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税理士・公認会計士だった会計限定監査役の任務懈怠について判断した最高裁令和3年7月19日判決の一審千葉地裁の判断

 最高裁令和3年7月19日判決は、会計限定監査役だった税理士、公認会計士の任務懈怠を否定した東京高裁判決を差し戻しました。

 弁護士としては、任務懈怠の判断に関する最高裁と草野補足意見をまずは確認しておくべきですが、当該会計限定監査役の任務懈怠を認めた一審千葉地裁の判断の内、任務懈怠、過失相殺の判断が特徴的なので、引用して紹介します。

1 任務懈怠

「〔1〕原告のように会計監査人が設置されていない会社においては、監査役の会計監査における資産の実在性に関する監査の重要性が極めて高いこと、〔2〕被告は、公認会計士及び税理士としての専門的能力を買われて監査役に選任されており、より高い水準の善管注意義務を負っていたことに加えて、〔3〕「中小会社・ベンチャー企業の監査役業務とQ&A〔3訂版~6訂版〕」においては、現金預金の残高を監査する大事なポイントは正の残高証明とチェックすることであり、絶対にコピーとチェックしてはならず,その理由として、コピーは一見信用できそうにみえるが、改ざんされていることがあること等が指摘されていること(前記認定事実(3)カ参照)、〔4〕「監査役監査の基本がわかる本」においては、貸借対照表の現金及び預金の監査における留意点として、預金は、流動性が高いことから不正リスクは高い等と指摘されていること(前記認定事実(3)ク参照)、〔5〕「実務解説監査役監査」においては、会計監査人が非設置の場合や監査範囲が会計監査に限定されている会社では、実査・確認による手続のウエイトが比較的高くなること等が指摘されていること(前記認定事実(3)ケ参照)、〔6〕残高証明書の原本確認は通常容易なはずで(本件でも、被告は原告に赴いて監査を実施していたのであるから、原本を一時的に借り出すことは容易であった。)、たまたま別の用途に用いられている場合でも、例えば本件サービスを利用してその場で残高照会を行うことによる確認も考えられることなどを併せ考えれば、被告は、原告の会計監査の際に丙川から提供される本件口座の残高証明書の実査に当たって、預金の不正リスクが相対的に高いことを念頭に置き、提供された本件口座の残高証明書が写しの場合には、残高証明書の原本又は当座勘定照合表の原本の提示を求めるべき注意義務を負っていたと認められる。したがって、被告及びその補助者である丁田は、提供された本件口座の残高証明書が明らかに写しであることを認識しながら、丙川に対し、残高証明書の原本又は当座勘定照合表の原本の提示を求めることが容易であるにもかかわらず、これらを怠り、漫然と、残高証明書の写しを実査する方法のみで本件口座の預金の実在性を監査しており、本件各横領行為に関する被告の任務懈怠が認められる。」

2 過失相殺

「監査役が、その任務を怠り、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う場合に、取締役も会社に対し責任を負うときは、両者は連帯して会社に対し責任を負うものであり、両者の債務の関係は不真正連帯債務となるから(会社法430条)、原告と被告との関係においては、原告の取締役である原告代表者及び戊原の過失に基づき、過失相殺を認めることはできない。換言すると、本件では、被告と原告代表者及び戊原は、原告に対して共同不法行為者に準じる地位にあるから、後者を被害者側の者とみなすことはできない。また、このような場合に過失相殺を認めることは、本件で何ら責めのない会社債権者の債権の引き当てとなる会社財産を毀損する結果となるおそれがあり、相当でない。なお、被告と原告代表者及び戊原の責任の分担については、被告において、原告代表者及び戊原に対し求償することによって解決を図るほかないというべきである。」

3 その他の判示事項

⑴ 原告の会社は、定款に監査役の監査範囲を限定する旨の定めはなかったが、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律1条8号による廃止前の株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律1条の2第2項所定の小会社で、かつ、公開会社でない株式会社であったことから、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款に定めているとみなされている(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律53条)。

⑵ 横領行為の発覚後、横領した社員は懲戒解雇ではなく諭旨解雇されている。また原告である会社から損害賠償請求訴訟を提起された直後に死亡しており、訴えが取り下げられている。

⑶ 年額36万円の監査役としての報酬について、地裁は「監査役就任当時の物価を前提とすれば、必ずしも低額ではない」と評価し、東京高裁は「平成20年前後における年額36万円(月額3万円)は、公認会計士の専門知識を生かした本格的な監査の報酬としては非常に低額である」と評価し、報酬の点は、善管注意義務の水準を通常と異なるものと評価すべき根拠とならないと判示している。