道路交通法103条1項1号の2(認知症が判明したとき)を理由とする高齢者の自動車の運転免許取消処分が適法と判断された事例(東京高裁平成31年1月16日判決)
判例タイムズ1466号86頁に掲載されています。
道路交通法103条1項1号の2は、「認知症であることが判明したとき」を運転免許の取消事由と定めており、この規定に基づく取消処分の適法性が争われました。
判決文では、介護保険法5条の2第1項の認知症の定義である「脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態」をもとに、軽度の認知症でも初期の認知症でも、取消事由に該当する旨判断しています。
判決文では、取消処分の対象となった高齢者について、「共感性が弱く、自らの認識に反する情報に接すると、これを謙虚に聞いいて内省を試みるというよりは、これを排斥、拒絶する傾向が強いことがうかがわれる。」、「自らの認知機能の低下を受け入れる気持ちを持つことができず、アルツハイマー型認知症という指摘だけで医師と喧嘩をするような患者であった」、「初期の軽度の認知症の段階であっても、認知症患者による自動車運転は、社会に極めて大きな危険をもたらす行為である、そうすると、認知症患者による自動車運転は、ためらうことなくこれを禁止すべき社会的要請が非常に高い。自己の認知機能の低下を受容する気持ちを持てず、かえってこれを指摘する医師と喧嘩する者については、なおさらである。」とまで指摘しています。
高齢者の自動車運転による重大な死傷事故が大きな社会問題になっており、刑事事件を扱う弁護士としては、免許返上の活用とあわせて、同制度の活用に注目していきたいと思います。
<道路交通法103条1項、2項>
免許(仮免許を除く。以下第百六条までにおいて同じ。)を受けた者が次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、その者が当該各号のいずれかに該当することとなつた時におけるその者の住所地を管轄する公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。ただし、第五号に該当する者が前条の規定の適用を受ける者であるときは、当該処分は、その者が同条に規定する講習を受けないで同条の期間を経過した後でなければ、することができない。
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