密保持義務・競業避止義務の有効性を考えるうえでも、重要な視点となり得ると考えられます。




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