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非嫡出子(婚外子)相続分違憲判決~違憲判決と法的安定性

 最高裁大法廷は,遂に民法900条4号ただし書の非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分(以下,「本件規定」といいます。)が,「遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していたものというべきである。」と判断しました(→最高裁HP。平成13年7月は,本事件の相続が開始した年月です。)。

 弁護士としては他事件への影響が気になるところですが,本決定は,「4 先例としての事実上の拘束性について」の項目を設けて,著しく法的安定性を害することを避けるべきとの観点も踏まえ,本決定の違憲判断は,本事件の相続が開始した平成13年7月から本決定までの間に開始された他の相続については,本決定で違憲無効とされた本件規定を前提としてされた遺産分割の審判等により確定的となった法律関係には影響を及ぼさないとしました。

 金築裁判官は,補足意見で,法適用の平等の観点から本事件の相続開始時以降に相続が開始した他事件についても,「本決定の違憲判断の効果は,遡及するのが原則である」と述べつつ,「しかし,・・・憲法14条1項の平等原則が合理的な理由による例外を認めるのと同様に,合理的な理由に基づく例外が許されてよい。」,「本決定の違憲判断により,既に行われた遺産分割等の効力が影響を受けるものとすることが,著しく法的安定性を害する」,「遡及効の制限をするのは,違憲判断の及ぶ範囲を限定しようというものであるから,違憲審査権の謙抑的な行使と見ることも可能であろう」等と述べ,さらに,「この点に関する判示は,・・・単なる傍論と評価すべきではない。」と述べられています。

 また,千葉裁判官は,同じく補足意見で,「本件遡及効の判示は,いわゆる傍論(obiter dictum)ではなく,判旨(ratio decidendai)として扱うべきものである。」,と述べたうえで,「違憲判断の遡及効の有無,時期,範囲等を一定程度制限するという機能,すなわち,立法が改正法の附則でその施行時期等を定めるのに類した作用も,違憲審査権の制度の一部として当初から予定されているはずであり,・・・憲法は,これを違憲審査権の行使の司法作用としてあらかじめ承認しているものと考えるべきである。」等述べられています。

 ざっくりまとめると,

① 平成13年7月時点で本規定は違憲無効である。

 ↓ したがって

② 少なくともその時点以降に開始した相続については,本決定の効力を遡及させて,本規定が違憲無効であることをを前提とした相続分とするべきである。

 ↓ しかしながら,

③ それを貫くと法的安定性を著しく害する。

 ↓ したがって,

④ 本規定を前提に既に確定している事件については本決定の効力は遡及しない(させない)。