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侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合における刑法36条の急迫性の判断方法(最高裁平成29年4月26日決定)

 正当防衛,過剰防衛が問題となり,結論として適用を否定した最高裁判例です。

 一般論として,まず,「刑法36条は,急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保 護を求めることが期待できないときに,侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものである。」と述べています。

 その上で,

「行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合,侵害の急迫性の要件については,侵害を予期していたことから,直ちにこれが失われると解すべきではなく(最高裁昭和45年(あ)第2563号同46年11月16日第三小法廷判決・刑集25巻8号996頁参照),対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきである。

 具体的には,事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相当性,対抗行為の準備の状況(特に,凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等),実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同,行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し,行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだとき(最高裁昭和51年(あ)第671号同52年7月21日第一小法廷決定・刑集31巻4号747頁参照)

など,前記のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には,侵害の 急迫性の要件を充たさないものというべきである。 」と判示しています。

 具体的なあてはめとして,

「被告人は,Aの呼出しに応じて現場に赴けば,Aから凶器を用いるなどした暴行を加えられることを十分予期していながら,Aの呼出しに応じる必要がなく,自宅にとどまって警察の援助を受けることが容易であったにもかかわらず,包丁を準備した上,Aの待つ場所に出向き,Aがハンマーで攻撃してくるや,包丁を示すなどの威嚇的行動を取ることもしないままAに近づき,Aの左側胸部を強く刺突したものと認められる。」

として,侵害の急迫性の要件を充たさず,正当防衛も過剰防衛の成立も否定しています。