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私が所属する「弁護士法人 心」のサイトはこちらです。


遺産分割前の預貯金債権の行使

 改正民法909条の2は、遺産の分割前に家庭裁判所の判断を経ずに預貯金の払い戻しを認める制度を新設しました。

 払い戻しできる金額は、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始時の債権額の3分の1に、共同相続人の法定相続分を乗じた金額について権利行使できると規定しています。

 公平な遺産分割を実現するために、預貯金債権を遺産分割の対象とする最高裁平成28年12月19日決定との関係で、仮分割の仮処分(家事事件手続法200条3項)では対応できない場合において、払戻し可能な金額に合理的な限定を設定したものと考えられます。

 仮分割の仮処分では、権利行使の必要性、他の共同相続人の利益を害しないことに加え、遺産分割の調停または審判の申立てをしていることが必要となります。

 民法909条の2は、標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする旨規定していますが、150万円と定められたようです(民法909条の2に規定する法務省令で定める額を定める法務省令)。




交通事故刑事弁護士費用保険の限度額

 損害保険ジャパン日本興亜株式会社から交通事故刑事弁護士費用保険が発売されることが,日弁連新聞で紹介されています。

 危険運転致死傷罪などの故意・重過失がある場合を除く事案について適用があるようです。

 報酬金の限度額では,不起訴の場合20万円,無罪の場合60万円という限度額が定められています。

 着手金・報酬金以外に,接見日当その他日当,実費が保険金支払いの対象となり,上限の150万円を超える弁護士費用は依頼者の負担とのことです。




東京大学法科大学院ローレビューvol.13

 東京大学法学研究科のサイトからみれます(こちら)。

 今年も興味深い論文が並んでいます。

 今年は,学生の論文掲載が少ないような気もします。




「遺産分割方法の指定」と「特定遺贈」の違いと判例理論

 特定の財産を特定の相続人に「相続させる」遺言については、遺産分割方法の指定とするか、特定遺贈とするかについて議論がなされており,遺産分割を経ることなく権利を確定できるという点では特定遺贈,登記手続きの観点からら遺産分割方法の指定と解する方が便宜と考えられていました。

 遺産分割方法の指定と考えると、当該財産の承継は包括承継の相続として行われることになり、相続人(登記権利者)による単独申請で、「相続」を原因とする登記が行われることになります。

 また、相続開始により当然には当該財産の所有権は帰属せず、協議分割により当該指定と異なる分割を阻止できないとされます。

 遺贈の場合には、「意思表示による物権変動」であることから、受遺者(登記権利者)と遺贈義務者(登記義務者)の共同申請により、「遺贈」を原因とする登記が行われることになります。

 所有権は相続の開始と同時に移転することになります。

 なお,遺産分割方法の指定と特定遺贈の他の違いとしては,遺産に債務が含まれる場合に,特定遺贈なら相続人は受遺者として当該財産の承継ができる一方で,相続人として相続放棄をすることにより相続債務の承継を免れることができる点だと思います。

 最高裁平成3年4月19日判決は,「『相続させる』趣旨の遺言は,・・・遺産の分割の方法を定めた遺言であり,他の共同相続人も右の遺言に拘束され,これと異なる遺産分割の協議,さらには審判もなし得ないのであるから,・・・何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」と判示し,従来の議論の前提を変更した上で,遺産分割手続きの対象となることを否定しています。




特別受益となる贈与が遺留分減殺請求の対象とならない特段の事情

 共同相続人に対する特別受益に該当する贈与は、遺留分侵害についての認識や時期を問わず、遺留分の算定の基礎に加算されること、したがって、遺留分減殺請求の対象になることは、最高裁平成10年3月24日判決で明らかにされています。

 一方で、同判決は、減殺請求を受ける相続人の利益が過度に侵害される特段の事情が存在する場合には、当該贈与に対する減殺請求が例外的に否定される場合を認めています。

 同判決の調査官解説では、相続開始の30年前になされた特別受益となる生前贈与が、被相続人がその後事業に失敗して破産したことにより遺留分減殺請求の対象となる場合には、受贈者の経済状況によっては過酷な結果をもたらすような場合には特段の事情が認められる可能性がある旨指摘されています。

 なお、相続法の改正により、遺留分算定の基礎に算入される特別受益となる贈与は、相続開始前の10年間に限ることとなり、実務上の影響が大きいものと考えられます。




否認している事件では保釈が認められないか

 被告人が犯罪の成立を否定しているいわゆる否認事件の場合には,一般に,保釈が認められにくい傾向にあることは否定できませんが,保釈が認められるケースもあります。

 実際,僕が過去に担当した否認事件でも,保釈が認められたケースがあります(その事件では,複数起訴された事件の内,一部について無罪判決を獲得することができました。)。

 なお,被告人が犯罪の成立を認めているいわゆる自白事件の場合であっても,検察官は保釈することに反対の意見を述べることが通常であり,保釈がされないケースもあります。




司法研修所編「裁判員裁判において公判準備に困難を来した事件に関する実証的研究」

 平成27年度司法研究として,標記の本が出版されました。

 東京大学の川出先生が協力研究員として参加しています。

 公判前整理手続請求権が刑事訴訟法に規定されたことから,刑事弁護を担当する弁護士には必携と考えられます。




司法取引と企業のコンプライアンス

 企業が刑事処分の免除または軽減を目的に司法取引の適用を受けるためには,当該企業が真剣にコンプライアンス体制を構築していたかどうかが問われる旨の指摘がなされています。

 両罰規定の適用による高額の罰金や行政処分等を避けるため,積極的に企業側が司法取引に応じたい場合もあると考えられることから,司法取引の導入が,企業のコンプライアンス強化の流れを推し進めるものと想定されます。

 なお,海外での犯罪の場合には,日本法の下で訴追を免れたとしても外国法に基づき処罰される可能性についても問題になりうると考えられます。




遺言・相続実務問題研究会「実務家が陥りやすい相続・遺言の落とし穴」

 相続や遺言の相談が増えています。

 最近出た標記の本は,出版社の新日本法規で紹介されている以下の目次を読むだけでも参考になります。

第1章 相続人・法定相続分
【1】相続人の範囲及び法定相続分の落とし穴
【2】養子の子に養親の代襲相続権はあるのか?
【3】養子には、実方の父母及びその血族の相続について相続権はあるのか?
【4】夫婦の一方のみと養子縁組をしている場合の落とし穴
【5】嫡出子・嫡出でない子の相続分の落とし穴
【6】廃除しても代襲相続があるのか?
【7】遺言書に記載すれば相続人の廃除が必ず認められるのか?
【8】相続人廃除について調停申立てはできるのか?
【9】「一切相続させない」という遺言文言の落とし穴
【10】遺言書の検認申立てをしない相続人は相続欠格となるのか?
【11】遺言書破棄で相続欠格を主張する場合、相続欠格となる相続人のみを被告とすればよいか?
第2章 相続放棄・限定承認
【12】賃借物件を引き払うと相続放棄できなくなるのか?
【13】債務超過ではあるが自宅や事業用資産を取得できるのか?
【14】相続人が相続放棄をしつつ遺贈により遺産を取得できるのか?
【15】包括遺贈の放棄の落とし穴
【16】限定承認の落とし穴
【17】相続放棄すると相続税の基礎控除で不利となるのか?
第3章 遺言書
【18】一生身の回りの世話をして生活費をくれるなら、自宅土地建物をやるという死因贈与契約の落とし穴
【19】無効な遺言は相続において何の意味も持たないのか?
【20】改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS―R)の落とし穴
【21】未分割の不動産の持分を遺贈する場合の落とし穴
【22】母親の面倒を見ることを条件とする遺贈の落とし穴
【23】遺言に預貯金残高は記載しておいた方がよいのか?
【24】相続人でない受遺者の情報としては氏名・住所を記載しておけば十分なのか?
【25】「相続させる」旨の遺言と代襲相続の落とし穴
【26】受遺者が先に死亡した場合の処理はどうなるか?
【27】遺言執行者に清算権限を与えて各相続人に分配させるという方法の登記上・税務上の落とし穴
【28】「その余の一切の……」の遺言文言に潜む落とし穴
【29】受遺者の意思を確認しておくことは重要なのか?
【30】包括遺贈があるが債務を免れたい場合の落とし穴
【31】遺言による認知の落とし穴
【32】固定資産評価証明書に基づいて不動産を特定するのか?
【33】遺産の中に私道がある場合でも遺言書に書かなくてもよいか?
【34】遺言書に「有価証券」「預金」「株式」と記載する場合の落とし穴
【35】遺言書に「金融資産」と記載する場合の落とし穴
【36】貸金庫開扉権限を記載する場合の落とし穴
【37】在外資産がある場合の遺言の落とし穴
【38】特定物件を遺贈する遺言が包括遺贈とされることがあるのか?
【39】遺言書に遺言執行者の報酬が定められていない場合はどうするのか?
【40】生前贈与後に遺言を作成する場合の落とし穴
【41】不動産の特定が不十分で登記できない場合はどうするか?
第4章 遺言執行
【42】相続人の処分権限が制限される旨記載した就職通知を出すべきなのか?
【43】遺留分減殺請求がされている場合であっても、遺言書の記載に従い遺留分を無視して執行してよいか?
【44】遺言執行者が葬儀費用を相続財産から支出してよいのか?
【45】遺言執行者の提起した訴訟が遺言無効で却下された場合の訴訟費用は誰が負担するか?
【46】遺言執行者は、遺留分のない相続人に対しても相続財産目録等の交付義務を負うのか?
【47】遺言の無効を主張する相続人がある場合、遺言執行者はどう処理するのか?
【48】遺言執行者たる弁護士は遺留分減殺請求を受ける相続人の代理人となれるのか?
第5章 遺留分
【49】遺留分減殺請求に関する手続選択の落とし穴
【50】遺言の効力を争うときの落とし穴
【51】「現金で贈与を受けた」のか「不動産で贈与を受けた」のかでは大違いなのか?
【52】相続人に対する生前贈与と遺留分減殺請求の落とし穴
【53】遺留分侵害額の計算の落とし穴
第6章 遺産分割
【54】後見人と被後見人の遺産分割協議(後見人に著しく有利な結果となった場合)の落とし穴
【55】後見人と被後見人の遺産分割協議(特別代理人が選任されなかった場合)の落とし穴
【56】預貯金以外の賃料債権や、貸付金返還請求権等は当然分割となるのか?
【57】一部の相続人に遺産の一部を先行して渡し、相続人から切り離す場合の落とし穴
【58】相続債務残存の可能性がある場合に相続分の譲渡を行うときの要検討事項とは?
【59】非協力的な相続人がいる場合の裁判所選択についての誤解
【60】収益物件の収益を独り占めしている相続人がいる場合の対処法とは?
【61】遺産である建物を共同相続人の一人が占拠している場合の対処法とは?
【62】一部の遺産について先行して遺産分割する場合の落とし穴
【63】債務を負担しないという遺産分割協議に意味はあるのか?
【64】代償金の支払を担保できるのか?
【65】父の遺産分割における不公平を母の遺産分割で考慮できるのか?
【66】代償分割を希望する場合の落とし穴
【67】換価分割の場合の諸費用や税金は誰がどのように負担するのか?
【68】代償分割の場合の代償金は税務上取得費として認められるのか?
【69】代償分割の場合の代償金を裁判所が定める際、譲渡所得税はどのように考慮されるのか?
【70】遺言と異なる遺産分割はできるのか?
第7章 寄与分・特別受益
【71】特別受益と寄与分が問題となる場合の対象財産評価の落とし穴
【72】生命保険金は特別受益とならないのか?
【73】特別受益は持戻しが原則なのか?
【74】被相続人の家に無償で居住していることは特別受益となるのか?
第8章 遺産分割の前提問題・付随問題
【75】遺言書が作成されていない場合に葬儀費用を相続財産から支出できるのか?
【76】遺言書の記載に従い葬儀費用を相続財産から支出できるのか?
【77】相続放棄を予定している場合に葬儀費用を相続財産から支出してもよいのか?
【78】相続人以外の共有者も存在する不動産の処理の落とし穴
【79】老親の扶養・介護をするという約束を前提とした遺産分割の落とし穴
【80】遺産名義が被相続人と異なる場合の処理の落とし穴
【81】共同相続した非上場株式の議決権については、相続分の割合に応じて行使するのか?
【82】公営住宅の賃借権の処理の際の落とし穴
第9章 遺産分割後のトラブル
【83】地裁や高裁で和解し遺産について不動産登記をする際の落とし穴
【84】遺産分割協議において不動産が一部漏れていた場合はどうなるのか?
【85】遺産分割後に多額の債務があることが判明した場合はどうなるのか?
【86】遺産分割で取得した土地の面積が不足していた場合はどうなるのか?
【87】遺産分割で取得した土地の隣地所有者と境界争いが発生した場合はどうなるのか?
【88】遺産分割後に土壌汚染があることが判明した場合はどうなるのか?
【89】遺産分割後に母子関係の存在を確認する判決が確定した場合はどうなるのか?
【90】遺産分割で取得した土地に土壌汚染が判明した場合、相続税について更正の請求ができるのか?




「履行に代わる損害賠償」と「履行とともにする損害賠償」と履行請求権との関係

 債務不履行に基づく損害賠償は、債務が履行されたのと等しい経済的地位の回復を目的とする「履行に代わる損害賠償」と、債務の履行がされたとしてもなお残る損害の回復を目的とする「履行とともにする損害賠償」の二つに分類して議論されています。

 「履行に代わる損害賠償」は、本来の履行によって得られるべき経済的地位を金銭で実現することから本来の債務の履行を受けることは、二重どりになるという意味で両立しないことになります。

 改正民法415条2項は、債務不履行に基づく損害賠償として「履行に代わる損害賠償請求」を行うための一定の要件(①履行不能、②債務者の明確な履行拒絶、③契約の解除、④債務不履行による契約解除権の発生)を定めることにより、本来の履行を求める履行請求権を優先する考え方を採用したと考えられています。

 なお、上記②債務者の履行拒絶、又は、④債務不履行による契約解除権の発生の場合には、履行請求権も存在している、すなわち、履行請求権と「履行に代わる損害賠償請求権」が併存していることになり、両請求権の調整の規定は、明文上定められていません。




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