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副業先や前勤務先の労働時間との通算と実務上の対応

1 厚生労働省から,「改正労働基準法に関するQ&A」が公表され,転勤や転職をした労働者に対して,時間外労働の上限規制がどのように適用されるかが示されました。

 大企業に対して4月1日から適用されている(中小企業に対しては令和2年4月1日から適用)新しい時間外労働の上限規制は,以下の3つとなっています。

① 36協定により延長できる時間の限度時間(月45時間,年360時間)

② 36協定に特別条項を設ける場合の1年の延長時間の限度(年720時間)

③ 時間外労働と休日労働の合計で,単月100時間未満,2~6か月平均80時間以内(なお,2~6か月の期間には,新しい上限規制の適用開始前の期間は含まれません。)

「Q&A」では,同一企業内のA事業場からB事業場へ転勤した労働者について,①と②は,事業場における36協定の内容を規制するものであるから通算されず,③は労働者個人の実労働時間を規制するためのものであり,通算して適用されるとされています。

また,質問の文中ではありますが,「副業・兼業や転職の場合,休日労働を含んで,1か月100時間未満,複数月平均80時間以内の上限規制が通算して適用されることとなりますが,」と明記されており,③の上限規制が通算して適用されるのは,転勤に限らず副業・兼業や転職の場合にも及ぶことも明らかにされています。

2 使用者としては,同一企業内で管理可能な転勤はともかく,副業・兼業や転職の場合に副業先や前の勤務先での労働時間を把握する必要があることになりますが,どのように把握するかが大問題です。

 「Q&A」では,現実的に副業先や前の勤務先から労働時間についての回答を得ることは困難であるため,「労働者からの自己申告により把握することが考えられる」としています。

 例えば採用面接の際に応募者が,前の勤務先で月80時間を超える時間外労働,休日労働を行っていたと申告した場合,採用する会社側としては,時間外労働,休日労働を極力制限したとしても,前の勤務先の時間外労働,休日労働を通算すると「2~6か月平均80時間」を超過する可能性があり,前職を退職後からある程度の期間を空けて採用する,採用をあきらめる等を考えなければなりません。

 また,採用された労働者が,採用面接の際に前の勤務先での時間外労働,休日労働を過少に申告していた場合,前の勤務先と現在の勤務先を通算すると上限規制に違反している,という事態も想定されます。

 さらに,応募者が前の勤務先での時間外労働の時間が分からない,あるいは,あいまいな回答をするような場合には,どの程度まで調査をすればよいのかについても非常に悩ましい事態が考えられます。