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新しい在留資格の創設

 出入国管理及び難民認定法の改正により,「真に受入れが必要と認められる分野」に限定して新たな在留資格が創設されました。

 一つ目が,不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に属する「相当程度の知識または経験を必要とする技能」を有する業務に従事する外国人が対象となる特定技能1号であり,二つ目が,不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に属する「熟練した技能」を有する業務に従事する外国人が対象となる特定技能2号であり,入管法別表第1の2に規定されました。

 特定技能1号の在留期限は1年,6か月,または,4か月で,更新による通算の上限が5年であり,家族の帯同は基本的に認められていません。

 一方,特定技能2号の在留期限は,3年,1年,または,6か月で,更新による上限の定めがなく,家族の帯同が認められています。

 上記産業上の分野は,介護,ビルクリーニング(以上について厚労省所管),素形材産業,産業機械製造業,電気・電子情報関連産業(経産省),建設,造船・舶用工業,自動車整備,航空,宿泊(国交省),農業,漁業,飲食料品製造業,外食(農水省)が定められています。

 弁護士としては,今回の法改正を受けて大幅に改正された「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」と,「技能実習の適切な実施・技能実習生の保護を図り,人材育成を通じた開発途上国への技能または知識の移転による国際協力を推進する」ことを目的とする技能実習法とともに,制度を理解しておく必要があります。




契約書の著作物性

 著作物というためには、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの(著作権法2条1項1号)と評価される必要があります。

 東京地裁昭和40年8月31日判決は、船荷証券の用紙について、「被告ないしその取引相手方の将来なすべき契約の意思表示にすぎないのであって、原告の意思はなんら表白されていないのである。従って、そこに原告の著作権の生ずる余地はないといわなければならない」と判示しており、東京地裁昭和62年5月14日判決は、土地売買契約書の案文について、「『思想又は感情を創作的に表現したもの』であるとはいえない」と判示しています。

 創作性の程度については、表現の選択の幅を基準にする見解が有力であり、たまたま最初に契約書を作成した者に長期間の独占を認めることの弊害の観点から、著作物性を一律に否定する見解や原則的に否定する見解があります。




取引先の選択と独占禁止法

 事業者が,取引先を自由に選択することは,独占禁止法の保護法益である自由競争経済秩序の基盤として保護されるべきことから,取引拒絶の内,単独の取引拒絶は,原則として,独占禁止法上の問題は生じないと整理されますが,取引拒絶が「不当に」行われると評価された場合には,不公正な取引方法として違法となります(独占禁止法2条9項6号イ,一般指定2項)。

 「不当に」とは,独占禁止法2条9項6号柱書の「公正な競争を阻害するおそれ」を指し,流通・取引慣行ガイドラインは,「独占禁止法法上違法な行為の実効を確保するための手段として取引を拒絶する場合には違法とな」ること,「競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として取引を拒絶する場合には独占禁止法上問題となる。」ことを定めています。




校則と就業規則の拘束力の法的根拠

 校則が学生を拘束する法的根拠は、就業規則が従業員を拘束する法的根拠についての議論が参考になるかもしれません。




副業先や前勤務先の労働時間との通算と実務上の対応

1 厚生労働省から,「改正労働基準法に関するQ&A」が公表され,転勤や転職をした労働者に対して,時間外労働の上限規制がどのように適用されるかが示されました。

 大企業に対して4月1日から適用されている(中小企業に対しては令和2年4月1日から適用)新しい時間外労働の上限規制は,以下の3つとなっています。

① 36協定により延長できる時間の限度時間(月45時間,年360時間)

② 36協定に特別条項を設ける場合の1年の延長時間の限度(年720時間)

③ 時間外労働と休日労働の合計で,単月100時間未満,2~6か月平均80時間以内(なお,2~6か月の期間には,新しい上限規制の適用開始前の期間は含まれません。)

「Q&A」では,同一企業内のA事業場からB事業場へ転勤した労働者について,①と②は,事業場における36協定の内容を規制するものであるから通算されず,③は労働者個人の実労働時間を規制するためのものであり,通算して適用されるとされています。

また,質問の文中ではありますが,「副業・兼業や転職の場合,休日労働を含んで,1か月100時間未満,複数月平均80時間以内の上限規制が通算して適用されることとなりますが,」と明記されており,③の上限規制が通算して適用されるのは,転勤に限らず副業・兼業や転職の場合にも及ぶことも明らかにされています。

2 使用者としては,同一企業内で管理可能な転勤はともかく,副業・兼業や転職の場合に副業先や前の勤務先での労働時間を把握する必要があることになりますが,どのように把握するかが大問題です。

 「Q&A」では,現実的に副業先や前の勤務先から労働時間についての回答を得ることは困難であるため,「労働者からの自己申告により把握することが考えられる」としています。

 例えば採用面接の際に応募者が,前の勤務先で月80時間を超える時間外労働,休日労働を行っていたと申告した場合,採用する会社側としては,時間外労働,休日労働を極力制限したとしても,前の勤務先の時間外労働,休日労働を通算すると「2~6か月平均80時間」を超過する可能性があり,前職を退職後からある程度の期間を空けて採用する,採用をあきらめる等を考えなければなりません。

 また,採用された労働者が,採用面接の際に前の勤務先での時間外労働,休日労働を過少に申告していた場合,前の勤務先と現在の勤務先を通算すると上限規制に違反している,という事態も想定されます。

 さらに,応募者が前の勤務先での時間外労働の時間が分からない,あるいは,あいまいな回答をするような場合には,どの程度まで調査をすればよいのかについても非常に悩ましい事態が考えられます。




詐欺的に取得されたDNA型情報に基づく鑑定書の証拠能力が否定された事例

 問題となった鑑定書について、東京高裁平成28年8月23日判決は、「平成27年1月28日,荒川河川敷沿いの甲の曝気施設付近にテントを張って生活していた被告人のところに,埼玉県警察本部所属の警察官であるA及び同Bが赴き,被告人から話を聞きたいと述べた上,荒川河川事務所から入手した資料を見せるなどしながら, 周辺のホームレスについての話をし,その際,被告人に持参した紙コップで温かいお茶を勧め,被告人が飲んだ後,DNA採取目的を秘し,そのコップを廃棄するとしてAが回収したこと,その様子をBが撮影していたこと,被告人が使用した上記紙コップからDNAを採取し,その資料を基に原判示第1の事実にかかる被告人の逮捕状が請求されたこと,その逮捕後の平成27年2月12 日に被告人が口腔内細胞を任意提出し,それについてDNA鑑定をした鑑定書が本件鑑定書である。 」としています。

 同判例は、以下のとおり判示して、鑑定書の証拠能力を否定しました。

「被告人は,・・・ 相手がホームレスの話しかしなかったので,国交省の人間だと思い込み,勧められるままに紙コップを手にしてお茶を飲み,被告人が飲んだ後,DNA採取目的を秘し,そのコップを廃棄するとしてAが回収したものと認められる。そうすると,本件においては,Aらは,Aらが警察官であると認識していたとすれば,そもそもお茶を飲んだりしなかった被告人にお茶を飲ませ,使用した紙コップはAらによってそのまま廃棄されるものと思い込んでいたと認められる被告人の錯誤に基づいて,紙コップを回収したことが明らかである。 」

「強制処分であるか否かの基準となる個人の意思の制圧が,文字どおり,現実に相手方の反対意思を制圧することまで要求するものなのかどうかが問題となるが,当事者が認識しない間に行う捜査について,本人が知れば当然拒否すると考えられる場合に,そのように合理的に推認される当事者の意思に反してその人の重要な権利・利益を奪うのも,現実に表明された当事者の反対意思を制圧して同様のことを行うのと,価値的には何ら変わらないというべきであるから,合理的に推認される当事者の意思に反する場合も個人の意思を制圧する場合に該当するというべきである(最高裁判所平成21年9月28日第3小法廷決定参照)。したがって,本件警察官らの行為は,被告人の意思を制 圧して行われたものと認めるのが相当である。」

「相手方の意思に反するというだけでは,直ちに強制処分であるとまではいえず,法定の強制処分を要求する必要があると評価すべき重要な権利・利益に対する侵害ないし制約を伴う場合にはじめて,強制処分に該当するというべきであると解される。本件においては,警察官らが被告人から唾液を採取しようとしたのは,唾液に含まれるDNAを入手し鑑定することによって被告人のDNA型を明らかにし,これを,・・・DNA型記録確認通知書に記載された,合計11件の窃盗被疑事件の遺留鑑定資料から検出されたDNA型と比較することにより,被告人がこれら窃盗被疑事件の犯人であるかどうかを見極める決定的な証拠を入手するためである。警察官らの捜査目的がこのような個人識別のためのDNAの採取にある場合には,本件警察官らが行った行為は,なんら被告人の身体に傷害を負わせるようなものではなく,強制力を用いたりしたわけではなかったといっても,DNAを含む唾液を警察官らによってむやみに採取されない利益(個人識別情報であるDNA型をむやみに捜査機関によって認識されない利益)は,強制処分を要求して保護すべき重要な利益であると解するのが相当である。以上の検討によれば,前記のとおりの強制処分のメルクマールに照らすと,本件警察官らの行為が任意処分の範疇にとどまるとした原判決の判断は是認することができず,本件捜査方法は,強制処分に当たるというべきであり,令状によることなく身柄を拘束されていない被告人からその黙示の意思に反して唾液を取得した本件警察官らの行為は,違法といわざるを得ない。」

「本件捜査方法は,DNA型という個人識別情報を明らかにするため,身柄を拘束されておらずAらが警察官であることも認識していない被告人に対し,紙コップを手渡してお茶を飲むように勧め,そのまま廃棄されるものと考えた被告人から同コップを回収し,唾液を採取するというものであるところ,本件捜査方法は,上司とも相談の上,最初から令状主義を潜脱する目的で採用されたものであることが明らかである上,・・・,Aにおいて,本件捜査方法を採用したことを合理化するため,原審公判において真実に反する供述,信用することのできない供述を重ねているという事情も認められる。したがって,本件警察官らの行為は,・・・なんら被告人の身体に傷害を負わせるようなものではなく,強制力を用いたりしたわけではないといっても,本件警察官らの行為及びこれに 引き続く一連の手続には,令状主義の精神を没却する重大な違法があり,本件鑑定書を証拠として許容することは将来における違法捜査抑制の見地から相当でないというべきであるから,本件鑑定書については,違法収集証拠としてその証拠能力を否定すべきである。」




物品運送人の荷受人に対する損害賠償責任

 最高裁昭和44年10月17日判決は、運送人の責任について、運送契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権は競合する旨判示しており、改正商法の、債務不履行責任に関する損害賠償額の定額化(576条)、高価品の特則(577条)、運送人の損害賠償責任の消滅(584条、585条)等の規定が、不法行為責任を追及することにより、意味を有さないことになってしまいます。

 そこで、改正商法587条は、上記のような運送人の責任についての規定を不法行為責任の場合にも準用する旨定めました。

 自ら運送契約を締結していない荷受人が運送人に対して損害賠償請求する場合については、最高裁平成10年4月30日判決が、「荷受人も、少なくとも宅配便によって荷物が運送されることを容認していたなどの事情が存するときは、信義則上、責任限度額を超えて運送人に対して損害の賠償を求めることは許されない」と判示していることを踏まえ、荷受人にも587条の適用を認めつつ、「荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず荷送人から運送を引き受けた運送人の荷受人に対する責任」を追及する場合には、適用を除外することとされています。

<改正商法>

(損害賠償の額)

第五百七十六条 運送品の滅失又は損傷の場合における損害賠償の額は、その引渡しがされるべき地及び時における運送品の市場価格(取引所の相場がある物品については、その相場)によって定める。ただし、市場価格がないときは、その地及び時における同種類で同一の品質の物品の正常な価格によって定める。

2 運送品の滅失又は損傷のために支払うことを要しなくなった運送賃その他の費用は、前項の損害賠償の額から控除する。

3 前二項の規定は、運送人の故意又は重大な過失によって運送品の滅失又は損傷が生じたときは、適用しない。

(高価品の特則)

第五百七十七条 貨幣、有価証券その他の高価品については、荷送人が運送を委託するに当たりその種類及び価額を通知した場合を除き、運送人は、その滅失、損傷又は延着について損害賠償の責任を負わない。

2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。

一 物品運送契約の締結の当時、運送品が高価品であることを運送人が知っていたとき。

二 運送人の故意又は重大な過失によって高価品の滅失、損傷又は延着が生じたとき。

(運送人の責任の消滅)

第五百八十四条 運送品の損傷又は一部滅失についての運送人の責任は、荷受人が異議をとどめないで運送品を受け取ったときは、消滅する。ただし、運送品に直ちに発見することができない損傷又は一部滅失があった場合において、荷受人が引渡しの日から二週間以内に運送人に対してその旨の通知を発したときは、この限りでない。

2 前項の規定は、運送品の引渡しの当時、運送人がその運送品に損傷又は一部滅失があることを知っていたときは、適用しない。

3 運送人が更に第三者に対して運送を委託した場合において、荷受人が第一項ただし書の期間内に運送人に対して同項ただし書の通知を発したときは、運送人に対する第三者の責任に係る同項ただし書の期間は、運送人が当該通知を受けた日から二週間を経過する日まで延長されたものとみなす。

第五百八十五条 運送品の滅失等についての運送人の責任は、運送品の引渡しがされた日(運送品の全部滅失の場合にあっては、その引渡しがされるべき日)から一年以内に裁判上の請求がされないときは、消滅する。

2 前項の期間は、運送品の滅失等による損害が発生した後に限り、合意により、延長することができる。

3 運送人が更に第三者に対して運送を委託した場合において、運送人が第一項の期間内に損害を賠償し又は裁判上の請求をされたときは、運送人に対する第三者の責任に係る同項の期間は、運送人が損害を賠償し又は裁判上の請求をされた日から三箇月を経過する日まで延長されたものとみなす。

(運送人の不法行為責任)

第五百八十七条 第五百七十六条、第五百七十七条、第五百八十四条及び第五百八十五条の規定は、運送品の滅失等についての運送人の荷送人又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任について準用する。ただし、荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず荷送人から運送を引き受けた運送人の荷受人に対する責任については、この限りでない。

(運送人の被用者の不法行為責任)

第五百八十八条 前条の規定により運送品の滅失等についての運送人の損害賠償の責任が免除され、又は軽減される場合には、その責任が免除され、又は軽減される限度において、その運送品の滅失等についての運送人の被用者の荷送人又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任も、免除され、又は軽減される。

2 前項の規定は、運送人の被用者の故意又は重大な過失によって運送品の滅失等が生じたときは、適用しない。




航空運送の対象とドローン

 平成30年商法改正により、運送・海商関係の改正がなされ、平成31年4月1日から施行されました。

 諮問では、「商法制定以来の社会・経済情勢の変化への対応、荷主、運送人その他の運送関係者間の合理的な利害の調整、海商法制に関する世界的な動向への対応の観点から、商法等のうち運送・海商関係を中心とした規定の見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」とあります(なお商法の制定は120年前の明治32年(1899年)です。)。

 旧商法では、国内運送について陸上運送及び海上運送についての規定はありましたが、航空運送についての規定がなかったことから、商法改正により航空運送について定めています。

 航空運送の対象となる「航空機」について、航空法2条1項に規定する航空機、すなわち、人が乗って航空の用に供することが飛行機、回転翼航空機、滑空機及び飛行船を指し、ドローン等の無人航空機を含めないことが明示されています(商法569条4号)。

 現段階では、商法上の営業形態や契約類型として規律することは相当とはいえないことが理由だと考えられます。




訴訟行為と信義則

 民事訴訟法2条は、公正迅速な訴訟進行に努める裁判所の責務に加え、信義に従い誠実に民事訴訟を追行する当事者の責務、いわゆる当事者の訴訟行為についての信義誠実訴訟追行義務を定めています。

 具体的に信義則違反とされる訴訟行為は、訴訟上の権能の濫用の禁止、訴訟上の禁反言、訴訟上の権能の失効、訴訟状態の不当形成の排除に分類して議論されています(個人的には、一般条項である信義則の適用場面を類型化して議論することに違和感を受験生時代からもっています。)。

 当事者は行為規範として信義に従って誠実に訴訟行為をしなければならず、また、裁判所は、信義則に違反する訴訟行為について却下するか、訴訟行為本来の効力を否定することになります。




危険負担の履行拒絶権構成

 改正民法では、危険負担の法的効果として、債権者の債務の消滅(当然消滅構成)ではなく、反対給付についての履行拒絶の抗弁権を定めています(536条1項)。

 一方の給付が滅失・毀損した場合でも、反対債務は消滅せず、相手方から反対債務の履行を求められた場合に履行拒絶ができるのみということになります。

 解除されない限りは、反対債務は存続することから、反対債務をすでに履行している場合の返還の根拠については条文上明確でないことは確かです。

 履行拒絶権が永久的な抗弁であり請求棄却判決が導かれることから、不当利得返還請求権を肯定する見解も有力となっていますが、債権の最低限の効力として説明されてきた「給付保持力」のない債権を民法上認めることになるという指摘もあります。

 改正民法では、解除権行使の要件として債務者の帰責事由は不要とされたことから、当事者双方の責めに帰さない事由による履行不能の場合には、民法542条の無催告解除を主張することができ、債務の消滅と原状回復義務が発生するという意味では、非常に明確です。




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