名古屋市の弁護士 森田清則(愛知県弁護士会)トップ >> 倒産 >> 小規模個人再生において住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たり無異議債権の存否等を考慮することの可否(積極)(最高裁平成29年12月19日判決)

小規模個人再生において住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たり無異議債権の存否等を考慮することの可否(積極)(最高裁平成29年12月19日判決)

 小規模個人再生手続に関する最高裁判例です。

 再生計画案の決議について、同意しない旨の回答が議決権者総数の半数に満たず、かつ、当該議決権の額が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないようにするため、再生債務者が実際には存在しない債権を意図的に債権者一覧表に記載したのではないかが問題となった事案です。

 木内道祥裁判官の補足意見では、「小規模個人再生においては,債務者による債権者一覧表への再生債権の記載が債権者による債権届出とみなされ(法225条),債権者が再生計画案に不同意を表明しなければ同意として扱われる(法230条6項)ため,債権者の関与がなくても債務者の行為だけによって再生計画案の可決がもたらされることがあり得る。本件はそのような事案であり,抗告人がAの債権を債権者一覧表に記載し,議決権の過半数を占めることとなったAから不同意の表明がなかった結果,本件再生計画案が可決されるに至った。本件は,この点について,抗告人に信義則に反する行為があるといえるか否かを問題とするものである。」と整理されています。

 最高裁は、「法231条が,小規模個人再生において,再生計画案が可決された場合になお,再生裁判所の認可の決定を要するものとし,再生裁判所は一定の場合に不認可の決定をすることとした趣旨は,再生計画が,再生債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し,もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図るという法の目的(法1条)を達成するに適しているかどうかを,再生裁判所に改めて審査させ,その際,後見的な見地から少数債権者の保護を図り,ひいては再生債権者の一般の利益を保護しようとするものであると解される。そうすると,・・・法202条2項4号所定の不認可事由である「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」には,議決権を行使した再生債権者が詐欺,強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれるものと解するのが相当である」。

「そうすると、小規模個人再生において,再生債権の届出がされ(法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。),一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても,住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては,当該再生債権の存否を含め,当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができると解するのが相当である。」

と判示しました。

 実際の個人再生手続きを進めるうえで、客観的な証拠の乏しい貸付債権をどのように扱うかが悩ましい場合もあります。

 このような債権をどのように扱うかによって、再生計画案に反対する(ことが見込まれる)債権者の債権額が過半数を下回るのかに影響を及ぼすこともあり、小規模個人再生を選択するか、給与所得者等再生を行うべきか、等について、事前に検討するべき場合もあります。

 債権としては認めるべきではないと思われる場合に,訴訟提起の可能性などについても難しい判断が求められることもあります。

 最高裁の判断は、実務の指針を明らかにするものであり、結論としても異論は少ないと思われます。