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一司法試験受験生の勉強方法

 先日,事務所の机を整理していたら,僕が司法試験合格直後に作成した司法試験の勉強方法をまとめた『新司法試験指針』というデータが見つかったので(おそらく合格体験記的な意味合いで作成したのだと思います。),あえてそのままUPしてみます。当時と受験環境は異なっているので(弁護士になって,受験生の論文答案の添削の仕事も毎年続けており,当時よりも良い参考書等が出ているのは知っているつもりです。),どこまで参考になるかは分かりませんが。

 

以下は,自分の経験と,優秀な成績で合格した友人の意見・感想をもとに,現時点での新司法試験対策に有効であると思われることを書いたものです。合格者の勉強方法も人それぞれですから,批判的に検討していただいて日々の勉強に役立てていただければ幸いです。なお,傾向の変化には十分注意してほしいと思います。

一 総論

1 百選の事案と判旨

 ~択一,論文ともに有効

 解説は判例の事案や,理論的位置づけを把握するのに必要な部分は読む。

 有力な学者の解説はできる限り読む。

※百選に掲載されている最高裁判例は全部読む。自分で勝手に取捨選択してはいけない。

2 論文

・論証の暗記=論文の勉強ではない。論証暗記の勉強は極力排除する。

・典型的事例や判例との違いを意識しながら,具体的に考える。抽象論で答えが出せる問題は出ない。マジックワードで逃げない。その実質を稚拙でも論証する姿勢が必要。

・論点ではなく,要件を順に検討することが必要。

・事実を拾う場面では要約をしない(重要な事実に絞ることはあり)。事実の羅列にならないように気をつける。

・たくさん書ける能力を身につける。→新司論文は,時間配分がとても重要

・最近の旧試験の過去問を,じっくり検討することも効果的らしい。その際には,予備校の解答は模範として位置づけないようにすることが必須。

3 択一

・条文は,どのような場合に適用されるかを意識して繰り返し読む。

  ・基本書を択一対策的に読む(通読する)。

・択一の問題でも,知識だけでは解けない問題(少し考えれば解ける問題)もあることを認識しておく。こういう問題は選択肢との関係で答えが出せることが多い。

4 択一と論文のバランス

・択一の問題演習とその復習は,断片的な知識の詰め込みになりやすいので論文とのリンクが難しいし穴もできやすい。肢別本も同様の危険があるから,使い方に注意する。個人的には,問題演習や肢別本は自分の知識の定着度を確認する手段として活用するのがよいと思う。

 ※結局,択一と論文の勉強を極力分離させないことが理想です。択一の勉強の際にも,論文的な思考を排除しないようにするだけで十分意味はあると思います。

二 各論

1憲法

<択一>

 百選,条文,芦部

<論文>

 上記に加えて法学教室の演習(安念)など

→憲法はよく分からないまま受験生活を終えました。今思うと,憲法では,どのような権利が侵害されており,それは憲法のどの条文で保障されているのかについて,原告の主張として厳格な違憲審査基準が導かれる権利を主張し,被告の主張としてより緩やかな審査基準が導かれる権利の問題にすぎないことを主張するということが求められているような気がします。その際には,事案固有の特徴に配慮することが重要だと思います。

2行政法

<択一>

 百選,条文,宇賀or塩野。組織法は捨ててよいかも

<論文>

 上記に加えて,ケースブック行政法(特に百選に掲載されていない判例),ケースブックの設問にも目を通しておく(去年,今年ともに出題されている)。平成16年に改正された部分については注意しておく(実質的当事者訴訟,執行停止が出題されている)。法学教室の演習も有効。

→行政法は,問題文に示された誘導文をいかにすばやく把握できるかに尽きると思います。それを前提として,事実の摘示と評価ができれば完璧でしょう。ひとつの対策としては,ケースブックに出てくる判例を,下級審を含めて丁寧に検討しておくことでしょう。去年も今年もケースブックの設問から出題されており,大幅な時間短縮が期待できます。

3民法

<択一>

 条文,LEC完択,基本書の通読(とくに判例部分) 

 ※内田を使いましたが,要件を意識させるような構成ではないので違う本がいいかもしれません。

<論文>

 上記に加えて基本書の通読,民事法ⅠⅡⅢ

 大大問では,要件の的確な抽出とそれに当てはまる事実の抽出と,民法の理論的な部分(債権譲渡特例法,解除の帰責事由)を聞く傾向にある。山本敬三,潮見佳男は最先端の議論や理論を理解するためのツールとして参照すべきであるが,そのような議論を知っていれば,誘導に乗って解答できる出題がなされている。

→旧司法試験でも従来いわれてきたことですが,要件効果を意識して勉強することが重要だと思います。論点は,要件を検討していく途中で出現してくるというイメージがよいと思います。今年の本試験も,解除の要件(厳密な意味での要件事実である必要はないと思います)を,列挙した上で,どの事実が解除の意思表示に当たるか,催告に当たるか等を原告・被告の立場から評価を交えて丁寧に論述していけば十分だったと思います。その際には,直接には要件事実が聞かれていないとしても,要件事実的な思考・発想(すべての要件が充足されて法律効果が発生する)をすることが役立つと思います。

4商法

 択一・論文とも百選と会社法100問が中心。総則手形もやる(百選は不要で,僕は辰巳の条文判例本を使用(3月下旬からやりました))。法学教室の演習や,法学セミナーの弥永の連載もよい。

→会社法100問を繰り返せば択一・論文とも十分だったと思います。分かりにくい論点はそのつど調べることで足りるでしょう。一応会社法百選は読んでおくべきですが,会社法の択一では判例の知識はほとんど聞かれず,条文の知識を問う問題がほとんどです。 

5民事訴訟法

<択一>

 百選,伊藤塾条文シリーズ

<論文>

 上記に加えて,民事法ⅠⅡⅢ。民訴百選の解説は結構よい。重点講義(上)(下)(注の部分もなるべく読む)。重点講義は択一対策にも有効

→民訴は,特に力を入れるべき科目だと思います。他のローの授業が充実しているのを聞いていたので,危機感を持って勉強していました。重点講義が個人的にはとてもよかったです。去年も今年も重点講義の地味な部分から出題されています。もっとも,そんなに簡単に通読できる本ではないですし,本試験が知識だけを聞いているとも思えないので読まないと点がとれないということではありません。本試験のときは,知識で解こうとせず,民訴的な思考を示して問題に解答しようというスタンスで書きました。

6刑法

 西田(総)(各)を択一的,論文的に通読する。

 →刑法は,理論を結構勉強してしまいました。山口の総論・各論,問題探求も読みました。でも,本試験ではそういうことはほとんど聞かれません。行為無価値か結果無価値かという議論を大展開させる問題は出ないでしょう。判例刑法で判例を読むという勉強法がよいのかなあと思います。その際には,基本書で判例の理論的位置づけを確認しながら読むことが重要です。

7刑事訴訟法

<択一>

 アルマとアルマに出てくる条文,百選

<論文>

 授業の復習,法学教室の酒巻連載,演習刑事訴訟法

→刑事訴訟法でも,理論的な精巧さよりも,事案の特殊性にどれぐらいくらいつけるかがとても重要なようです。判例の事案との違いを意識しながら,丁寧に事実を摘示して評価を加えることが必要なようです。                    以上