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任意後見契約の意義・概要

  任意後見契約とは、委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいいます。

 判断能力がすでに低下している者を対象とするのが法定後見制度であるのに対し、任意後見制度は、判断能力が低下していない段階に判断能力が低下した時に備えてあらかじめ準備しておく制度であり、契約は公正証書によること、任意後見監督人を通じて監督が行われること、委任者が精神上の障害により判断能力が不十分となった時に任意後見監督人が家庭裁判所により選任されることにより契約の効力が生じることが特徴といえます。

 任意後見契約のみを締結し判断能力低下後に任意後見人が活動する将来型、通常の任意代理の委任契約と任意後見契約を締結し本人の判断能力低下前は前者の任意代理契約に基づいて財産管理を行い判断能力低下後は任意後見契約に移行する移行型、任意後見契約と同時に任意後見監督人の選任の申立を同時に行う即時型があります。

 「精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあること」という実体要件から、補助・保佐・後見に該当する者すべてについて、任意後見監督人を選任できることになります。

 任意後見監督人が選任された本人が実質的に被保佐人や被後見人の状況にあっても、法律上の欠格事由(取締役に関する会社法331条1項2号など)に該当しないという点がメリットとして挙げられることもあります。

 一方で,任意後見契約は代理権の授与であり契約が発効しても本人の行為能力に制限はないことから,効力発生後に消費者被害にあったとしても判断能力の低下を理由に取消しをすることができない点はデメリットといえるでしょう。

 任意後見契約が登記されている場合には任意後見監督人の選任の前後を問わず原則として法定後見開始の審判をすることができないこと、法定後見の開始を受けている本人について任意後見監督人の選任申立がされた場合には原則として任意後見監督人を選任して法定後見開始の審判は取り消されることになります(前者につき任意後見法10条1項、後者につき任意後見法4条1項2号・2項)。