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取適法施行後の価格決定に関する留意点等

 1月1日に改正下請法(中小受託取引適正化法、取適法)が施行されていますが、そのポイントないし要点は後述の1及び2ですが、後述3についても軽視できないと考えられ、どちら側に対してかにかかわらず、弁護士が気にしておく内容といえるでしょう。

 さらに、独占禁止法の優越的地位の濫用や近時弁護士も適用対象となったフリーランス法にも注意が必要です。

1 買いたたき

⑴ 委託事業者は、製造委託等代金の額を決定する際に、発注した内容と同種、又は、類似の給付の内容に対し、通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めると、取適法が禁止する買いたたきに該当します。買いたたきに該当するか否かは、以下の4つの要素を勘案して総合的に判断されます。

① 製造委託等代金の額の決定に当たり、中小受託事業者と十分な協議が行われたかどうかなど対価の決定方法
② 差別的であるかどうかなど対価の決定内容
③ 通常支払われる対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況
④ 当該給付に必要な原材料等の価格動向

⑵ 買いたたきに該当するおそれのある行為として具体的に以下のようなものが考えられます。
 a 多量の発注をすることを前提として中小受託事業者に見積りをさせ、その見積価格の単価を少量の発注しかしない場合の単価として代金の額を定めること。
b 量産期間が終了し、発注数量が大幅に減少しているにもかかわらず、単価を見直すことなく、一方的に量産時の大量発注を前提とした単価で代金の額を定めること。
c 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。
d 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、中小受託事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で中小受託事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。
e 一律に一定比率で単価を引き下げて代金の額を定めること。
f 委託事業者の予算単価のみを基準として、一方的に通常の対価より低い単価で代金の額を定めること。
g 短納期発注を行う場合に、中小受託事業者に発生する費用増を考慮せずに通常の対価より低い代金の額を定めること。
h 給付の内容に知的財産権が含まれているにもかかわらず、当該知的財産権の対価を考慮せず、一方的に通常の対価より低い代金の額を定めること。
i 合理的な理由がないにもかかわらず特定の中小受託事業者を差別して取り扱い、他の中小受託事業者より低い代金の額を定めること。
j 同種の給付について、特定の地域又は顧客向けであることを理由に、通常の対価より低い単価で代金の額を定めること。

2 協議に応じない一方的な代金決定
⑴ 委託事業者は、①中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、②中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、③当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の決定をすると、取適法の禁止する協議に応じない一方的な代金決定に該当することになります。買いたたきの禁止は、価格が著しく低いことが要件となっており、認定が難しいことから、交渉プロセスに着目した規制を追加した意義があります。

⑵ 協議に応じない一方的な代金決定に該当するおそれのある行為として、具体的にいかのようなものが考えられます。
a 中小受託事業者が代金の額の引上げに係る協議を求めたにもかかわらず、これを拒否し、無視し、又は回答を引き延ばす等により、協議に応じないこと。
b 中小受託事業者が代金の額の引上げを求めたのに対し、合理的な範囲を超えて詳細な情報の提示を要請し、当該情報の提示を協議に応じる条件とすること。
c 中小受託事業者が合理的な理由を示して代金の額の引上げを求めたのに対し、具体的な理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、中小受託事業者の申し入れた引上げ額の一部を拒み、又は従前の代金の額を提示すること。
d 委託事業者が代金の額の引下げを要請する場合において、中小受託事業者がその説明を求めたのに対し、具体的な理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、当該引下げをした額を提示すること。

3 内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(労務費指針)

~発注者が本指針に記載の12の採るべき行動/求められる行動に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害する恐れがある場合には、公正取引委員会において独占禁止法及び中小受託取引適正化法に基づき厳正に対処していくという趣旨の記載が2か所にあります。
⑴ 発注者として採るべき行動/求められる行動
① 経営トップの関与
② 発注者から定期的な協議の実施
③ 説明・資料を求める場合は公表資料とすること
④ サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと
⑤ 要請があれば協議のテーブルにつくこと
⑥ 申入れの巧拙にかかわらず必要に応じ考え方を提案すること

⑵ 受注者として採るべき行動/求められる行動
① 相談窓口の活用と情報収集
価格転嫁交渉について、国・地方公共団体の相談窓口や中小企業支援機関(商工会議所・商工会など)を活用し、積極的に情報を収集して交渉に臨む。価格交渉ハンドブック(中小企業庁)やツール(埼玉県「価格交渉支援ツール」、中小企業基盤整備機構「価格転嫁検討ツール」「儲かる経営キヅク君」)を活用して準備する。
② 根拠資料として公表資料を用いる
労務費の上昇傾向を示す根拠として、最低賃金上昇率、春季労使交渉妥結額、毎月勤労統計調査などを用いる。
③ 値上げ要請のタイミングの活用
定期的な交渉機会や、受注者が申出しやすいタイミング(最低賃金改定後、繁忙期前など)を活用して要請する。
a 発注者の会計年度にあわせて(翌年度の予算を策定する前)
b 最低賃金の引き上げ幅の方向性が判明した後
④ 自ら希望額を提示
発注者からの提示を待たず、公表資料を活用して自社及びその先の取引先(サプライチェーン全体)の労務費上昇分を考慮した希望額を提示する。自社労務費だけでなく、二次・三次受注者の分も反映。

⑶ 発注者・受注者の双方が採るべき行動/求められる行動
定期的なコミュニケーションと交渉記録保管