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受託者と任意後見人の兼任の是非

 高齢者の財産管理や財産承継対策として家族信託を検討するべき場面が増えてきましたが,信託の設定のみですべての場面に対応が可能な場合はむしろ例外的であり,例えば,身上監護の観点から任意後見の併用をするべき場合もあります。

 信託に加えて任意後見の併用を行う場合には,受託者と任意後見人の兼任が可能なのか,適切なのかについて悩ましい事案もあります。

 受託者が受益者に対して給付を行う行為は受託者と受益者との間で利害は一致していることから,受託者と任意後見人が同一人物であっても直ちに利益相反になるわけではなく,ほかに適任者がいない場合には受託者と任意後見人を兼任せざるをえない場合もありますし,受託者と任意後見人の兼任により効率的な事務処理が可能という点を指摘できる一方で,受託者兼任意後見人に対する監督が不十分となり,濫用の恐れに適切に対応できないことも考えられます。

 受託者は受益者代理人にはなれないことが信託法144条・124 条2号に規定されていますが,任意後見人の法律上の位置づけとしては受益者の代理人に準じる立場といえるのであり,兼任するべきかについては慎重にするべきとはいえます。

 なお,兼任しない場合に,受託者と任意後見人の方針が一致せず,デッドロックになりうる場面(信託財産の自宅不動産を売却して施設に入所する時期など)も想定されることから,信託を提案する弁護士としては,事案ごとの検討が求められることは間違いないと思います。