NHKが2014年7月27日に放送した,小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」について,小保方氏が,「ES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので極めて大きな人権侵害があった」などと訴え委員会に申立書を提出していた事案についてBPOの決定が出ています(BPOホームページ)。
結論として、「勧告」として名誉毀損の人権侵害が認められると判断していますが,補足意見,少数意見も記載されており,事実の評価の仕方など参考になります。
決定には,憲法学者の曽我部真裕京都大学教授,中島徹早稲田大学教授も関与しているようです。
事案の概要は以下のとおりです。
⑴ 氏名不詳者が、被害者に対して息子を装って電話をかけ、現金を被告人宅に送るように要求。
⑵ 被害者の息子が詐欺であることに気づき、警察に相談。
⑶ 被害者が警察の指示を受けて偽物の現金が入った荷物を送り、被告人が荷物を受け取った段階で警察が逮捕。
第一審名古屋地判は、①氏名不詳者との事前共謀を否定したうえで、②氏名不詳者との共謀が荷物の受け取りを承諾した時点で成立していたとしても、「詐欺既遂の現実的危険という本件詐欺未遂の結果が既に発生し終わった後に、被告人が関与したことになるから、被告人の同日の行為が本件詐欺未遂の結果と因果関係を有することはな」いとして無罪を言い渡しました。
控訴審名古屋高判は、①事前共謀は否定したものの、②いわゆる不能犯の議論を参考にしながら、「行為時の結果発生の可能性の判断に当たっては、一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事実を基礎とすべきである。」との規範を定立して詐欺未遂罪の成立の余地を理論的に認めつつ、共謀の立証がないとして、結論として無罪を言い渡しています。
同種の事案が多数あるようですので、刑事弁護を担当する弁護士は、承継的共同正犯に関する最高裁平成24年11月6日判決との関係でも整理しておく必要がありそうです。
法学セミナー2017年3月号では,高裁判決について,「結果発生が不可能となってから共犯関係に入った者の罪責」という表題で解説がなされているようです。
椎橋隆幸先生の古稀記念の論文集「新時代の刑事法学」(下巻)に死体遺棄罪についての論文が2本掲載されています。
一つ目は,井田良先生の「殺人罪と死体遺棄罪の区別をめぐって」であり,二つ目が,橋爪隆先生の「不作為の死体遺棄罪をめぐる問題」です(各種試験に出るかもしれません。)。
その他にも興味深いテーマの論文が掲載されており,佐伯仁志先生の「「保険と刑法」に関する覚書」では,保険制度が犯罪を誘発する側面と抑止する側面があるという観点からの分析・議論がなされています。
平成29年3月3日に弁護士会館で開催される臨時総会の招集通知が届きました。
第2号議案では,依頼者見舞金制度に関する規程制定の件が挙げられています。
制度の概要としては,「成年後見分野といった特定の業務分野をと取り扱う弁護士に限定せず,全ての預り金を対象とする制度」,「会費を資金として運用されるものであること」,「被害弁償的なものではないこと」,「被害者に金員の支給に関する権利性はないこと」,「対象被害者を個人に限定」,「支給の要件として,加害弁護士が『賠償の資力が明らかでない場合』に限る」ことなどがポイントかと思います。
通知の附記として,「日本弁護士連合会会則第40条に定める代理権を証する書面(1人で50人まで代理できる。)は,所属弁護士会会長の認証を得て,3月1日(水)までに本会に必着するよう提出してください。」とあります。
河野順一先生の「社会保険労務士のための要件事実入門」が日本評論社から出るようです。
河野順一先生は,分厚い本を出されるイメージがありますがこの本はどうでしょうか。
目次の第2部,第3部は,弁護士からすると,どこかで見たというか見慣れた項目が並んでいます。
既に出ている要件事実の入門書としては,岡口基一裁判官の,「要件事実入門初級者編」「要件事実入門」があり,労働分野を扱ったものとして同裁判官の「要件事実マニュアル4巻」(第5版がもうすぐ発売予定)が挙げられます。
就業規則の変更により労働条件を不利益に変更する場合,当該変更について労働者の個別の合意を得た場合,当該労働者との関係で労働条件の不利益変更の可否をどのように考えるかについて,労働契約法の解釈に関連して議論があります。
労働契約法9条の反対解釈及び同法8条を根拠に,専ら当該合意をもって労働条件変更の合理性を問題にすることなく就業規則による労働条件変更が適法に認められるとする見解と,個別合意があるとしても変更された就業規則の周知及び合理性という労働契約法10条の要件が満たされない限り労働条件の変更は認められないとする見解があります。
最高裁平成28年2月19日判決(山梨県民信用組合事件)は,「労働契約の内容である労働条件は,労働者と使用者との個別の合意によって変更することができるものであり,このことは,就業規則に定められている労働条件を不利益に変更する場合であっても,その合意に際して就業規則の変更が必要とされることを除き,異なるものではないと解される(労働契約法8条,9条本文参照)。」と判示し,前者の見解に近い立場を示しています。
前者の見解に立ったとしても,合意の認定は慎重になされるべきであり,上記最高裁は,「本件同意書への同人らの署名押印がその自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点から審理を尽く」していないとして,対象労働者による請求を棄却した原審東京高裁の判断について,破棄差戻しの判断をしています。
<参照 労働契約法 第二章 労働契約の成立及び変更>
(労働契約の成立)
第6条 労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,労働者及び使用者が合意することによって成立する。
第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において,使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には,労働契約の内容は,その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし,労働契約において,労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については,第12条に該当する場合を除き,この限りでない。
(労働契約の内容の変更)
第8条 労働者及び使用者は,その合意により,労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第9条 使用者は,労働者と合意することなく,就業規則を変更することにより,労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし,次条の場合は,この限りでない。
第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において,変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは,労働契約の内容である労働条件は,当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし,労働契約において,労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については,第12条に該当する場合を除き,この限りでない。
(就業規則の変更に係る手続)
第11条 就業規則の変更の手続に関しては,労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条及び第90条の定めるところによる。
(就業規則違反の労働契約)
第12条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については,無効とする。この場合において,無効となった部分は,就業規則で定める基準による。
(法令及び労働協約と就業規則との関係)
第13条 就業規則が法令又は労働協約に反する場合には,当該反する部分については,第7条,第10条及び前条の規定は,当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については,適用しない。
話題になっていた事案ですが,本日平成29年1月31日,最高裁が判断を下しました。
原審は,本件養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたものと認定した上で,民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとして,養子縁組無効の請求を認容していました。
最高裁は,「相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得る」「したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」と判示し,結論を導いています。
とりあえずほっとした弁護士,税理士が多いと思います。
判例タイムズ1431号202頁に紹介されている東京地方裁判所民事第19部平成28年3月25日判決です。
事案は,被告経営のホストクラブに勤務してた原告が,雇用契約を締結していたとして未払賃金及び旅行積立金を請求したというものです。
労働者性を否定するポイントとして,報酬が売上に応じて決定され勤務時間との関連性が薄いこと,出勤時間はあるが客の都合が優先され時間的拘束が強いといえないこと,必要な衣装等を自腹で準備していること,内勤とは異なる扱いで月1回のミーティングは報告が主たるものであることが挙げられています。
労働者該当性は,実務上非常に難しい判断を迫れることが多く,また,この事例では労働基準法27条の「出来高払制その他の請負制で使用する労働者」と評価するか自営業者と評価するかが問題となっている点でも,事例として参考になると思います。
匿名解説の最後には,「ホストクラブ業界の契約慣行上,本件の原告被告間の契約条件に類似した内容が多いと推察されるが,契約条件によっては,出来高払制その他の請負制で使用する労働者と評価される事案もあると考えられる。」と指摘されています。
「刑事弁護ビギナーズ補遺」として,現代人文社のホームページに掲載されています。
弁護活動への影響や,弁護実践上の注意点なども含めて,概要を確認するのに適しています。
判例時報2313号73頁に掲載された、大阪地裁平成28年2月8日判決です。
正確には、「インターネット上のなりすまし行為によって本人以外の別人格が構成され、本人の言動であると他者に受け止められるようになり、なりすまされた者が平穏な日常生活や社会生活を送れなくなるほど精神的苦痛を受けたような場合には、他者との関係において人格的同一性を保持するりえきであるアイデンティティ権を侵害することがあることを示した事例」となっています。
事案としては、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき、インターネットサービスを提供した者に対し、原告になりすましてさまざまな発言を投稿した者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの開示を求めた事案で、結論としては請求を認めなかったものです。
プライバシー権や自己情報コントロール権ではなく、あえてアイデンティティ権を認める意義については今後も議論が続くものと思います。
プロファイリングの議論も参考になるかと思います(論究ジュリスト2016年夏号には、山本龍彦教授の「ビッグデータ社会とプロファイリング」という論文が掲載されており、日経新聞にはEUが規制する動きであることが紹介されていました)。