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所得の人的帰属における法律的帰属説の限界

 所得税の納税義務が発生する前提として、その所得が個人に帰属していることが大前提となります。

 所得と納税義務者のこうような結びつきを、所得の人的帰属とよんで議論されています。

 所得税法12条は、「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。」と定めています(いわゆる実質所得者課税の原則)。

 この規定の趣旨については、私法上の法律関係に即して人的帰属を決めるべきとする法律的帰属説と、私法上の法律関係からは離れて経済的実質によって人的帰属を決めるべきとする経済的帰属説の考え方が成り立ちますが、安定性の観点から、法律的帰属説が通説とされています。

 しかしながら、「所得」という経済的概念を私法上の概念から決めるという時点で、ずれが生じることは容易に想定されますし、私法上の概念自体に争いがあったり(私法は租税法に比べてはるかに自由な解釈が行われているという指摘もあります。)、私法上の議論と租税法上の議論が解決を想定している内容がそもそも異なるということもあり、慎重な検討が必要となります。