弁護士会照会と個人情報保護法の関係
1 弁護士法23条の2は、弁護士が、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができ、当該報告請求の申出を受けた弁護士会は、当該申出が適当でないと認めるときは、その拒絶をすることができ、そうでない場合は、当該申出に基づいて、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる旨を規定しています。
同条による照会制度を、弁護士会照会とか23条照会とよんでいます。
2 日本弁護士連合会は、「弁護士会照会とは、弁護士が依頼を受けた事件について、証拠や資料を収集し、事実を調査するなど、その職務活動を円滑に行うために設けられた法律上の制度(弁護士法第23条の2)です。個々の弁護士が行うものではなく、弁護士会がその必要性と相当性について審査を行った上で照会を行う仕組みになっています。この制度によって得られた情報・証拠によって、事実に基づいた解決ができることになり、民事司法制度を支える重要な制度として機能しています。」とその意義を説明しています。
弁護士実務では、よく用いられており、典型的なものとして、遺産分割事件で金融機関に対し預貯金口座の履歴を、交通事故事件で検察庁に対し実況見分調書を、刑事弁護事件で、コンビニにアリバイを裏付けるための防犯カメラ映像を照会するなどがあげられ、多種多様に活用されています。
3 弁護士会照会と個人情報保護法の関係について日弁連は、「個人情報の保護に関する法律は、本人の同意がなくても第三者に情報を提供できる場合として「法令に基づく場合」を挙げています。この法令には弁護士法23条の2が含まれています(個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」および「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」7-16参照)。ですから、本人の同意なしで、個人情報を含む回答を弁護士会にすることができます。個人情報保護法について分野毎に作成された各種のガイドラインにも、弁護士照会が法令に基づく場合であることが明示されています。」と説明していますが、個人情報保護委員会が、「具体的な報告内容によっては、プライバシー権の侵害等を理由に損害賠償請求が認容されるおそれがあることから、報告を行う際にあらかじめ本人からの同意を得ることが望ましいですし、仮に同意が得られない場合に報告に応じるか否かは、その照会の理由や当該個人情報の性質等に鑑み、個別の事案ごとに慎重に判断をする必要があると考えられます。」(https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq2-q5-7/)と指摘している点には注意が必要だと思います。
税理士が弁護士会照会に応じて、委嘱者であった納税義務者に係る確定申告書や総勘定元帳の写しを開示したことが、納税義務者に対する関係で不法行為に該当するとして、当該税理士に慰謝料の支払が命じられた裁判例として、大阪高裁平成26年8月28日判決があります。報告を拒絶できる正当な理由があるのに、安易に回答したことが、委嘱者との関係で税理士法38条の守秘義務に反し、不法行為が成立すると判断されたものです。
4 弁護士会照会に関する書籍は多く出されており、また、各弁護士会の弁護士会照会の担当が定期的に情報提供をしていますが、日本税理士会連合会監修の「月刊税理」では、「実務に役立つ証拠収集法~弁護士会照会を活用しよう~」という連載も参考になります(同誌では、要件事実を扱う岡口基一元裁判官の連載もなされていました。)。
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