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課税処分に関する不服申立前置主義

 課税処分を争う取消訴訟を行うには、再調査の請求、審査請求の手続きを経る必要がある不服申立前置主義が採用されています。

 不服申立前置主義制度を採用することにより、裁判上の救済遅延が生じることは否定できませんが、3か月経過しても裁決がなされない場合には裁判所に訴訟提起することができること(国税通則法115条1項1号)等や、不服申立手続きを経た後の裁判所に対する訴訟提起を行うことを認めていることから、一般に憲法32条に違反しないと考えられています。

 不服申立前置主義を採用せず、自由選択主義を採用すると、いきなり裁判所に訴訟を提起する納税者も相当程度存在することは容易に想像できます。

 このことは、不服申立手続きによって解決することができた争訟や、不服申立手続きによって解決に至らなくても効率的な争点整理ができていたはずの争訟がいきなり裁判所に持ち込まれることを意味し、裁判所の負担が増大することになります。

 租税に関する争訟は、複雑かつ専門的であり、租税法に精通した知識や実務経験を積んだ人材により裁判の前に審理を行わなければ、裁判所が注力するべき事件・論点に時間を割くことができず、国全体としての紛争解決の効率が著しく低下することも考えられます。

 租税に関する争訟が現実に大量に発生していることや、審査請求を審理する国税不服審判所は、国税庁の特別の機関として、執行機関である国税局や税務署から分離された別個の機関として設置されており、また、税理士や弁護士、公認会計士などの民間の専門家も採用されていること、また、課税処分の根拠となった法令の解釈や通達が問題となる場合、国税不服審判所長があらかじめ国税長官に意見を通知して通達と異なる裁決をすることができる制度(国税通則法99条)もあるなど、中立公正な判断が一定程度期待できると考えられます。

 不服申立手続きにより最終的に解決がなされない場合も当然ありますが、不服申立手続きにおいて行われた争点整理により、裁判所は、効率的な審理を行うことができ、裁判所の負担軽減につながることになります。