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物品運送人の荷受人に対する損害賠償責任

 最高裁昭和44年10月17日判決は、運送人の責任について、運送契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権は競合する旨判示しており、改正商法の、債務不履行責任に関する損害賠償額の定額化(576条)、高価品の特則(577条)、運送人の損害賠償責任の消滅(584条、585条)等の規定が、不法行為責任を追及することにより、意味を有さないことになってしまいます。

 そこで、改正商法587条は、上記のような運送人の責任についての規定を不法行為責任の場合にも準用する旨定めました。

 自ら運送契約を締結していない荷受人が運送人に対して損害賠償請求する場合については、最高裁平成10年4月30日判決が、「荷受人も、少なくとも宅配便によって荷物が運送されることを容認していたなどの事情が存するときは、信義則上、責任限度額を超えて運送人に対して損害の賠償を求めることは許されない」と判示していることを踏まえ、荷受人にも587条の適用を認めつつ、「荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず荷送人から運送を引き受けた運送人の荷受人に対する責任」を追及する場合には、適用を除外することとされています。

<改正商法>

(損害賠償の額)

第五百七十六条 運送品の滅失又は損傷の場合における損害賠償の額は、その引渡しがされるべき地及び時における運送品の市場価格(取引所の相場がある物品については、その相場)によって定める。ただし、市場価格がないときは、その地及び時における同種類で同一の品質の物品の正常な価格によって定める。

2 運送品の滅失又は損傷のために支払うことを要しなくなった運送賃その他の費用は、前項の損害賠償の額から控除する。

3 前二項の規定は、運送人の故意又は重大な過失によって運送品の滅失又は損傷が生じたときは、適用しない。

(高価品の特則)

第五百七十七条 貨幣、有価証券その他の高価品については、荷送人が運送を委託するに当たりその種類及び価額を通知した場合を除き、運送人は、その滅失、損傷又は延着について損害賠償の責任を負わない。

2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。

一 物品運送契約の締結の当時、運送品が高価品であることを運送人が知っていたとき。

二 運送人の故意又は重大な過失によって高価品の滅失、損傷又は延着が生じたとき。

(運送人の責任の消滅)

第五百八十四条 運送品の損傷又は一部滅失についての運送人の責任は、荷受人が異議をとどめないで運送品を受け取ったときは、消滅する。ただし、運送品に直ちに発見することができない損傷又は一部滅失があった場合において、荷受人が引渡しの日から二週間以内に運送人に対してその旨の通知を発したときは、この限りでない。

2 前項の規定は、運送品の引渡しの当時、運送人がその運送品に損傷又は一部滅失があることを知っていたときは、適用しない。

3 運送人が更に第三者に対して運送を委託した場合において、荷受人が第一項ただし書の期間内に運送人に対して同項ただし書の通知を発したときは、運送人に対する第三者の責任に係る同項ただし書の期間は、運送人が当該通知を受けた日から二週間を経過する日まで延長されたものとみなす。

第五百八十五条 運送品の滅失等についての運送人の責任は、運送品の引渡しがされた日(運送品の全部滅失の場合にあっては、その引渡しがされるべき日)から一年以内に裁判上の請求がされないときは、消滅する。

2 前項の期間は、運送品の滅失等による損害が発生した後に限り、合意により、延長することができる。

3 運送人が更に第三者に対して運送を委託した場合において、運送人が第一項の期間内に損害を賠償し又は裁判上の請求をされたときは、運送人に対する第三者の責任に係る同項の期間は、運送人が損害を賠償し又は裁判上の請求をされた日から三箇月を経過する日まで延長されたものとみなす。

(運送人の不法行為責任)

第五百八十七条 第五百七十六条、第五百七十七条、第五百八十四条及び第五百八十五条の規定は、運送品の滅失等についての運送人の荷送人又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任について準用する。ただし、荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず荷送人から運送を引き受けた運送人の荷受人に対する責任については、この限りでない。

(運送人の被用者の不法行為責任)

第五百八十八条 前条の規定により運送品の滅失等についての運送人の損害賠償の責任が免除され、又は軽減される場合には、その責任が免除され、又は軽減される限度において、その運送品の滅失等についての運送人の被用者の荷送人又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任も、免除され、又は軽減される。

2 前項の規定は、運送人の被用者の故意又は重大な過失によって運送品の滅失等が生じたときは、適用しない。