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知的財産法の侵害に該当しない場合の一般不法行為の成否及び退職従業員の秘密保持義務・競業避止義務

 個別の知的財産法違反が否定された場合に、民法709条の一般不法行為が成立するかについては、議論がありました。

 著作権法が問題となった北朝鮮事件(最高裁平成23年12月8日判決)は、著作権法6条各号に該当しない著作物であることから著作権法の保護を受けない著作物について、「(著作権)法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」と判示し、知的財産法による保護が否定された情報の利用行為は、原則として不法行為の成立を否定する立場をとったと考えられます。

 なお、不正競争防止法の「営業秘密」に該当しないとの判断をしたうえで、「控訴人は,本件原告製品を模倣されないことによる利益を侵害された旨主張するものと解されるところ,控訴人が主張する本件原告製品を模倣されないことにより享受する利益は,不競法が規律の対象とする営業秘密の利用による利益と異なる利益をいうものとは解されない。そうすると,本件原告製品に係る本件情報が不競法2条6項の営業秘密に当たるとはいえないから,被控訴人の上記利用行為が不法行為を構成するとみることはできない。」と判示した知財高裁平成30年7月3日判決があります。

 労働問題を取扱う弁護士としては、退職従業員に対して秘密保持義務・競業避止義務の有効性を考えるうえでも、重要な視点となり得ると考えられます。