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弁護士のした反対尋問における発言が当該証人の名誉を毀損すると認められた事例

 判例時報2424号73頁で紹介されています(東京高裁平成30年10月18日判決)。

 弁護士の行った反対尋問における証人に対する発言が名誉毀損に該当することを認定した上で、正当な訴訟活動として違法性が阻却されるかについて以下のような検討がなされています。

『証人尋問では,争点に関する事実関係についての質問にとどまらず,事実関係を明らかにする目的で証言の信用性を弾劾するため,その信用性に関する事実を質問し,証人の信用性を争うために,証人の利害関係,偏見,予断のほか,性質・行状等に関する質問をする必要があり得る。そのような場面では,証人にとって不名誉な事実を質問する場合が存する。しかしながら,証人は,事実の存否について攻撃防御をしあう当事者ではない第三者である上,証言の信用性に関わる事実は,立証命題ではなく,当該訴訟における争点との関係性は存しないか低いものであるから,証人の信用性に関する事項の質問は必要性のあるものでなければならず,必要性のない質問によって証人の名誉を毀損することは許されない。他方,尋問において摘示された事実によって証人の名誉を毀損されたとしても,その事実が真実か又は真実であると信じたことが相当である場合には,当該質問は,証人の信用性を争うために行われている限り,争点である事実関係を解明するための正当な行為として,許容されているといえる。・・・証人の名誉を毀損する質問が行われた場合においては,当該質問によって毀損される名誉の内容や程度,質問の必要性,当該質問において摘示した事実の真実性,又は真実であると信じた相応の根拠の有無,質問の表現方法や態様の相当性を総合考慮し,正当な訴訟活動として違法性が阻却されるか否かを判断するのが相当である。』と一般論を展開しています。

 そのうえで、質問の必要性について、『反対尋問において,控訴人が前職であるC駅の駅長をしていたときに約3000万円の横領行為を行い,高額の損害賠償金を支払わなければならない状況にあって,控訴人が別訴被告を退職するわけにはいかないという事実を法廷に顕出し,控訴人が退職しなくて済むように,別訴被告に有利な証言をする立場に置かれていることを明らかにして,控訴人の主尋問での証言の信用性を弾劾しようとしたことが認められる。しかしながら,・・・使用者側が雇用する従業員を証人として申請した場合,・・・雇用関係にあることを理由として,証言の信用性を弾劾することに意味があるとは思えない。・・・また,控訴人が前職において約3000万円の横領行為をし,その勤務先と示談をした人物であるという控訴人の行状等についても,仮にそのような事情があったとしても,それを法廷で明らかにすることによって,別訴における争点に関わる控訴人の証言の信用性が減殺されるとは考え難い。そうすると,あえて控訴人が3000万円を横領したという事実を摘示した本件各発言は,訴訟遂行上の必要性があったかどうか,きわめて疑問である。』と判示しています。
 事実の真実性,相当性については、『控訴人が横領をした事実が真実であると認めるに足りる証拠は全くない。被控訴人が,本件各発言等をした時,控訴人が横領をしたことが認められるような資料を入手していた,あるいは信用性のある情報を得ていたと認めるに足りる証拠もない。・・・上記裏付けというのは,被控訴人が別訴被告と対立関係にある別訴原告から聴取した事実にすぎず,中立的な第三者から確認したり,客観的資料に当たった事実等はうかがわれず,横領行為を推認させる事実としては薄弱なものであるから,相応の根拠があったとはいえない。被控訴人は,相応の根拠もなく,本件各発言に及んだといわざるを得ない。』として、根拠の薄弱さが指摘されています。
 表現方法や態様については、『被控訴人は,・・・控訴人から「すみません,何が聞きたいんでしょうか。」と問われ,別訴被告代理人から関連性がない旨の指摘を受けたにもかかわらず,本件発言1の質問をし,控訴人が全て解決しているから心配不要と発言しているにもにもかかわらず,本件発言2の質問をし,控訴人が「違います。」と回答しているのに,「どういうふうに解決したんですか。」と続けた。これに対し,控訴人が「言わないといけないんでしょうか。」と質問すると,被控訴人は「そうですね,あなたの証言の信用性に関わることですから。」と述べ,別訴被告代理人が「裁判長,関連性がないと思いますが。証人の名誉を侵害するような質問は,やめていただきたい,そんなことは。」と発言し,裁判長から「次の質問にいってください。」と言われても,関係ないということはないとし,本件発言3に及んだ。そして,別訴被告代理人が「それは関連性がないじゃないですか。」などと発言したが,控訴人は,本件発言4に及んだ。上記認定事実からすると,本件各発言は,別訴被告代理人から質問の趣旨及び争点との関連性について複数回疑問を呈され,名誉毀損に該当するとの指摘を受けても質問を続け,裁判長から次の質問に行くよう言われて
も,さらに発言し続けたものであって,執拗なものであり,その態様は不適切であったといわざるを得ない。』と判示し、執拗であったと評価されています。

 原審では名誉毀損該当性が否定されており、微妙な事案であったということができるかもしれませんが、判示の一般論も含めて確認しておくべき裁判例だと思います。