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最高裁平成24年11月6日第二小法廷決定

 最高裁平成24年11月6日第二小法廷決定(最高裁HP)は,傷害罪の共同正犯の成立範囲について以下のとおり判示しました。
1 法廷意見(抜粋)
 「被告人は,共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については,被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから,傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく,共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ,傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。」
2 千葉勝美裁判官の補足意見(抜粋)
 ⑴ 「一般的には,共謀加担前後の一連の暴行により生じた傷害の中から,後行者の共謀加担後の暴行によって傷害の発生に寄与したことのみを取り出して検察官に主張立証させてその内容を特定させることになるが,実際にはそれが具体的に特定できない場合も容易に想定されよう。その場合の処理としては,安易に暴行罪の限度で犯罪の成立を認めるのではなく,また,逆に,この点の立証の困難性への便宜的な対処として,因果関係を超えて共謀加担前の傷害結果まで含めた傷害罪についての承継的共同正犯の成立を認めるようなことをすべきでもない。」
⑵ 「承継的共同正犯において後行者が共同正犯としての責任を負うかどうかについては,強盗,恐喝,詐欺等の罪責を負わせる場合には,共謀加担前の先行者の行為の効果を利用することによって犯罪の結果について因果関係を持ち,犯罪が成立する場合があり得るので,承継的共同正犯の成立を認め得るであろうが,少なくとも傷害罪については,このような因果関係は認め難いので(法廷意見が指摘するように,先行者による暴行・傷害が,単に,後行者の暴行の動機や契機になることがあるに過ぎない。),承継的共同正犯の成立を認め得る場合は,容易には想定し難いところである。」


3 検討

  本決定は,いわゆる承継的共同正犯に関する初の最高裁判決であり,加担前の傷害結果の承継を否定しました。

  強盗罪や詐欺罪等について承継的共同正犯を否定する趣旨ではないと思われます(この点は,千葉補足意見が説明しているところです。)。

  なお,同時傷害の特例(刑法207条)との関係については触れられていません(大阪地裁平成9年8月20日は,承継を否定しつつ,刑法207条により加担前の傷害も含めて傷害罪の共同正犯の成立を認めました。)。

 弁護士としては,千葉補足意見も含めて一読しておくべきだと思います。