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退職の意思表示の有効性判断に,いわゆる「自由な意思」の判断枠組みは適用されるか

 労働者に不利益な労働条件変更がなされた場合に有効になるためには,労働者の単なる同意ではなく、「自由な意思に基づく同意」を要求する一連の最高裁判例があります。

 まず退職金債権放棄の意思表示について,「それが上告人の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならない」と判示し結論として有効性を肯定したシンガー・ソーイング・メシーン事件です。

 次に、均等法9条3項で禁止される妊娠等を理由とする不利益取扱いに当たる降格について労働者が承諾した場合の効力が問題になった事案で,禁止される不利益取扱いに該当しない場合として,「当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」と判示し結論として否定した,広島中央保健生協(C生協病院)事件があります。

 退職金規程の不利益変更について,「労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,……当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべき」と判示した山梨県民信用組合事件があります。

 退職については,原則として労働者が自由にできるという意味では,上記裁判例で問題となった法律上の規制がないことから,「自由な意思」に基づく判断がなされたかという厳格な審査を要しないのではないかという考え方も十分成り立つと考えられます。

 相談にのる弁護士としては、仮に「自由な意思」に基づくかの判断枠組みを採用する場合には、理論的には、退職の意思表示の瑕疵との関係についても整理しておく必要があると思います。