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所得の年度帰属と権利確定主義

 所得税法は,一定の期間を区切って所得を計算し課税の対象とすることから、ある所得がどの年に帰属するかを決める必要があります。

 まず、現実の収入という事実があった時を基準とする現金主義は,納税者が容易に時期を操作できてしまうことから採用することができず、何らかの客観的な基準により収入が発生したとされる時を基準とする発生主義が現行法上採用されているとされています。

 さらに発生主義のもとでは、所得税法36条1項が、「収入すべき金額」と規定していることから、収入する権利が確定した時とする権利確定主義がとられており、収入を請求できる権利が無条件になった時点で収入を得る権利が確定するという無条件請求権説が有力に主張されています。

 なお、収入を受け取る権利が法的に確定していないにもかかわらず「収入すべき金額」を肯定するべき場合があり、そのような場合には、管理支配主義の考え方をとるべきとされています。

 法的に権利が確定していないにもかかわらず現実に受け取った収入について完全な管理支配を肯定できる場合と、違法な所得に関する事例が挙げられています。

 このような議論の具体的な場面として,不動産の時効取得による一時所得の年度帰属の論点があります。

 具体的には,民法における時効の援用の議論や,税法上の観点等から,①占有開始時,②時効期間の完成時,③時効援用時,④時効取得について判決等が確定した場合,が理論上考えられます。

 時効取得の主張が認められるためには,少なくとも10年の占有継続が要件ですから(民法162条1項,同2項参照),時効取得の援用ができる事実関係の下では,①占有開始時の考え方では,自動的に課税の消滅時効期間が経過していることになります(国税通則法72条1項,地方税法18条1項は,租税の徴収権は原則として法定納期限から5年間行使しないことにより時効により消滅する旨規定しています〔金子租税法〔23版〕871ページ〕。)。
 このような納税者の主張は,およそ時効取得が認められた場合には課税ができないことを意味し,弁護士としてはなかなか主張しづらいかなというという印象を持ちます。

 ③時効援用時の考え方をとると,援用後に時効取得の主張が認められないこともありうること,時効取得の主張は予備的に主張されることが多いことからすると,更正の請求の制度により救済されるにしても,所得のないところに課税していると言い得る点で妥当とはいえないのではないかと思います。