危険負担の履行拒絶権構成
改正民法では、危険負担の法的効果として、債権者の債務の消滅(当然消滅構成)ではなく、反対給付についての履行拒絶の抗弁権を定めています(536条1項)。
一方の給付が滅失・毀損した場合でも、反対債務は消滅せず、相手方から反対債務の履行を求められた場合に履行拒絶ができるのみということになります。
解除されない限りは、反対債務は存続することから、反対債務をすでに履行している場合の返還の根拠については条文上明確でないことは確かです。
履行拒絶権が永久的な抗弁であり請求棄却判決が導かれることから、不当利得返還請求権を肯定する見解も有力となっていますが、債権の最低限の効力として説明されてきた「給付保持力」のない債権を民法上認めることになるという指摘もあります。
改正民法では、解除権行使の要件として債務者の帰責事由は不要とされたことから、当事者双方の責めに帰さない事由による履行不能の場合には、民法542条の無催告解除を主張することができ、債務の消滅と原状回復義務が発生するという意味では、非常に明確です。
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