名古屋市の弁護士 森田清則(愛知県弁護士会)トップ >> 弁護士業務一般 >> 公務員個人の免責の論理

公務員個人の免責の論理

1 国家賠償法(以下、国賠法)1条1項は、公務員の職務執行による違法行為について、国または公共団体が損害賠償責任を負うことを定めているが、公務員個人の責任については明文の定めがない。判例は一貫して、公務員個人が対外的に責任を負わないとする立場を採っており、大阪地裁令和4年11月25日判決及び同地裁の控訴審である大阪高裁令和5年12月19日判決も、この原則を基に請求を棄却している。同事件では、共同被告とされた国が請求認諾をしたことが弁護士の間でも話題になった。

2 上記判決は、財務省近畿財務局の職員の遺族が、国と公務員個人に対し、国賠法1条1項および民法709条に基づく損害賠償を請求した事案である。大阪地裁令和4年11月25日判決は、被告の行為が公務員としての職務執行に該当し、国賠法1条1項の適用を受けるものであるとして、公務員個人の賠償責任を否定したが、最高裁判所昭和30年4月19日判決などの判例を引用し、「公務員の職務行為による損害については、国または公共団体が責任を負う場合、公務員個人は民法上の不法行為責任を負わない」との理屈である。
 大阪高裁令和5年12月19日判決は控訴を棄却したが、被告の指示行為は国賠法1条1項の「公権力の行使に当たる公務員の職務執行」に位置づけた上で、個人責任を否定した。
 昭和52年10月25日最高裁判決などを基に、公務員の行為が職務関連性を持ち、故意または過失による違法性が認められる場合でも、責任主体は国に限定されるとした。説明義務違反などの主張も退けた。
 国賠法1条1項は、「国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体がこれを賠償する」と規定する。判例(最高裁判所昭和30年4月19日判決以降)は、この条項を公務員個人の責任を否定する根拠とし、公務員は対外的に賠償義務を負わないとする。
 この原則は、公務員の過失を「組織的過失」と捉える判例(最高裁判所昭和57年4月1日判決)により強化されており、個々の公務員の主観的有責性を厳格に問わず、行政全体の違法性を評価する。指定判決もこれを踏襲し、公文書改ざんのような職務行為を組織的文脈で扱い、個人責任を否定した。

3 学説では、国賠法1条1項の責任性質について二つの主な見解がある。
  代位責任説は、公務員個人の不法行為責任を国が代位して負うため、個人は責任を負わない。実益として、加害公務員が特定できない場合や無過失の場合でも、国賠責任が生じうるよう緩やかに解釈される。
  自己責任説は、国または公共団体が直接責任を負うため、公務員個人の責任は発生しないとする。代位責任説との違いは、加害公務員の有責性を問わず国が責任主体となる点にあり、組織的責任を強調する。
  一方で、公務員に故意または重過失がある場合(例:職権濫用)、制裁や抑止の観点から民法709条の適用を認めるべきとする見解もある。個人責任を一律否定することは、「公務員保護の行き過ぎ」との批判が根底にある。