商人間の留置権
商法521条は、商人間における特別の留置権を規定しています。
①当事者双方が商人であること、②被担保債権が当事者双方のために商行為であること、③留置権の目的物が債務者の所有に属する物または有価証券であること、④債務者との間における商行為によって、債務者の占有に帰したものであること(被担保債権と個別的関連性があることは要求されない点で民事留置権と異なります。占有取得の原因が債務者との商行為、例えば、債権者・債務者間の寄託契約や賃貸借契約など)、⑤被担保債権の弁済期が到来していること、が要件として定められています(521条ただし書は、特約による留置権成立の排除を認めています)。
③との関連で、最高裁平成29年12月14日判決は、留置の目的物に不動産が含まれると判示しました(占有を要件とせず登記の前後により優先権が決定される抵当権との競合により不動産取引の安全を害するのではないかという観点から議論がありました。)。
また,民事留置権は,目的物が債務者の所有である必要がない点は,それぞれの留置権の沿革が異なることによるものと考えられ,合理性について疑問も生じるところです。
商事留置権の効力は商法に規定がないことから民法296条以下の規定によることとなり、留置権者は弁済を受けるまで留置目的物を留置し、これにより生ずる果実(民法88条)を取得することはできるが(民法297条)、留置目的物を売却してその代金を自己の債権に充当することはできず、また、競売にかけることはできるが(民事執行法195条)、換価代金について優先弁済を受けることはできないこととされています。
なお商法は、代理商(31条)、問屋(557条)、運送取扱人(562条)、運送人(574条)の留置権も定めています。
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