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主債務者の保証人に対する情報提供義務(民法465条の10)

1 改正民法465条の10第1項は,主債務者の保証人に対する情報提供義務を課しています。提供すべき情報の具体的内容は,①財産及び収支の状況,②主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況,③主たる債務の担保として他に提供し,又は提供しようとするものがあるときは,その旨及びその内容が規定されています。

2 情報提供義務を負うのは,債権者ではなく主債務者ですが,民法465条の10第2項は,主債務者が情報を提供しない,あるいは,事実と異なる情報を提供した場合には,債権者がそのことを知り又は知ることができたときは,保証人が保証契約を取り消すことができると定めています。
 要するに,主債務者が情報提供をしなかったことを債権者が「知ることができたとき」にも保証契約の取消しが可能となることから,債権者としては,主債務者が民法465の10第1項に規定された情報提供を正しく行ったかどうかの調査を行うべきことになります。
3 どの程度の調査を行う必要があるかについては,債権者に厳格な調査義務を課すものではなく,こういう説明を受けたという書面を保証人から提出させれば,原則として十分であり,保証人から債務者の説明の内容を聞く必要はないと考えられているようです。
4 保証人が代表取締役の場合についても,保証人に対する情報提供義務について免除される規定はないため,当然適用されることになり,保証人である代表取締役が情報提供義務の対象となる事項について誤認し,それによって保証契約の締結をした場合に,債権者がそのことを知っていたか知ることができた時に保証契約が取り消されることになります。
 しかし,そのような事態はごくまれだとおもわれ,「代表者が資料を有していること等を確認するなどの簡易な方法をとれば足りると解される。」という見解も主張されています(立法を担当した裁判官や弁護士が執筆している筒井健夫ほか「Q&A改正債権法と保証実務」〔金融財政事情研究会〕)。
 
改正民法第四百六十五条の十 主たる債務者は,事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは,委託を受ける者に対し,次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
一 財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状
三 主たる債務の担保として他に提供し,又は提供しようとするものがあるときは,その旨及びその内容
2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず,又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし,それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において,主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは,保証人は,保証契約を取り消すことができる。
3 前二項の規定は,保証をする者が法人である場合には,適用しない。