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副業について考える~「兼業・副業と労働法」(桑村裕美子東北大学准教授)を参考に

 ジュリスト1519号60頁以下に掲載されています。

 以前、いわゆる兼業・副業をどのように規制するとすれば(許可制や届出制の導入、基準の設定など。所得税法上の所得分類の視点は有効に機能するかなども検討しました。)、どのように具体的に規定することが労働法規上許容されるかを検討したことがあります。

 最近の動きとしては、長時間労働の規制が叫ばれる一方で、兼業・副業が推奨されている向きもあり、弁護士としては関係する法律の整理をしておくことは重要だと考えられます。

 標記の論文では、兼業制限をめぐる問題、労働時間通算制をめぐる問題、健康管理の規制、労働保険上の問題の各視点から、網羅的に検討されており、実務の参考になる内容となっています。

 労基法38条1項の定める労働時間通算制は,同一使用者に属する複数事業場で労働する場合だけでなく,異なる使用者のもとで労働する場合を含むものとするのが定説です。

 異なる使用者のもとでの所定労働時間を通算した結果,1日8時間の法定労働時間を超える場合には,後から労働契約を締結した使用者に労基法上の手続を行う義務と割増賃金を支払う義務が課されることとされていますが,現状の法制度では,当該後から労働契約を締結した使用者が,労働者の別事業主のもとでの労働及び労働時間を調査,把握することは困難であるため,こうした義務を使用者に課すことは困難である,と論じています。

 健康管理上の規制については,ある単独の使用者で見ると過重労働となっていなくても,複数の使用者での就業実態を合わせて見ると過重労働となり,健康被害が生じた場合,どの使用者が安全配慮義務違反を負うかが問題となりますが,他の事業場での就業実態を把握することが困難であることを踏まえると安全配慮義務違反は認められない,と指摘する一方,労働者の体調不良が観察される場合には,健康被害を防ぐのに必要な措置を講じる義務が生じる,とも指摘しています。

 労働保険上の問題に関しては,複数の使用者で就業する場合,労災保険は個別に適用されるため,一つの事業場で労働災害に遭った場合は当該使用者から得られた賃金のみに基づき給付基礎日額が計算され,全ての就業先を休業せざるをえない場合には,労働者の不利益が大きいことが指摘されています。

 この他にも,健康診断やストレスチェックを実施する義務,労災認定における業務起因性の判断,雇用保険の適用といった論点にも触れられています。