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刑の一部執行猶予

 刑の一部執行猶予制度は平成28年6月から施行されています。

 刑の一部執行猶予制度は、言い渡された実刑期間のうち、一定期間を執行して施設内処遇した上で、残りの期間の執行を猶予し、相応の期間執行猶予の取消しによる心理的強制の下で社会内処遇により更生をうながすことによりその者の再犯防止、改善更生を図る制度とされています。

 実刑と(全部)執行猶予の中間ではなく、実刑の一種という理解が正当ともされています。

 刑法27条の2第1項は、「再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」と定めていますが、①施設内処遇及び仮釈放のみでは再犯の抑止が困難な被告人について、②仮釈放の期間を超えて行う再犯抑止に有用な社会内処遇が具体的に想定でき、③その実効性期待できる場合に、必要性・相当性を肯定できるとされています。

 弁護士としては、依頼者である被告人の意向も踏まえつつ、法律上は全部執行猶予を付すことができる場合でも、一部執行猶予を意識した弁護活動が求められる場合があるといえるでしょう。

 

 

 

刑法
(刑の一部の執行猶予)
第二十七条の二 次に掲げる者が三年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
 前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。
 前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき懲役又は禁錮があるときは、第一項の規定による猶予の期間は、その執行すべき懲役若しくは禁錮の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。
(刑の一部の執行猶予中の保護観察)
第二十七条の三 前条第一項の場合においては、猶予の期間中保護観察に付することができる。
 前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
 前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、第二十七条の五第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。
(刑の一部の執行猶予の必要的取消し)
第二十七条の四 次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十七条の二第一項第三号に掲げる者であるときは、この限りでない。
 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられたとき。
 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとき。
 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき。
(刑の一部の執行猶予の裁量的取消し)
第二十七条の五 次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
 第二十七条の三第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき。
(刑の一部の執行猶予の取消しの場合における他の刑の執行猶予の取消し)
第二十七条の六 前二条の規定により刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の禁錮以上の刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならない。
(刑の一部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
第二十七条の七 刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その懲役又は禁錮を執行が猶予されなかった部分の期間を刑期とする懲役又は禁錮に減軽する。この場合においては、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行を受け終わったものとする。
薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律
(趣旨)
第一条 この法律は、薬物使用等の罪を犯した者が再び犯罪をすることを防ぐため、刑事施設における処遇に引き続き社会内においてその者の特性に応じた処遇を実施することにより規制薬物等に対する依存を改善することが有用であることに鑑み、薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関し、その言渡しをすることができる者の範囲及び猶予の期間中の保護観察その他の事項について、刑法(明治四十年法律第四十五号)の特則を定めるものとする。
(定義)
第二条 この法律において「規制薬物等」とは、大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)に規定する大麻、毒物及び劇物取締法(昭和二十五年法律第三百三号)第三条の三に規定する興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する毒物及び劇物(これらを含有する物を含む。)であって同条の政令で定めるもの、覚醒剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)に規定する覚醒剤、麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)に規定する麻薬並びにあへん法(昭和二十九年法律第七十一号)に規定するあへん及びけしがらをいう。
 この法律において「薬物使用等の罪」とは、次に掲げる罪をいう。
 刑法第百三十九条第一項若しくは第百四十条(あへん煙の所持に係る部分に限る。)の罪又はこれらの罪の未遂罪
 大麻取締法第二十四条の二第一項(所持に係る部分に限る。)の罪又はその未遂罪
 覚醒剤取締法第四十一条の二第一項(所持に係る部分に限る。)、第四十一条の三第一項第一号若しくは第二号(施用に係る部分に限る。)若しくは第四十一条の四第一項第三号若しくは第五号の罪又はこれらの罪の未遂罪
 麻薬及び向精神薬取締法第六十四条の二第一項(所持に係る部分に限る。)、第六十四条の三第一項(施用又は施用を受けたことに係る部分に限る。)、第六十六条第一項(所持に係る部分に限る。)若しくは第六十六条の二第一項(施用又は施用を受けたことに係る部分に限る。)の罪又はこれらの罪の未遂罪
 あへん法第五十二条第一項(所持に係る部分に限る。)若しくは第五十二条の二第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪
(刑の一部の執行猶予の特則)
第三条 薬物使用等の罪を犯した者であって、刑法第二十七条の二第一項各号に掲げる者以外のものに対する同項の規定の適用については、同項中「次に掲げる者が」とあるのは「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成二十五年法律第五十号)第二条第二項に規定する薬物使用等の罪を犯した者が、その罪又はその罪及び他の罪について」と、「考慮して」とあるのは「考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第一項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが」とする。
(刑の一部の執行猶予中の保護観察の特則)
第四条 前条に規定する者に刑の一部の執行猶予の言渡しをするときは、刑法第二十七条の三第一項の規定にかかわらず、猶予の期間中保護観察に付する。
 刑法第二十七条の三第二項及び第三項の規定は、前項の規定により付せられた保護観察の仮解除について準用する。
(刑の一部の執行猶予の必要的取消しの特則等)
第五条 第三条の規定により読み替えて適用される刑法第二十七条の二第一項の規定による刑の一部の執行猶予の言渡しの取消しについては、同法第二十七条の四第三号の規定は、適用しない。
 前項に規定する刑の一部の執行猶予の言渡しの取消しについての刑法第二十七条の五第二号の規定の適用については、同号中「第二十七条の三第一項」とあるのは、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第四条第一項」とする。