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金融機関に対する払戻請求権(改正民法909条の2)の差押え可能性

 改正民法909条の2は、一定の上限を定めたうえで、家庭裁判所の判断を経ることなく、金融機関に対し遺産である預貯金債権を行使することができることを定めています。

 この払戻請求権の差押え、譲渡、相殺について、部会資料25-2には以下のような記載があります(⑵は、909条の2に基づく払戻請求権をさします)。

「平成28年12月19日最高裁大法廷決定(民集70巻8号2121頁)により,共同相続された預貯金債権については,遺産分割の対象とされ,共同相続人の一人による単独での権利行使が許されないこととなったところ,本方策は,法律上の規定を設けて預貯金債権のうち一定額については単独での権利行使を可能とするものであって,本方策によって性質の異なる複数の預貯金債権を創設するものではない。したがって,相続開始により準共有となったものと解される預貯金債権の準共有持分を譲渡したり,これを差し押えることは可能であるが,「⑵」の方策に係る払戻し請求権それ自体を独自に観念することはできず,これを譲渡したり,差し押えることはできないものと考えられる。もっとも,預貯金債権の準共有持分を譲渡することにより,本方策によって付与された預貯金債権を単独で権利行使をすることができる地位も第三者に移転することになるかについては更に問題となるが,本方策が,遺産分割までの間は預貯金債権を単独で権利行使ができないことにより定型的に相続人に生じ得る不都合を解消するために特に設けられた制度であることからすれば,当該持分の譲渡を受け,又は差押えをした第三者については,本方策に基づく単独での権利行使はできないと解すべきように思われる(なお,当該持分を譲り受けた第三者としては,(準)共有物分割を経るなどして,換価する手段は残されている。)。なお,本方策は,あくまでも共有法理の例外を設けたものであるから,第三者が相続人の共有持分を差し押さえた場合には,その相続人は,差押えによる処分禁止効により,本方策による払戻しを受けることもできなくなるものと考えられる。」