名古屋市の弁護士 森田清則(愛知県弁護士会)トップ >> 企業法務 >> 仲立人の氏名黙秘義務と介入義務

仲立人の氏名黙秘義務と介入義務

 商取引においては、商人が氏名や名称を黙秘する必要性がある場面が想定できることから、商法548条は、当事者が相手方に氏名や名称を示さないように仲立人に命じたときには、仲立人は従うべきことを規定しています。

 この場合には、結約書や仲立人日記帳の謄本にも、氏名や名称を記載できないこととされます。

 なお、仲立人による媒介により契約が成立してからも氏名黙秘義務を認めている点については、疑問も指摘されています。

 また、商法549条は、仲立人が当事者の一方の氏名や名称を隠して媒介を行った場合には、仲立人は成立した契約を自ら履行する義務(介入義務)を負うことを規定しています。

 匿名の当事者が契約上の債務を負担するのが本来ですが、仲立人が氏名や名称を開示しても、介入義務がなくなるものとは解されていないようです。

 この介入義務については、仲立人の資力が乏しい場合が多いことを理由に実益のある規定とは思われない旨の指摘もされています。

〈商法〉

第五章 仲立営業
(定義)
第543条 この章において「仲立人」とは、他人間の商行為の媒介をすることを業とする者をいう。
(当事者のために給付を受けることの制限)
第544条 仲立人は、その媒介により成立させた行為について、当事者のために支払その他の給付を受けることができない。ただし、当事者の別段の意思表示又は別段の慣習があるときは、この限りでない。
(見本保管義務)
第545条 仲立人がその媒介に係る行為について見本を受け取ったときは、その行為が完了するまで、これを保管しなければならない。
(結約書の交付義務等)
第546条 当事者間において媒介に係る行為が成立したときは、仲立人は、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面(以下この章において「結約書」という。)を作成し、かつ、署名し、又は記名押印した後、これを各当事者に交付しなければならない。
一 各当事者の氏名又は名称
二 当該行為の年月日及びその要領
2 前項の場合においては、当事者が直ちに履行をすべきときを除き、仲立人は、各当事者に結約書に署名させ、又は記名押印させた後、これをその相手方に交付しなければならない。
3 前2項の場合において、当事者の一方が結約書を受領せず、又はこれに署名若しくは記名押印をしないときは、仲立人は、遅滞なく、相手方に対してその旨の通知を発しなければならない。
(帳簿記載義務等)
第547条 仲立人は、その帳簿に前条第1項各号に掲げる事項を記載しなければならない。
2 当事者は、いつでも、仲立人がその媒介により当該当事者のために成立させた行為について、前項の帳簿の謄本の交付を請求することができる。
(当事者の氏名等を相手方に示さない場合)
第548条 当事者がその氏名又は名称を相手方に示してはならない旨を仲立人に命じたときは、仲立人は、結約書及び前条第2項の謄本にその氏名又は名称を記載することができない。
第549条 仲立人は、当事者の一方の氏名又は名称をその相手方に示さなかったときは、当該相手方に対して自ら履行をする責任を負う。
(仲立人の報酬)
第550条 仲立人は、第546条の手続を終了した後でなければ、報酬を請求することができない。
2 仲立人の報酬は、当事者双方が等しい割合で負担する。