名古屋市の弁護士 森田清則(愛知県弁護士会)トップ >> 信託 >> 他人所有の自動車を運転中に物損事故に遭った者が,弁護士を代理人として損害賠償請求訴訟を提起した後,所有者から損害賠償請求権の債権譲渡を受けた場合について,この債権譲渡は訴訟信託に当たり無効であると判断した事例

他人所有の自動車を運転中に物損事故に遭った者が,弁護士を代理人として損害賠償請求訴訟を提起した後,所有者から損害賠償請求権の債権譲渡を受けた場合について,この債権譲渡は訴訟信託に当たり無効であると判断した事例

 判例タイムズ1437号105頁に掲載されている福岡高裁平成29年2月16日判決です。

 いわゆる任意的訴訟担当(訴訟信託)については,①民事訴訟法54条1項の定める弁護士代理の原則や信託法10条が定める訴訟信託の禁止の潜脱のおそれがなく,②それを認める合理的必要がある場合に許容されるものと考えられます。

 この事案では,弁護士代理の原則を潜脱するものではないですが,原告が訴訟を提起した理由が原告が加入していた自動車保険の弁護士費用特約を使うためであり,原告への債権譲渡が原告の訴訟を行わせるためであると認定し,信託法10条(『信託は,訴訟行為をさせることを主たる目的としてすることができない』)を適用して無効という結論を導いています。

 道垣内先生の『信託法』50頁では,「他人の紛争への不当な介入(弁護士代理の原則の趣旨に反する場合を含むが,それに限らず,非弁活動一般もふくまれうる)となる場合に限って,禁止される訴訟信託に該当すると解すべきである。」「禁止されるべき訴訟信託は,民法90条の適用によっても無効になることが多く,結局,信託法10条は公序則の具体化であると解される。」と書かれています。