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定期金賠償

 交通事故損害賠償において一般的に用いられる一時金賠償方式では,中間利息を複利計算で控除して現在価値を計算する(ライプニッツ方式)ことから,賠償額が低額すぎるという印象を持つ事案もあります。

 したがって,定期金賠償によるべきという考え方が成り立ちます(なお,民事訴訟法117条は,定期金賠償を前提とした規定です。)。

 最高裁平成8年4月25日判決(貝採り事件)は,「労働能力の一部喪失による損害は,交通事故の時に一定の内容のものとして発生しているのであるから,交通事故の後に生じた事由によってその内容に消長を来すものではな」いとして,被害者が事故とは無関係の別原因によって死亡した事案について,死亡後の逸失利益の賠償を否定した原判決を破棄しました。

 一方で,最高裁平成11年12月10日判決は,「介護費用の賠償については,逸失利益の賠償とはおのずから別個の考慮を必要とする。・・・介護費用の賠償は,被害者において現実に支出すべき費用を補てんするものであり,判決において将来の介護費用の支払いを命ずるのは,引き続き被害者の介護を必要とする蓋然性が認められるからにほかならない。」として,被害者死亡後の介護費用の賠償を否定しました。

 最高裁は,交通事故による損害の内,消極損害については,事故時に一定の内容として確定的に発生していると理解しており,介護費用のような積極損害については将来にわたって継続的に発生するものと考えているようです。

 そのような理解を前提とすると,定期金賠償は,理論的には,消極損害については事故時に確定的に発生した債務の分割弁済という位置づけになり,将来の積極損害については本来の賠償の方法といえることになります。

 なお,大阪地裁交通部では,原告(被害者)の希望があり,被告においてその枠組みを拒否しなかった場合に提示しているとのことですが(判タ1381号83頁),東京地裁平成24年10月11日判決は,遷延性意識障害の被害者の将来介護費用について,被害者が一時金賠償を,加害者が定期金賠償を主張した事案で,定期金賠償方式によることを認めました(自保ジャーナル1883号1頁)。

 その他,被害者が一時金賠償方式を求めている場合に定期金賠償方式による支払いが命じられた例として東京高判平成15年7月29日,被害者の相続人が死亡逸失利益について定期金賠償方式を求めている場合に否定された事例として東京高判平成15年10月29日があります。

 弁護士として,定期金賠償を求めるべきか迷うこともあります。

(参考文献)

 窪田充見「定期金賠償の課題と役割」ジュリスト1403号54頁