在宅被疑者が弁護人立会いなしの取調べを拒否したところ、逮捕された事例というタイトルで紹介された名古屋高裁令和4年1月19日判決
1 逮捕の違法性、弁護権の侵害を理由とする国家賠償請求がなされた裁判です。
前提となる事案の概要として、以下のように紹介されています(適宜省略している。)。特徴として、いわゆる迷惑防止条例違反であり思い犯罪とは言えないこと、結果として無罪判決となっていること、弁護人の同席を認めれば取調べに応じることを通知していることが挙げられます。
本件甲事件は、控訴人が、後に無罪判決を受けた公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(電車内の痴漢行為)の被疑事件について、逮捕の必要性がなく、逮捕状請求が却下されたにもかかわらず、⑴検察官が再度の逮捕状請求をし、発付された逮捕状を執行したこと及び⑵再度の逮捕状請求に基づき裁判官が逮捕状を発付したことが違法であると主張して、被控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料160万円及び弁護士費用40万円の損害賠償を請求した事案である。
本件乙事件は、控訴人の私選弁護人であった控訴人弁護士が、上記被疑事件について、⑴控訴人の弁護人として取調べの日程調整の窓口になることを申入れていたにもかかわらず、検察官が控訴人に直接連絡をして日程調整をしようとしたこと、⑵検察官が再度の逮捕状請求及び発付された逮捕状を執行したこと、⑶再度の逮捕状請求に基づき裁判官が逮捕状を発付したことが、それぞれ控訴人弁護士の弁護権を違法に侵害したと主張して、被控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料160万円及び弁護士費用40万円の損害賠償を請求した事案である。
2 続けて同判決は、請求を棄却した原審の判断を以下のようにまとめています。
「担当検察官と控訴人らとの間で取調べにおける弁護人の立会いの可否をめぐって対立状況が継続する中で、本件逮捕状請求時において、担当検察官の合理的判断として、控訴人の逮捕の必要が明らかにないと判断すべきであったとまでは認められないから、担当検察官の逮捕状請求及び発付された逮捕状の執行に国家賠償法1条1項の違法はなく、逮捕の必要が明らかにない場合には該当しないとして本件逮捕状を発付した担当裁判官の行為にも、同条項の違法はないとして、控訴人らの請求をいずれも棄却した。」
3 そして、同判決の判断として、まず、逮捕状請求手続きの違法について以下のとおり判断をしています。
「(1)ア 刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕が違法となるということはない(最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決)。そして、司法警察職員や検察官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由及び逮捕の必要性の有無について裁判官が審査した上で発付した逮捕状によって、被疑者を逮捕することができる(刑訴法199条1項本文、2項)。逮捕状の請求を受けた裁判官は、提出された資料等を取り調べた結果(刑訴規則143条、143条の2)、被疑者が逃亡するおそれがなく、かつ、罪証を隠滅するおそれがない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない(刑訴法199条2項ただし書、刑訴規則143条の3)。なお、上記罪証隠滅のおそれについては、被疑事実そのものに関する証拠に限られず、公訴を提起するかどうかの判断や刑の量定に関して参酌される事情に関する証拠も含めて審査されるべきものである。そして、逮捕状を請求された裁判官に求められる審査、判断の義務に対応して考えると、司法警察員や検察官においても、逮捕の理由がないか、又は明らかに逮捕の必要がないと判断しながら逮捕状を請求することは許されないというべきである(最高裁平成10年9月7日第二小法廷判決)。
イ また、本件逮捕状請求は、本件現行犯逮捕がされた後に前件勾留却下がされ、その後にされた再度の逮捕状請求であるところ、手続上、再度の逮捕状請求も予定されており(刑訴法199条3項、刑訴規則142条1項8号)、法的に許容されたものではあるが、同一犯罪事実による逮捕の繰り返しが無制限に許されるとすれば、逮捕の時間的制限が無意味なものになるから、以前逮捕がされ、留置期間が満了した者につき再度の逮捕状請求を受けた裁判官は、上記アと同様に提出された資料を取り調べた結果、再度の逮捕をすべき特別の事情がない場合には、再度の逮捕状の請求を却下しなければならないと解すべきである。そして、上記アと同様、再度の逮捕状を請求された裁判官に求められる審査、判断の義務に対応して考えると、司法警察員や検察官においても、明らかに再度の逮捕の必要がないと判断しながら再度の逮捕状を請求することは許されないというべきである。」「(3)ア そこで、控訴人が、弁護人の取調べ立会権を主張し、控訴人Bの立会いのない取調べには応じなかったことによって、明らかに逮捕の必要がないとはいえない状況となったかを検討する。
イ 逮捕又は勾留されている場合を除き、被疑者は、検察官からの出頭要求に応じる義務はなく、出頭後いつでも退去することができる(刑訴法198条1項)。しかし、そうであるからといって、在宅の被疑者が取調べに応じるに当たり必要かつ合理的な限度で条件を付することができ、選任した弁護人を取調べに立ち会わせる権利があると当然に解されるわけではなく、明文で弁護人の取調べ立会権を認める規定は存在しない上、最高裁判所による明確な判断も示されておらず、弁護人の取調べ立会権があるとの解釈は確立していない。
また、正当な理由のない不出頭は、一般的には逃亡ないし罪証隠滅のおそれの一つの徴表であると考えられ、数回不出頭が重なれば逮捕の必要が推定されることがあると解されている。そうすると、検察官の出頭要求に応じて被疑者が出頭したものの、弁護人を取調べに立ち会わせることを求め、これを検察官が認めなかったことから、結果として被疑者の取調べを行うことができない事態が繰り返された場合に、検察官が、被疑者が正当な理由なく取調べを拒否しており、正当な理由のない不出頭を繰り返した場合に準じ、逃亡ないし罪証隠滅のおそれがあるとして逮捕の必要性があると評価することに合理的根拠がないとはいえず、本件においては、明らかに逮捕の必要がなかったということはできず、本件逮捕状の請求及び逮捕状の執行は、刑訴法及び刑訴規則の定める要件を満たす適法なものであったということができる。」「控訴人が弁護人の立会いなしでの取調べに1回応じなかったのみではいまだ罪証隠滅や逃亡のおそれが高まったとはいえないが、数回の出頭要求と説得を重ねたものの、結局控訴人単独での取調べに応じなかったことから罪証隠滅や逃亡のおそれが高まったと評価することに合理的根拠がないとはいえず、弁護人の取調べへの立会を求められた際に直ちに再度の逮捕状の請求をしなかったからといって、濫用目的があったと認めることはできない。」「また、控訴人は、別の理由として、本件逮捕状発付後に直ちに本件逮捕状が執行されていないことや、本件逮捕状による逮捕後の補充捜査が予定されておらず、逮捕当日に起訴されていること、在宅求令状の方法をとらず敢えて本件逮捕状請求をしていることなどから、上記濫用目的が認められると主張する。しかし、証拠(乙10ないし14、17)によれば、本件逮捕状の執行の嘱託を受けた担当警察官は、8月2日の本件逮捕状受領後に、控訴人が出張により帰宅しないこともあり、妻子があること等を考慮して、早朝の出勤時に逮捕することが適切であると判断し、早朝を中心に控訴人の動向を確認し、同月8日に控訴人を発見して本件逮捕状を執行したこと、控訴人は、逮捕当日の弁解録取手続及びその後の取調べで黙秘したことが認められる。このような事実関係からすると、検察官は、控訴人の主張を得て補充捜査を行うことができなかったことから、同日、公訴提起に至ったものと考えられ、本件逮捕状請求の時点で、逮捕後の補充捜査が予定されていなかったとは認めるに足りない。」
4 この裁判例は、刑事弁護を扱う弁護士には、不当な裁判例として有名です。黙秘権の行使ではなく、取調べ自体の拒否を推進するべきという考え方も(事案によっては)ありうるとされているところですが(取調べ拒否権を実現する会https://rais2024.jp/)、このような思考をする検察官や裁判官がいる(いた)ことも踏まえて、弁護方針を考えるべき場合もあります。
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